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スタートアップへの個人投資拡大に必要なのは、エンジェル税制の利便性向上では

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

岸田政権が掲げる主要政策のひとつに、スタートアップ支援があります。個人的には総論大賛成で、起業家をサポートする仕組みを増やして世界に通用するユニコーンを創出することは広く日本経済の活性化の役に立ちますし、投資家の裾野を広げていく努力も大切です。

この流れの中で金融庁が規制緩和の検討をしていることがニュースになっていました。

金融庁は未上場のスタートアップに個人マネーがまわりやすくする。現在1社につき一律50万円までとしている個人の年間投資額の上限を年収などに応じて100万円以上に引き上げる。企業の調達額の上限も5倍にする。個人の運用手段と資金不足がネックになりがちなスタートアップ双方の選択肢を広げ、成長が見込める事業を後押しする。

金融庁は金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会での議論を経て2024年にも金融商品取引法施行令(政令)を改正する。「貯蓄から投資」とスタートアップの育成は岸田文雄政権が掲げる主要政策の一つ。スタートアップの成長段階を問わず使いやすい仕組みにし、家計に眠るお金が成長投資に向かう循環につなげる。

日経電子版

これはまたニッチなところを攻めてきたなというのが、正直な感想です。

まず、スタートアップの調達はそのステージにもよりますが、主にエンジェルと呼ばれる個人投資家や金融機関やVC(ベンチャーキャピタル)が担っています。昨今では事業会社が運営するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)なども増え、資金調達環境はかなり改善してきたと思います。

日本のVCは海外と比べて「質・量ともに小粒」と指摘され、リスクマネーの供給も見劣りしてきた。米調査会社CBインサイツによると、米国のスタートアップの資金調達額は2022年に1984億ドル(29兆5700億円)に達し、中国が465億ドルで続く。日本は43億ドルにとどまる。

こうした状況を改善するため、森ビルがモデルに位置付けるのが米シリコンバレーのサンドヒルロードだ。長さ約2.3キロメートルの大通り沿いに、アンドリーセン・ホロウィッツやセコイア・キャピタルといった巨大VCが立ち並ぶ。

米調査会社クランチベースによると、アンドリーセン・ホロウィッツの累計運用額は22年時点で324億ドル。JVCAなどが5月に実施した調査では日本のVCの運用総額は約3兆3000億円だ。1社で日本全体を上回る規模になる。

日経電子版

サンドヒルロードはわたしも何度も訪れたことがありますが、まさにVCの表参道といった趣で路面店(VC)が立ち並び、巨大VCとして名高いセコイア・キャピタルの隣にはゴルフ場。目の前にはMaderaというミシュラン星付きのラグジュアリーなレストランがあります。有望な投資先候補はここでランチミーティングをしてもらえるとかもらえないとか、いろいろな噂も聞きます(笑)。

スタートアップ投資は典型的な「ハイリスク・ハイリターン」です。金融商品としてはかなり上級者向けであり、広く一般投資家に直接おすすめするのは憚られます。まず非上場であることから一般投資家がアクセスできる情報が限られますし、またできたとしてもその妥当性などを検証するには高度な専門性が求められます。現在でも投資信託等を通じて間接的に投資ができますので、VCや年金基金などのプロの機関投資家の目利きを通してリスクを軽減するのが得策でしょう。

一方で、創業期(シードからシリーズAくらい)では個人投資家の直接投資を見かけることが多いです。これらの投資家は十分にリスクを理解して、ほぼ応援として100万から1000万くらいのサイズの投資をします。起業家としても資金よりも投資家が持つ専門性であったり業界のネットワークなりを期待してこれを受け止めます。顧問やアドバイザーとして雇うにはフィーが高く、節約はしたいけど事業を伸ばしたいスタートアップの需要にマッチするわけです。

このような投資を応援するための優遇制度として「エンジェル税制」があります。一定の要件を満たす場合において、税制上のメリットを提供しています。

しかしながら、過去いくつかのシード投資をしている私もそうですし、周囲に聞いてみてもこの制度を活用できた事例があまり見当たりません。というのも、一定の要件というのが現在の起業環境(特にIT系)にマッチしていないということ。そして、スタートアップ側に多くのペーパーワークと確認申請作業が発生することから投資家からはなかなか頼みづらい現状があります。

スタートアップの多い東京都、特に渋谷区や港区では事前確認を得るのに数ヶ月かかるという話も聞いていますし、なにより事業に集中してほしいスタートアップにこのような作業をしてもらうのは本意ではありません。株式投資型クラウドファンディングについてはスタートアップが行う作業が簡素化(認定ECFが代行)しているのでこの限りではありません。

ぜひエンジェル税制についてもより投資家およびスタートアップが使いやすい仕組みにアップデートしていただきたいなと思います。


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タイトル画像提供:jessie / PIXTA(ピクスタ)

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