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解雇規制だけが労働市場の議論ではない。コロナ禍での「出向」から考える労働力需給調整機能

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

徐々に気温も上がってきたので、ベランダで花の種をまきました。10年前にモスバーガーでもらった種なので心配ですが見守ってみます。

コロナ禍での出向

さて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、需要が減少する事業と需要が増加する事業があり、それぞれの事業を営む企業間で「出向」の形式で人材の移動を図る取り組みが多く見受けられるようになりました。

ただ、出向による人材の移動については、現在「産業雇用安定助成金」が交付されていますが、想定よりも件数は伸び悩んでいるようです。

今回は「出向」から考える労働市場の議論について書いてみます。

「出向」は法的には奇妙な位置づけ

「出向」とは、労働者が出向元企業と何らかの関係を保ちながら、出向先企業と新たな雇用契約関係を結び、一定期間継続して勤務することをいいます。

出向は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて初めて広がったというものではなく、もともと大企業を中心にこれまでも行われてきました。
そのため、特段「そもそも出向って何だっけ」というところに違和感を抱くことはないかと思います。

ですが、法的な位置づけを見ると、実はなかなか奇妙な位置づけにあります。

労働者派遣との関係

まず出向と労働者派遣との関係ですが、労働者派遣は、供給先(派遣先)と労働者との関係で雇用契約が成立するものは含まないとされており、、これにより出向は労働者派遣ではないとされています(労働者派遣事業業務取扱要領参照)。
これは、「労働者派遣」の定義規定(派遣法第2条第1号)と出向の法的構成から導かれます。
したがって、労働者派遣との関係は法律上明文で除外されているということになります。

労働者供給事業との関係

問題なのは、職安法の「労働者供給事業」との関係です。
労働者派遣は、元々は労働者供給の一類型ではありますが、雇用契約が派遣元との関係だけであれば雇用の責任の所在が明確であるという理由から許可制のもと適法にしたものです。
したがって、出向が労働者派遣との関係で問題ないとしても、次に、「労働者供給(事業)」との関係が問題となるわけです。

まず「労働者供給」とは「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」をさし、上記の労働者派遣は明文で除外されています(職安法第4条第6項)。
そして、これを「業として行う」と職安法第44条に定める「労働者供給事業の原則禁止」に抵触することとなります。

この点、厚生労働省の整理では、出向は「その形態は、労働者供給に該当する」とし、出向が「業として行われる」場合には、労働者供給“事業”として職安法第44条違反するとしています(労働者派遣事業業務取扱要領参照)。

しかし、厚生労働省はさらに、「在籍型出向と呼ばれているものは、通常、
①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
②経営指導、技術指導の実施
③職業能力開発の一環として行う
④企業グループ内の人事交流の一環として行う
等の目的を有しており、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えられる」としています。

つまり、解釈、運用によって、出向は適法だとしているわけです。

“雇用維持”と位置付ける厚労省と“労働力需給調整機能”と位置付ける政府

冒頭述べたとおり、コロナ禍で出向は重要な機能を果たしています。

ですが、出向の位置づけについては、厚労省と政府との間で若干の違いがあります。
厚労省は、コロナ禍での出向は、上記出向目的の①に“類する”ので、「業として行う」に当たらず、適法という整理をしています。したがって、あくまで雇用維持が目的としています。
他方で、岸田政権の緊急提言では「…在籍型出向を行う際の出向に係る経費の助成等を通じて、産業構造転換に伴う失業なき労働移動の支援を強化する」と述べているとおり、このコロナ禍では、出向が労働力の需給調整の機能の一つとして位置付けています。

したがって、厚労省はあくまで“雇用維持”と位置付けていますが、政府としては、“労働力需給調整機能”の一つとして位置づけており、後者の整理は、法的には上記の労働者供給事業との関係で危ういといえます。

では労働組合等の労働者供給事業は機能しているか

上記のように、出向は「社会通念」という微妙な理由付けで適法とされているものの、実は労働者供給事業との関係で職業安定法違反と隣り合わせの行為といえます。
なぜこのようなある意味“いびつ”な形になっているかというと、そもそもの労働者供給事業が労働力需給調整機能を果たしていないことが考えられます。
労働者供給事業を適法に行うには、「労働組合等」が厚生労働大臣の許可を得た場合に、無料で行うのであれば適法とされています(職安法第45条)。
ですが、現在その許可を得ている組合数は令和元年度で100組合であり、そのほとんどが自動車運転の職業です。

https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/000761383.pdf

となると、労働者供給事業が一般普遍的な仕組みとはいいがたく、そのため、現状、出向というある種の抜け道を政策としても活用しているという現状にあるといえます。

労働力の需給調整機能を正面から議論すべき

長々と述べましたが、何を言いたいかというと、こうした労働力の需給調整機能のような労働市場の制度自体に関する議論をもう少しすべきではないかということです(けして「出向を許可制にせよ」というのではありません)。
もちろん既にそうした問題意識をもって議論されているところもありますが、新聞等で労働市場の流動化の議論が出るときに問題になることが多いのは「解雇規制の緩和の是非」です。

それ自体は重要なテーマではありますが、それは雇用の「出口」(ひいては「入口」)の議論でしかなく、労働市場の議論としては一部を取り上げているだけといえます。

「流動性」という点に焦点を当てると、本来は、退職や解雇等で労働者が労度市場に入ってきた時に、どう人材が動くか(又は動くことができるか)という点がより本質的に求められる議論なのではないでしょうか。

私も何か結論を持ってるわけではないですが、このコロナ禍で出向が注目されたことを契機に、職業安定法等の需給調整機能や公的な教育訓練について正面から議論する必要があるように思います。


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