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キャッシュレス社会で起きる新たな信用格付と富の再分配

 中国では、もともと人民元紙幣の信用力が低い。偽札が横行してるため、店で買い物をする時にも、釣り札の中に偽札が混じっていないかを、いちいちチェックしなければ損をするほどだ。そうした事情もあって、キャッシュレス決済の比率は60%と高く、現金客よりも、「WeChat Pay」や「Alipay」などの電子マネーで買い物をする客のほうが信用力が高い。

■画像出所:キャッシュレスビジョン(経済産業省)
※韓国のキャッシュレス決済比率が最も高いのは、脱税対策として韓国政府が電子マネーの普及を積極的に推進しているため。

中国電子マネーによる、新たな信用社会の仕掛け役となっているのが「芝麻信用」の存在で、Alipayによる決済の利用歴や、芝麻信用と提携しているシェアリングサービスの評価、公共料金やローンの支払い歴などから、350~950点までの信用スコアを算定して毎月更新している。

その中でも、スコアが600点を超すユーザーは、多方面の店舗や施設で優良顧客として扱われるようになり、中国で一般的な慣習になっているホテル宿泊時のデポジットが不要になったり、自動車ローンの金利が安くなる、ハイレベルな婚活サイトに登録できる等のメリットがある。さらに、保険の加入条件でも有利な扱いをされるようになっている。

2018年11月、上海交通大学付属新華病院。転んで頭に重傷を負った5歳の女児が手術を受けた。女児は「相互宝」から30万元(約490万円)を受け取った。アリババ集団傘下の金融会社が発売した商品だ。「保険」のようだが前払いの保険料がなく、必要な給付額を月2回、加入者全員が等分で後払いする。常識外れの「保険」が成り立つのは、信用力の高い加入者だけを選別しているためだ。職業、学歴、年収などから点数化するアリババの信用評価格付けで「優秀」と認められることが条件。

こうした電子社会における新たな信用評価は、日本でも導入が予定されている。中国の芝麻信用とは仕組みが違うが、2019年の春頃から総務省の管轄により、「情報銀行」としての事業認定制度がスタートする計画になっている。

情報銀行とは、消費者が自ら許諾した、eコマースサイトや店舗での購入履歴、旅行の行動計画、毎日の運動量、健康状態、家電の使用状況など、様々な個人情報を管理して、それを複数の事業者で共有できるようにする。その見返りとして、個人情報を登録した消費者には様々な特典が与えられる仕組みである。

たとえば、購入履歴の利用許諾をすることで、情報銀行に加盟している店舗で買い物をした際にポイントが付与されたり、旅行中の行動予定を利用許諾することで、レジャー施設やホテルの料金が割引になるような特典が考えられる。また、保険会社では、自分の健康データや、病院の受診歴などを開示する人に対して、安価な保険料金を設定するプランも検討されている。

これだけではわかりにくいが、実際の機能としては、消費者がeコマースサイトや電子マネーで買い物をする際に、スマホアプリの承認ボタンを押すだけで、個人情報が情報銀行に登録されて、ポイントや特典が付与されるような仕組みが想定されている。

これからの消費者は、電子社会の中でより多くの履歴データを残すことにより、社会的な信用が構築されて、様々な特典を受けられるようになる。従来の信用とは、端的にいえば「できるだけ多くのお金を貯めること」で構築されていくものだったが、電子社会の中では「できるだけ豊富な個人データを預託すること」が新たな信用になり、その仕組みを上手に活用できる「新たなキャッシュレス・エリート層」への、富の再分配が進むことになるだろう。

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