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ワクチンデマに対するメディア対応とそれに追随するソーシャルネットワーク

 新型コロナワクチン接種が進むにつれて、医学的に正しくない、科学的に証明されていない、いわゆる「デマ」がSNSを中心として拡散している傾向があります。またその中には科学者や医師も散見されることからさらなる混乱を招いていることも事実です。特に副反応に関する情報は健康であった自身の体に異変が起こる可能性となる訳ですので、マイナスの情報はより修飾されて拡散していく傾向があると考えられます。このような事態に河野太郎大臣は自身の公式サイトで正しい情報を発信しています。

 新型コロナに関するこれまでにもみられたいわゆる「デマ」は2つのタイプに分かれると思います。しかしながらこれまでに前例のないワクチンであることから完全に否定しきれないことが少なくはないことも事実ですので、「デマ」とは言い切れない現段階では誰にもわからないこともある訳です。

① 医学的にありえない・誤っている内容

 これまで実用化されているワクチンには生ワクチン・不活化ワクチンなどが代表的ですが、生ワクチン(麻しん・風しん・水痘・おたふく風邪・黄熱など)は実際の病原体を弱毒化して製剤にしているので、その感染症に軽くかかったような副反応が出ることがあります。特に黄熱ワクチンは接種後数日してから高熱が出ることが多く、私は1日中寝込んでいたことを記憶しています。不活化ワクチンは病原体を処理(無毒化)して免疫をつけるために必要な成分を取り出して製剤にしているので、その感染症になることはあり得ません。新型コロナワクチンはm-RNAワクチンというこれまでに実用化されていなかったタイプのワクチンで、病原体の遺伝情報(ウイルスRNA配列)を化学合成した断片を製剤にしているので病原体は使用しておらず、これもまたその感染症になることはあり得ません。 

 mRNAの分子は非常に分解されやすく外来タンパク質を産生した後にmRNAは細胞内で分解されます。合成されたmRNAの断片はウイルスの抗原を構築するための指示を運ぶウイルスRNAの特定部分のコピーでありDNAとは無関係ですので、mRNAワクチンが細胞内のDNAに影響を与えたり、再プログラムするようなことはありません。

②可能性はゼロとは言い切れないが限りなくゼロに近い内容

 一般的にワクチンの副反応は接種後数日以内に出現するものが最も因果関係が高いと判断されます。体に入った異物に対する免疫反応が年単位で起こり得ることは通常では考えにくく、さらには時間が経過すればするほどその有害事象がワクチンによって引き起こされたのかどうかを実証することが難しくなるからです。もし実証するのであれば、一定の年数が経過した段階で、接種した群と接種しない群での統計学的解析を行い、有意差が出れば可能性があると言えるかもしれませんが、その間に起こり得る多くの交絡因子(バイアス)を差し引いて考えなければなりません。特に不妊など多くの交絡因子が関連する事象に関して因果関係を実証することは、多くの症例を集め統計学的に大きな有意差が出ない限り検証することは困難でしょう。それよりもこれまでのワクチンの有害事象の事例からしても、ワクチンで起こること自体、限りなくゼロに近いと言えます(が、ゼロとは言い切れないところが難しいところです)。

 他の要因として、接種手技の誤り(接種部位、穿刺の深度など)により神経損傷などが起こってしまった場合には後遺症として長期に有害事象が残る可能性があるかもしれません。これは明らかに製剤によるものではなく人的なものですが、それを検証することは接種した瞬間を録画でもしていない限り不可能です。またその責任を問うこともできません。

現段階ではまだわからない内容

 ワクチンが実用化されてから1年近くが経過し、ある程度の事例が集積されてきている中でわかってきた事実は少なくはありません。しかしながら、これから多くの人々が接種を行い、月日が経過してから起こり得る有害事象は現段階では誰にもわからないのが事実です。それならば「すべてわかるまでは接種しない」という意見もありでしょう。本来であればすべての医薬品は日本人での十分な治験を終了したうえで承認されるのが通常ですが、そのステップが短くなっていることも事実です。

 ワクチン接種のあり方を考える時には、常にメリットとデメリットを天秤にかけたうえでメリットの方がはるかに高いということが明確であることが接種を推奨する条件になります。メリットとしては予防効果ですが、新型コロナワクチンは高い確率で中和抗体が獲得でき、重症化だけではなく罹患することを防ぐ可能性も高いことが海外ならびに国内でも実証されつつあります。デメリットは副反応ですが、局所の副反応が中心であり、一部全身の副反応も認められますが1-2日で回復し、重篤なものはきわめて低いことからメリットの方がはるかに高いと考えられます。仮にワクチンを接種せずに新型コロナに罹ったとすれば(軽症の場合もありますが)、数日間の高熱、遷延する味覚嗅覚障害などが起こる可能性はかなり高く、ワクチンを接種した場合の重篤な副反応の可能性のようにきわめて低いということにはなりません。ワクチンによる可能性の低い長期的な副反応よりも罹患したことによる長期的な後遺障害あるいは死亡する可能性の方が高いことはおわかりいただけるかと思います。

 メディア対応のあり方

 これまで何度か新型コロナワクチンの副反応に関するコメントを求められましたが、上述のとおり「明らかに誤っていること」や「限りなくゼロに近い」ことに対してはある程度正しく説明できますが、長期的なこと、実証されていないこと、検証途中であることに関しては「わからない」としか言いようがありません。そのようなことは一般国民でもわかっていることなのに、わざわざ専門家を呼んでまで「わからない」と言わせたいのでしょうか?その疑問を返すと「専門家にわからないと言ってもらうことに意味がある」というように言われるのですが、そうすることによってさらに不安を煽ることにも繋がると思うのです。

 さらにSNS上では「わからない」と言えば「誰でも言えるコメントだ」、「可能性は低い」と言えば「専門家はいつも可能性とばかり言って逃げている」、「可能性はないと思う」と言えば「現段階でそんなことが言い切れるのか」等々、上述のことを踏まえて説明しているにもかかわらず誹謗中傷の連続です。私から申し上げれば、医師になって20年以上ワクチン接種に携わり、専門分野として多くの研究を行い論文を執筆した上での知見や経験をお話しているにもかかわらず、たかが数か月のネット情報などによって知識を得た人間にコメントされるのもおかしな話だと思いませんか?このようになることはわかっていることなのに、メディアは何故このような話題を取り上げるのかとても疑問に感じています。

#日経COMEMO #NIKKEI

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