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Emo Tech/感情可視化技術の可能性

Emo Techというテクノロジートレンドがある。生体データから人間の感情を推定し、場合によっては操作する技術だ。この非常に有効かつ危うい技術の、日本国内における研究開発を追ったこちらの記事が、とても興味深かった。

人々の感情数値を国家が把握できたとしたら、あなたはどう感じるだろうか。ぼくは絶対にいやだ。感情という最もプライベートなものがデータ化され収集される未来に生きていたいとは思わない。

他方で、記事中では匿名性・透明性・主体性を確保することで技術の健全性を保ちつつ、うつ病症状や傾向があるユーザーを特定し、瞑想や心を落ち着けるサービスなどを提供できる可能性が示唆されている。

そのとき、自動検出ではなく、ユーザーが主体的にそれらの技術/サービスを使えていることが重要となるという。なるほどそれは、幸せを導く可能性はあると言えそうだ。だが、抵抗は拭えない。

この技術は、おそらく組織のマネジメントにも活用されるようになるだろう。組織開発を専門とするぼくの観点からみたEmo Techの可能性と懸念点を今日は書き綴ってみたい。

個人ではなくチーム/組織の感情を可視化する

組織開発の基本は、チームや組織の関係性に目を向けることだ。関係の問題を良好にし、心理的安全性を高め、創造性の高い議論の末に、良質なアウトプットを生み出していく。そのための第一歩が組織開発だ。

もしEmo Techが組織開発に使われるとしたら、個人の感情を特定し、その感情の原因をヒアリングし、対処するような方法がすぐさま想像されるかもしれない。

しかし、それは明確なプライバシーの侵害になる。そうではなくても、人間には表現したい感情と隠したい感情がありその選択の権限が奪われるのは至って不快だ。

もし、組織開発に活用可能な可能性があるとすれば「個人の感情」ではなく「チームの感情」の可視化をすることが一つ有効かもしれない。そのようなチームの感情が可視化されたものをもとに対話をし、改善のためのアクションにつないでいくこともできそうだ。

だが、シンプルに、チームの感情が可視化されたとしたら「誰がネガティブな感情を持ち込んでいるのか」という犯人探しが始まってしまいそうだ。それは恐ろしい。

仮に、管理職以上しかそのデータをみられなかったとしても、「あいつがネガティブ感情を持ち込んでいるはずだ」という管理職者の思い込みによって、不当な扱いを受ける社員がいる可能性もある。

『弱いロボット』としての感情可視化ツールの可能性

こうした感情可視化ツールをもし組織開発で用いるなら『弱いロボット』の考え方を参照すると良いのかもしれない。これは具体的なアイデアはなく、抽象的な話になるのだが、これが今の所のぼくの結論だ。

感情可視化ツールを通してチームの感情を「管理」しようとすることは、新しい権力/抑圧になりえてしまう。感情可視化ツールが重要な情報を握っていて、その情報によって組織の生産性を左右するような「強い」ツールであるとしたら、その危険性は増していく。

しかし、もしその感情可視化ツールが、非常に弱く、頼りない情報しか提示せず、むしろ世話をしてあげたくなるような何かだったとしたらどうだろうか。そのツールと共に遊びたくなるような仕掛けがなされていたとしたらどうだろう。

そこには、新しい組織開発の可能性が開けるかもしれない。その『弱いロボット』としての感情可視化ツールの可能性については、ぼくもさらに考えてみたい。


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