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「なんちゃって心理的安全性」状態を打破することの重要性

 Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。今日はnoteビジネスから発表されているテーマ「#天職だと感じた瞬間」を元に、ライフワークである「心理的安全性あふれるコミュニティ型組織づくり」についてお話できればと思います。

 COMEMOでも何度も取り上げている「心理的安全性」ですが、言葉としてもとても流行していて、大手日本企業でも取り組みが次第に加速してきました。とてもいい兆候ですね。

プログラム運営で気がついた「なんちゃって心理的安全性」

 そんな世相も踏まえつつ今日お話したいのは「なんちゃって心理的安全性」についてです。

 「なんちゃって心理的安全性」は僕が考えた造語になります。それを痛感したきっかけが、とある会社に提供した、コミュニティ型組織開発プログラムの案件でした。

 プログラムがどのようなものかの詳細はこちらの事例記事(日本オラクルさんに対して実施したものです)に詳しいのですが、「マネージャー候補の方に対して、多様性の時代に大事なリーダーシップについての考え方を実践を交えて伝えていく」というものです。

 Potageのコミュニティ型組織開発プログラムでは「マネージャーはこうあるべき」という話をするというよりは、自分のことをより深く知って頂いたり、周囲の方々とうまく関係性を築く方法についてお伝えしています。プログラム前半戦では、それぞれのキャリアやライフイベントを振り返ってもらいながら、自分自身はどんな価値観を大事にしていて、今後どのように生きて行きたいのかを考えて、言語化していただくというアプローチをとっています。

 マネージャー候補のみなさんには、別のラインにいる現役マネージャーさんをメンターとしてつけます。メンターのみなさんには、担当するマネージャー候補の方と1on1の時間をそれぞれ持ち、みなさんの学びに伴走頂いています。

 そしてプログラム後半には「心理的安全性」「チームビルディング」についてお話をして、多様性ある組織をつくるために必要なことについて考えて頂く機会をつくっています。自分を深く知り、他者とよりよくつながる方法を知ることが、当プログラムの肝になります。

 さて、とある会社に提供したそんなプログラムを通じて「心理的安全性」を伝えた際、興味深い事象が置きたことが、この「なんちゃって心理的安全性」について考えるきっかけになりました。

 Potageの心理的安全性プログラムでは「心理的安全性チェックリスト」を提供して、参加者のみなさんにセルフチェックいただいています。10個の項目があって、その「当てはまる」数をカウントすることで、自分の所属チームがどのくらい心理的安全性があるかを測るというものです。

 受講生であるマネージャー候補のみなさんのレクチャーの際に、まずはセルフチェックを実施しました。すると、多くの方が「自分の所属チームには心理的安全性がある」という傾向の回答をされたのです。その次に、メンターとなる現役マネジメントの方には同じチェックリストを試して頂きました。すると、マネジメントの方の多くも同様に、「自分の所属チームには心理的安全性がある」と回答されたのです。

 しかし、対象を「自分の所属チーム」から「所属チーム外」と変えた際にはどうなったかというと、女性リーダーもマネジメントも、ほとんどの方がこのような傾向の回答をされたのです。「所属チームの外側をみると、心理的安全性は弱い」。それを聞いたときに、おおよそ30名と少ないサンプルではありますが、非常に興味深い結果が飛び出したなと感じました。

 自分の所属チームには「心理的安全性がある」。しかし自社全体で見ると「心理的安全性がない」と、ほぼ全員の方が答えているわけです。これはもはや「なんちゃって心理的安全性な状態だな」とそのとき思ったのでした。つまり、「自分のチームには心理的安全性がある」と回答されているほぼすべての方は「実は、全部のチームに心理的安全性がないのに、あると錯覚しているのではないか」という仮説がそこで浮かび上がったわけです。客観的に見ても、論理的に考えれば考えるほど、そうとらえたほうが自然な状況です。

 それを目の当たりにしたときに、運営チームである人事部のみなさんにどう伝えたらいいのか、直言していいものか、すごく悩みました。そこを伝えてしまうと、それまで話し合ってきた段取りや、コンテンツの中身をひっくり返して、ゼロベースでまたやり直して、より心理的安全性づくりについて深く突っ込んだ中身に変えていく必要が出てくるからです。それぞれ時間やリソースの制約がある状態で仕事をしているので、締切も近い状況で、この事実をつきつめることがいいことなのかどうか、非常に悩みました。

 結果どうなったかというと、人事部の運営メンバーの1人から「これでいいんでしたっけ?」という提言があり、それをトリガーにしてゼロベースからの喧々諤々の議論が運営チームの中では生まれました。その結果、更に突っ込んだプログラムにしていこうという結論に至って、徹底的に「心理的安全性とはどういうことなのか」を伝えるコンテンツに変容していったのです。

 そして、冷静になって後から考えてみて思うのです。「直言していいものか」と悩んでいた自分自身は、チームに対して心理的安全性がなかったのだと。自分たちは心理的安全性あるチームだと思って、お互いを思いやって進めていただけれども、結局それは「なんちゃって」だったのです。直言してくれたメンバーのおかげでその事実に気づけたので、お互いの本音ベースの議論の発展につながっていきましたが、直言せずにごまかしごまかしやっていたら「運営チームは心理的安全性あるけど、受講生のみなさんには心理的安全性ないですよね」という、はたから見たら恥ずかしい態度をとっていたことでしょう。心理的安全性のプログラムを提供する人間として情けなくなる「なんちゃって」ぷりです。その過ちに気づかせてくれて、ストーミングを起こしてくれたチームメンバーには本当に感謝です。

「なんちゃって状態」から「本当の心理的安全性」に移行するために

 このような「チームの誰かは心理的安全性があると思っているのに周りはそう思っていない」「チームの中に少数の不満を持って沈黙している人が実はいる」「チームの和を乱さないように心理的安全性があるように演じる」という「なんちゃって心理的安全性」状態は、日本中のそこかしこで起きているだろうと僕は考えています。

 チームの誰かが不満を持っていたり、和を乱さないように周りに忖度している組織は、周りの人たちがどんなに「心理的安全だ」と思っていたとしても、心理的安全性のある組織とは言えません。全員が「心理的安全だ」と思ったときにはじめて、その組織は「心理的安全性がある」と言えるのです。

 なんちゃってではない心理的安全性を組織に生み出すためには、本音に迫った突っ込んだ議論を一時的に起こしていく必要があります。ブルース・W・タックマンが提唱するチームビルディングのプロセスにおける「ストーミング」のプロセスです。(タックマンモデルについては以下の記事で解説しています)

 コミュニティ型組織開発プログラムは、議論を起こすためのチームをつくって、組織の人たちのかかわりをかきまぜていくプロセスがどうしても必要なのですが、大事なことは「それを提供するためには、運営メンバー自身も本音を表明し合う関係性を体現する」ということだと思うのです。自分たちができていないことを、他人に伝えられるはずもないですし、言葉にリアリティがなければ、プログラム自体も「なんちゃって」になってしまいます。

すべての組織をコミュニティにしたい

 僕は、コミュニティづくりのノウハウを活かした「心理的安全性あふれる組織づくり」が天職であり、ライフワークだと感じています。すべての組織をコミュニティにしたい。それがコミュニティ・アクセラレーターとしての僕の願いであり、つくりたい未来です。

 それを実現するためには、自分自身が周りにたいして、ちゃんと心理的安全性を体現できる存在にならなくてはいけないなと、このプログラムを通じて改めて感じました。

 ちょっと油断すると、人間だれしも「なんちゃって心理的安全性」の状態に落ちてしまったり、それを維持してしまったりします。この「なんちゃって」状態を本物の状態に変えていくことは社会全体にとって必要なことだし、自分自身のコミュニティづくりの知見をいかしたファシリテーションを通じて、ひとつひとつかたちにしていくことが大事だと思っています。

 共感される方がいらっしゃいましたら、ぜひいつでも下記のページの問合せフォームなどからコンタクトいただけますととても嬉しいです。脱「なんちゃって」のために、本音ベースの対話から、まずははじめてみませんか?

当記事の下敷きのVoicy放送回になります

 



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