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アントは上場できるのか?中国側の意見は世界と大きく違うかも

世界中がアメリカ大統領選挙で一色だった少し前、中国と一部の投資家の間では蚂蚁(アント)に関する話題でもちきりでした。

アリババ傘下の金融会社のアントグループが4兆円近い金額でのIPOを行おうとしていたのですが、中国政府から待ったがかかる事態に。中国国内でもたくさんのニュースや評論がアップされました。

僕は中国のメディアはもちろん、日本や海外メディアの分析も読んでいたのですが、だいぶ論調が違います。特に日本では、中国政府の介入に対してネガティブなニュアンスの記事がたくさんあるように思います。

一方中国では違った声があります。日本のメディアではほとんど報道されてないようですが、今回の政府の規制に大賛成する人はたくさんいます。中には、もっと早く管理と行政指導が入るべきだと主張する人も。

今回はアント騒動に対しての中国側の意見や論調を紹介します。

■アントの事業について

アントグループは元々アリババグループの金融関連事業でした、ご存知「アリペイ」です。決済サービスの枠を超えたアリペイは今やほとんどのネット民になくてはならないインフラとなっています。アントは数年前にアリババから独立、スーパーユニコーンとして注目を集め成長を続け、そして今回の騒動が起こりました。

ジャック・マーは「銀行が変わらなければ、我々が銀行を変える」と公言するほど自信満々でしたし、アリペイのサービスをみんなが享受していますが、その裏ではフィンテックの監督管理不届きによる利益が大きいとも言われています。

まずはアントグループの収益状況からみてみましょう。

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↑青のところは決済業務で紫のところは消費者金融も含めるいわゆるフィンテックです。フィンテックの割合が年々上がってることがわかりますね。

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↑そしてフィンテックの構成ですが、紫の部分は消費者金融、青の部分は日本の投資信託商品に近い「理財商品」、灰色の部分は保険事業。消費者金融の割合が高く、2017年から比べると割合も高くなり規模も大きくなっています。

おわかりでしょう。先端IT企業、フィンテックという位置づけですが、それだけではなく消費者金融業もバリバリやってて、業務内容については中国の金融管理でもカバーされてこなかったところが多々あります。

アントの公開買付資料によると、38億元の自己資金で40回の資産証券化、4000億元近くの貸付をして、100倍以上のレバレッジがあるそう。たくさんのメディアがかなり高いリスクだと考察しています。

このアリペイの消費者金融についてですが、システムはかなり先進的です。不動産などの資産担保もいらず、以前に紹介した「芝麻信用」やユーザーの消費習慣の記録などでスマートに利用可能です。

ただ、いくらビッグデータによる分析で信用を判断してもその通りとならないこともあるでしょう。万が一経済が不安定になったり、未知のリスクで返済が滞れば、社会と金融システムに大きなダメージとなり中国版のリーマンショックもあると不安視する声もあります。

■昨今の取り組みはかなり批判されていた

また、ここ最近アリペイのクレジットサービスである「花唄」(中国語の意味は「お金使いましょう」、借金サービスの「借唄」は「お金貸しましょう」)の広告もユーザーからひどくバッシングされました。例を挙げると↓

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37歳の内装工事隊隊長は家計を丁寧に計算して生活してるが、娘の誕生日には「花唄」を使って盛大に盛り上がろう、という内容。

一見特に問題ない、広告でしょうと違和感はないですが、この広告の文脈では「クレカを使わなければ誕生日パーティーさえできないほどお金に困ってる」感じに演出され、大批判されました。一般の中国目線だと、そこまでしなくてもいいじゃない、結局使ったお金を返さなければならないから、という価値観。

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↑こちらは29歳の牧畜民が「大学合格した妹が欲しいパソコン、僕は(花唄の分払いで)考えもせずに買ってあげたよ」バージョン。これにも、ちゃんと支払いも考えましょうと批判が殺到。

他にも、若い女性が「生きたいように生きましょう」とブランド品の購入を誘うような内容もありました。結局、これもあまりにも批判され、撤回されることになりました。

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↑上海の地下鉄にある花唄の広告はすべて撤回されました

僕の感覚では、周りの中国人はクレジットカードを使っても、すぐに返済する人が多いです。そして貯金好きが多く、「明日のお金を使う」習慣はあまり一般的ではないです。住宅ローンもちょっとお金を貯めたら早めに返済する人が多いとよく聞きます。

もちろん、アリペイの広告を見て消費意欲が煽られた若者はいますが、やはり主流の価値観と相違が大きいからバッシングされました。

■ジャック・マーへの評価の変化

アント上場に待ったがかかったのは、ジャック・マーの上海での演説に中国政府が不満を大きくしての対応との記事も度々目にしますね。

ちょっと話がそれます。日本では全く報道されていないかもしれませんが、中国ネット民の間でジャック・マーへの評価は変わってきています。もちろん偉大な起業家でリスペクトされてますが、昨今の発言や行動に疑問や不満を持つ声が多数。

けっこう前にnoteで紹介しましたが、「996は果報」発言は、彼のイメージを大きく変えました(それまでにも「お金に興味ない」「アリババには偽物がない」「夢は持つべき、万が一実現したら」「アリババを作ったことに後悔してる」「死ぬべきものは死んでしまえ」「10億の豪邸は僕のものではない」「香港の豪邸は12億元しか使ってない」「結婚生活は669(6日6回毎回時間が長い)」などなど)

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↑2017年の動画の弾幕は、「パパ」(尊敬を表す)でいっぱい。しかし2020年の動画の弾幕はhateだらけ、打倒資産家のスローガンになってます。

■アント上場についての中国メディアの考察

本題に戻りますが、中国経済紙「財新」が、アントグループの株主説明図をまとめていましたのでシェアします(ちょっと長いですが)

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構成が実に複雑なのですが、簡単にまとめると、株主にはシンガポールが7%、マレーシアが3.56%、カナダが3.28%、その他の外国投資機構が18%以上。一方で中国国有資本では、社会保険基金2.94%、中金2%、人寿1.29%しか持ってない。資金構成については様々な思惑や専門的な考え方もあると思いますが、この比率はかなり問題となりました(ちなみに個人株主の中にはジャックマーと仲が良い人の名前がいくつもあります)。

11月2日に公開された「ネット少額借金事業管理暫定弁法」では融資する際の自己資金の比率と共同融資の際の最低出資比率が定められ、アントはこれを全然満たしていないことになります。

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11月2日にアリババへの業務指導が入り、同日に「ネット少額借金事業管理暫定弁法」が公開。次の日の11月3日にアントの上場延期が決まりました。

ジャック・マーの演説からわずか10日たらずで法律が作成され公開されたとは考え難い。中国政府のいつものやり方ですと、先に大手企業などにいろいろ話を聞いてから作成したはずです。アントの本音では、これが公開される前に上場したかったということでしょう(じゃなければ厳しいルールを守らなければならなくなり、2.1万億元の融資は厳しい)。

このように、アントについて監督を強めるべきとの指摘があったことや、今回の政府の動きに好意的な意見が沢山あるのです。アリババはその後、コンプライアンスのトップをチェンジしましたが、上場への道はかなり厳しそうです。

今回の上場IPOに合わせ、アリペイはアントの株が入ってる独占の投資ファンドで600億元を募集しました。日常的にアリペイを使う時に広告が大きく出ます。「アント上場の波に乗りませんか」みたいな誘いで。

元々の持ち株はIPOしてから12ヶ月経てば売ることが可能ですが、アリペイの公開買付資料では、このファンドでは18ヶ月とのこと。4兆円近くだった評価額は今や半額以下となっていて、結局損しているのは後半から参入した個人投資と思われます。彼らのためにも早く進展することを願いたいです。

(参考資料)


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