見出し画像

イノベーションを促すために、国ができること

8月14日に岸田首相が自民党総裁選不出馬を表明し、3年弱にわたる岸田政権を振り返る企画が続く。株価や賃金上昇の面では総じて上向きだったものの、その源泉となる企業価値向上が長続きするためには、恒常的な労働生産性の改善が必要だ。特に今日の日本のように人口が減少する局面では、国全体のイノベーション力が底上げされることが欠かせない。

税制改革や規制緩和など、政府がイノベーション喚起の手を打っていないわけではない。しかし、まだ大きな進捗は見られず、課題は次の政権に持ち越される。国連の世界知的所有権機関(WIPO)が発表する2023年「グローバル・イノベーション(技術革新)指数(GII)」で、日本は世界13位である。アジアではシンガポールや韓国に抜かれている。

そもそも、イノベーション力が目覚ましい国にはどんな類型があるのだろうか?大きく分けると2つのタイプがありそうだ。

まず、米国型(2023年GII3位)は、自由経済と国全体の「やってみなはれ」精神が上昇意欲のある移民や起業家を惹きつけてやまない。福祉的なセーフティネットこそ薄いものの、失敗に対する社会的なペナルティは小さい。米国で成功した起業家には、南ア出身のイーロン・マスクを筆頭に移民の背景を持つ人が多いが、米国という新天地で失うものが少なく、伸び伸びと事業を興した結果と言える。

その対極にあるのが、例えばスウェーデン(2023年GII2位)だ。Spotifyなどグローバルに成功する新興企業が育っている。米国とは対照的に高福祉であり、税金が高い一方で教育費や医療費は基本的に無料か安価ので、失敗したときの経済的な心配が少ない。さらに、スウェーデンではデジタル黎明期で政府のテコ入れにより家庭にパソコンが早く普及したことで若い世代がデジタルイノベーションを興す下地になったと言われる。

最近、日本では、海外諸国に比べて子供たちがPCに触れる時間が少ないと報じられている。受け身のスマホではなくPCに触ることでコンテンツ開発の経験を積めるのだが、こんな原体験の差からも、将来、国家のイノベーション力に差がつくのではないか。

では、日本がこれからイノベーション力を底上げするために、米国型とスウェーデン型、どちらの類型をお手本にするべきだろうか?保守的な日本の文化を鑑みると、スウェーデンのほうが近そうだ。政府にとっては新しい技術インフラの普及後押し、起業家や企業にとっては最初から世界を念頭に置く市場の作り方などが参考になる。

実は、米国もスウェーデンも共通するイノベーション要素は、若い世代の活躍だ。日本全体に進取・技術革新の勢いがあった戦後を振り返っても、ピラミッド型の人口構成が若者の「出る杭」を伸ばし、今や大企業となった幾つもの新興企業が生まれている。

先輩を敬う日本の文化には美点もある。その一方で、若い世代が委縮することなく新しいアイディアに挑戦できるような社会風土をつくることが、イノベーション力の向上には欠かせないだろう。そのうえで、スウェーデンなどの先例から取り入れられる成功要素を学び、大胆なイノベーション政策を推し進めることを次期政権に期待したい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?