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夢を語ろう。ものづくりの匠と共に未来を拓け!

これまでの人生の中で、日本のものづくりにたくさん触れてきた。凄腕の匠のいる町工場にも数多く足を運んだ。彼ら彼女らが生み出す作品は、機能性の高さはもちろんだが、芸術、魔法と言っても良いほどに美しく魅力的だ。そこには人の創意工夫やこだわりが幾重にも連なり、結晶化している。そんな日本のものづくりはとても好きだし、人が生きているこの社会にとって、なくてはならない存在だと思う。

ところが、この10年、日本のものづくりは大丈夫か。日本の社会では、こうした声が多くあがっていた。これまで強みとされてきた品質においても、問題が顕在化している。現場の疲弊も伝わってくる。このあたりでリセットして、本来の姿に回帰しなくてはいけないような気がしている。幸い、現場にはまだまだ挑戦の魂は息づいていて、自律的に、能動的に知恵を巡らせ、新たな価値を生み出している人たちが沢山いる。そうした人たちに光を当てて、増やし、大きなうねりにしていきたいと考えている。

例えば、パラアルペンスキーのチェアスキー。高剛性で軽量というのが絶対条件だ。速さを求める選手の情熱と探究心に、系列や業種の枠を超えてものづくりの匠たちがチームを結成した。フレーム、サスペンション、カウル、シートなど、50人のエンジニアが参画して、人機一体を実現すべく知恵を絞った。車両開発に使うコンピューター解析ソフト、モーションキャプチャなどデジタルの最新技術も駆使して作り込みを続けた。選手と共に挑んだ北京オリンピックでの結果は銀。次のイタリア大会では更なる高みを実現してくれると信じている。

次の例は、ビジネスに不可欠な革靴の話だ。西洋式の靴で、日本では明治時代から作られるようになったという。それから150年が経て、いま日本旋風が吹き荒れているというのだ。昨年のイギリスの世界的な靴職人コンクールでは、1位から3位まで日本人が独占した。それどころか、10位以内に日本人が6組も入るという快挙なのだ。細部までの丁寧な作り、連続した曲線から生み出される美しさ。100時間以上という途方も無い時間、32枚もの皮を重ねて作ったかかとの湾曲。なんとも想像を絶する。

日本の職人は、欧州より「好き」の度合いが深く、労を惜しまないという。英国やイタリアといった本場で、継承の危機にあった技術を貪欲に吸収した。好きこそ物の上手なれ。日本人はこの部分が圧倒的なのだと思う。これだと思った時の突き抜ける力。こうした力が発揮できる現場を復活させ、育んていきたいと思った。

生き生きとした現場。そんなことを考えている時に目に留まったのが、大隈鉄工所(現オークマ)だ。「ないものは創る」がオークマの哲学。のびのびとした社風で、実績はなかった私の意見も聞いてくれました。数人のチームを組んで、寝食を惜しんで開発に没頭し、世界初のCNC装置を生み出した現相談役、花木氏の言葉だ。「日本のものづくりは目標に向かい、まい進する知恵や努力は素晴らしいものがあります」と称賛する。その一方で、「自ら目標を決めることには戸惑っているようにも感じます」と、自信をもってストレッチした目標を自ら掲げ、それを成し遂げることの重要性を説いている。

では、現在どんな分野で日本のものづくりの競争力があるのだろうか。そんな問いをノンフィクション作家の山根氏がわかりやすく整理している。ものづくりを、①8年消費財(白物家電、パソコン、スマホなど)②8年超消費財(住宅、家具など)③単寿命消費財(百円ショップの品々)④インフラ系(土木建築、半導体、医薬品、ハイテク技術など)の4つに分けて、日本の強みは①と④だと語っている。①の代物家電やスマホなどでは確かに完成品における競争力はないが、使用している高度技術部品の多くは日本製で、日本企業は無くてなならない存在だ。

④のインフラ系では、「中小企業を含めて、凄い技術力と潜在力がある」と語る山根氏の言葉にはとても同感だ。原発廃炉作業での地元のエイブルという中小企業の活躍は目を見張るものがあったという。大企業で数年かかると見込んだ撤去作業を、専用ロボットの開発も含めて8ヶ月でやり遂げた。その原動力は「故郷をなんとか元に戻したい」だ。

理化学研究所の事例も素晴らしい。「放射性廃棄物は処理が困難だから原発は駄目」ではなく、「なら半減期を短くしよう」という取り組みだ。放射性廃棄物から発せられる放射能が半分になるまでの期間を短くすることできれば、人類が原発を安全に活用する可能性が広がる。能動的に未来を切り開こうというものづくりの本来のありたい姿を実践している。鉄の2倍の強度と寿命の超鉄鋼、8000メートルまで潜れる有人潜水調査船、3億km離れたところに数cmの精度で降りる小惑星探査機などなど、日本の技術者は様々な快挙を成し遂げてきた。

山根氏は「他の国にまねされたら、日本はその5年先、10年先を行く姿勢が大事です。馬鹿みたいなことをやろうという気概や遊び心を持って欲しい」と話す。若いエンジニアが夢を語る。消費者一人一人が夢をぶつける。それらの夢の実現に向けて、熟練の技術者が会社や業界の枠を超えて、全員で知恵を絞る。そんな現場が日本の至る所に生まれる。そうすれば、現場の熱量は圧倒的に高まり、新たな「ものづくり日本」が始まると思う。いまこそ効率化やルールに汲々ととする現場から、創造生産性に満ちた現場へと転換すべき時ではないだろうか。

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