見出し画像

ポツダムで開催されている「アニメメッセ」とは?

ドイツの首都ベルリンの隣に位置するポツダムでは今夏も大型アニメイベント「アニメメッセ」が開催されました。新興のイベントということもあり日本ではあまり知られていませんが、今年の反響をざっと振り返り、イベントの理念やポツダムで開催する意味について考えてみます。

<お断り>筆者は過去数年にわたり「アニメメッセ」の企画の一部を手伝っています。主催チームには属していませんが、関係者である点はご留意ください。

「アニメメッセ」は正式名称を「アニメメッセ・バーベルスベルク」といい、ポツダムのバーベルスベルク地区で開催されるいわゆるアニメコベンションと呼ばれる、アニメや漫画ファンに向けたステージ/ワークショップ/物販/クリエーターブースなどを備える総合イベントです。

日本貿易振興機構(ジェトロ)は「ビジネス短信」(2024年8月5日付け)で、来場者は2万人を超え、盛況であったとを報告しています。

ベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」も開催直前にアニメメッセを取り上げ、ハイライトは新作アニメ『歴史に残る悪女になるぞ』(今秋放送開始)のワールドプレミア上映会だと紹介しました。

その第一話が初お披露目となった上映会ですが、後日、アニメ公式アカウントが会場の様子をシェアしています。

さらに、イベントのもようはドイツの朝の情報番組で取り上げられるなど、今年のアニメメッセは各方面から注目されていたようです。

そんなアニメメッセでは筆者も現地入りして手伝っていたのですが、気づいたことがありましたので書き出してみます。(ここから本稿の本題です!)

ポツダムは映画産業発祥の地

会場のバーベルスベルクは元々独立した町で映画産業発祥の地として、栄えた歴史があります。特に、映画監督のフリッツ・ラングは1926年にSF映画『メトロポリス』(1927年公開)の製作のために当時欧州最大となる撮影ホールを建設しました。ホールは今も「マルレーネ・ディートリッヒ・ホール」と呼ばれ使用されています。(参考:バーベルスベルク映画撮影所HP
漫画家、手塚治虫の初期作品『メトロポリス』はまさにこのフリッツ・ラングの映画に影響を受けたと言われています。そして、手塚版の『メトロポリス』は、アニメ制作会社マッドハウスにより劇場作品としてアニメ版『メトロポリス』(2001年)が作られました。

アニメメッセの会場は映画産業のテーマパーク「バーベルベルク・フィルムパーク」で、周辺は映画撮影スタジオの関連施設が立ち並んでいます。

つまり、ドイツからメトロポリスが日本に伝わり、漫画が作られ、アニメになり、日本のアニメ文化を紹介するイベントがそのメトロポリスが撮影された町で開催される。なんとなく、点が線になり円として還元される姿が見えないでしょうか?そしてこの報告を読む、日本の皆さんの読書行為はドイツから日本に伸びる円の新たな弧のひとつかもしれません。

アニメ文化を軸にしたポツダム視点の日独交流史が現在進行系で紡がれている。と壮大な「物語」を筆者は感じてしまったのです。

サンスーシ宮殿は「憂いのない」宮殿

ポツダムの観光名所といえばロココ様式建築の傑作、サンスーシ宮殿ですが、サンスーシはフランス語で「憂いのない」という意味で日本では「無憂宮」と翻訳されることもあるそうです。

この「憂いのない」という表現を現地で思い起こす場面がありました。それは、アニメメッセの関係者の打ち上げパーティーで主催者が「日常の心配事を忘れて楽しめる場所にしたい」とイベントの趣旨を紹介した時です。まさに「憂いのない」場所ではないでしょうか?ポツダムにはサンスーシ宮殿があり、アニメメッセはポツダムにおける新たな「憂いのない」場所、つまり「ノイエ・サンスーシ」を目指していると言ってもよいかもしれません。そして「ノイエ・サンスーシ」と言えば、小説/アニメ『銀河英雄伝説』における架空の世界の宮殿名でもあります。ここでも、ポツダムと日本のアニメ文化との縁を感じたのでした。もちろん筆者による強引な「こじつけ」なので一笑に付してもらってかまいません。

中堅イベントの掘り起こしが進むかも

欧米におけるアニメや漫画のイベントといえばこれまで、米国のアニメ・エキスポ(ロサンゼルス)、フランスのジャパン・エキスポ(パリ)に加え、ドイツのアニマジック(マンハイム)が注目されることが多かったと思います。ドイツでは、「ドイツのコミケ」を目指す「ドコミ」(デュッセルドルフ)や有志による老舗大型イベント「コンニチ」(ヴィースバーデン)も、前者はクリエーターを中心としたコンセプトで来場者を伸ばし、後者は総合イベントとして会場を移転し拡大化を進めています。一方で、会場の仕様上、来場者数には上限がありますし、ステージプログラムも充実して今後の伸びしろはそれほど大きくないのかもしれません。であれば、中堅イベントがその拡大余地の受け皿になるのかもと筆者は見ています。

日本から様々なクリエーターがゲスト出演しているアニメイベントですが、その活躍の場はさらに増えそうな気配があります。みなさんはどう思いますか?今回取り上げたアニメメッセのような新たなイベントを「発掘」してみませんか?

最後に余談ですが、日経新聞はドイツの「日本アニメ演劇」を取り上げています。ドイツならではのステージプログラムで、イベントの楽しみ方の一つだと思います。


タイトル画像:「アニメメッセ」の会場となる映画パークの正面口。映画撮影所の入口をイメージしている。写真は筆者撮影。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?