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観光業界の復活を支えるシーズンワーカーの労働力

 国内の観光市場は、2023年から急速に回復してきたことに伴い、ホテル旅館業界では人手不足も深刻化している。地域によっても異なるが、2023年5月時点で宿泊業界の求人倍率は、前年同月と比較して10~20倍に増加して、時給を若干引き上げる程度では、人材が集まらない状況となっている。

この問題は、コロナ禍で非正規人材を大量に解雇した時から予測されていたことだが、今夏の人手不足を解決する手段として、季節限定の短期アルバイトを派遣会社から調達する方法が急成長してきている。繁忙期となるシーズン(1~3ヶ月)に限定してホテルや旅館で働くスタイルは、以前から存在していたものだが、最近では「リゾートバイト」としてスマホアプリから手軽に求人募集できるようになり、20代を中心としたシーズンワーカーが増えている。

リゾートバイトの特徴は、現地に住むための宿舎(寮)と食事が無料で提供されるため、手取り月給の大半を貯金することも可能なことだ。時給相場は一般的なアルバイトよりも高いため、定時(8時間)と残業代を含めると、月収25~30万円を稼ぐこともでき、海外旅行へ行くための資金、運転免許の取得や車の購入、大学の学費を稼ぐ目的などで、短期でまとまった資金を貯めたい人に適している。

また、バイトの休日には観光地でのレジャーや、都会では出来ない体験、人との出会いを楽しむこともできる。都会人の中で移住願望が高まっているには、コロナ禍からのトレンドだが、短期移住体験の手段としても、リゾートバイトが注目されている。

リゾートバイト求人サイト「ワクトリ」

もともと、観光地での季節制の仕事は「シーズンジョブ(Seasonal Jobs)」として、海外では古くから定着しているが、日本ではインバウンド旅行者が増え始めた10年程前から普及してきた。コロナの行動制限が解除されて以降は、観光客の復調に、人材採用が追いつかないことから、リゾートバイトの時給相場も 1200円~1500円に上昇して、働きたい者にとっての売り手市場となっている。

観光庁でも、インバウンド景気復のる鍵を握るのは、リゾートバイトによる新たな人材確保という捉え方をしているが、シーズンワーカーは時給労働者の中でも更に雇用が不安定なグループに属すことになる。繁忙期の時給はアップしても、宿泊客が減少すれば、数ヶ月単位で契約を切られてしまう。それでも、自由な働き方と、短期の時給が高いことに魅力を感じて、宿泊業界に限らず、様々な業界でシーズンワーカーは増えていくことが予測されている。

【リゾートバイトの採用形態】

 全国のホテルや旅館がリゾートバイトを採用する場合には、人材募集から採用までを直接行う方式と、派遣会社を通す方式の2種類がある。コスト面では直接採用のほうが安く抑えられるが、短期雇用のトラブルを回避するため、派遣会社を介する割合は全体の8割と高い。働く側にとっても、時給や待遇面(寮の環境や健康保険など)で、派遣会社に登録したほうが、条件は良くなっている。

ただし、派遣方式では、自分が働きたい職場を直接決めることはできず、紹介された案件の中から選ぶしかないのが欠点になる。良い職場に巡り会えるか否かは、実際に現地に行ってみないとわからない、運次第のところがある。

リゾートバイトを専門とした人材派遣会社は、ネットからの申し込みができる業者だけでも20社以上が存在しているが、ホテル・旅館に対して請求する派遣料金のうち、平均70%を派遣人材に給料として支払う採算構造になっている。しかし、30%のマージンから、保険等の福利厚生費と求人広告などの経費を捻出するため、実際の利益はそれよりも低くなる。

住み込み型のリゾートバイトは、実際に経験してみると、かなりの重労働になるケースが多く、継続率は低いという実態もある。一方で、ホテル・旅館業界で働く従業員数はコロナ前の時点で約400万人、その中で非正規社員の割合は54%と高い。コロナ収束後には、さらに非正規率を高めていかないと、必要な労働力が確保できないため、派遣会社の役割は大きくなるとみられている。

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