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デジタル田園都市構想は、地方創生の二の舞になるか?〜市民のためのデジタル化へ

(Photo by Aabir Ahammed on Unsplash

デジタル田園都市

政府から、デジタル田園都市なるコンセプトが打ち出された。地方のデジタル化を進めることで、都市との格差をなくすと同時に、雇用も生み出そうという成長戦略である。

5G普及などのハコモノは予定通り進められたとしても、デジタル人材をどう定義し、特定し、育成するのかあいまいであると、次の記事では指摘されている。

デジタル技術で医療や教育、交通といった地域の課題に対応するというが、一方で「地方創生と同じで補助金事業は『ばらまき』に終わる可能性が高い。生産性の向上にはつながらない」という指摘もあるという。記事は、「国が旗を振るのではなく、まず地方がデジタルを使ってどのような課題を解決していくのか考えることが先だ」とまとめられている。

行政主導のデジタル化の行き着く姿

行政主導のデジタル化の問題は、大きく分けて次の二つだ。

一つは、行政のいまの仕組みをそのままに保存したまま、たんにデジタル化しようとしていること。これは、3.11の震災復興の際に、元のままの街を必死に復元しようとした姿と似ている。気仙沼の港で、建物がすべて流された更地に、おびただしい数の新しい電柱がまず立てられた姿を思い出す。なぜ、なんの障害物もない更地に、電線を地下に埋めずに電柱を立てたのだろうかが分からない。いまの縦割り行政の煩雑なフォーマットや手続きをそのままに、デジタル化するのは、まさにそれと同じことである。

もう一つは、「考えない市民」を前提として社会システムを構築しようとしていることだ。政府は、デジタル田園都市を「全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」と表現する。これは、電気の安定供給が心豊かな暮らしを実現する、という原発事故が起きた後もずっと政府が手放さなかった論理と共通する。なぜ、デジタル化のメリットを享受できることが「心豊かな暮らし」を意味するのだろうか?

デジタル田園都市構想は、まさに「供給者視点のデジタル化」である。一つのあきらめが、「行政ができるのは、こういった底上げしかない」ということだ。そのインフラのうえで、どういうソフトをつくるのかは民間企業が考えれば良い、という議論である。しかし、一方で民間企業のつくるソフトのほとんどは、広告モデルに依存している。政府が大枚叩いて敷設するインフラの上を飛び交うのは、高齢者のクリックを誘う広告ビジネスばかりだ。

行政の窓口の人数が減り、高齢者は慣れない手つきでスマホをいじる。そこにピコピコと多数の広告が流れ込む。そのなかには「大切なお知らせ」と書かれたスパムが多数まぎれこむ。これが「心豊かな暮らし」なのだろうか。

多様な市民ニーズに対応するデジタル

行政のデジタル化でつくりたい「心豊かな暮らし」は、誰もが将来の心配なく暮らせることではないだろうか。そのためには「役所の手続きのスマホ化」ではなく、「一人ひとりの市民のニーズに合った、ニッチなサービスのプラットフォーム化」を実現する必要がある。

いま、多くの自治体が独自のデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいる。これがデジタル田園都市の予算によって、さらに加速されるに違いない。あらゆる自治体のデジタル担当者にお願いしたい。いまある手続きをそのままデジタル化するまえに、全庁的な議論によって、10項目くらいの「デジタル化のクレド(信条)」を考えてくれないだろうか。たとえば、「市民がほしいのはフォーマットではなく、立場に応じた支援である」など、せっかくデジタル化をゼロから考えるのだから、自分たちがほんとうに良いものと信じられる行政サービスを創り上げる喜びを感じてほしい。

デジタル化は創造的業務へのシフトのチャンス

行政職員の仕事には、ダイレクトサービスのオペレーション業務と、新たな政策をつくるような創造的業務の二つがある。いまの日本のように経済成長が止まると、当然行政の歳入も減ってくる。いきおい、少ない人数でオペレーション業務をまわし、創造的業務は削られていく。その結果、イノベーションも起こせずに低迷していく負のスパイラルに入ってしまう。

デジタル化は、平均的な市民へのサービス以上に、多様なニーズをもつロングテールの市民に対し、カスタマイズされたサービスを提供するのが得意だ。だからこそ、平均的市民向けサービスをデジタル化するという発想ではなく、ニッチな多様性のあるニーズを市民から吸い上げ、それらに対して多品種少量のサービスをデジタルで提供することを考えるべきだ。このようなアプローチをとっていれば、少数意見を吸い上げることにもなり、行政自身が進化していくきっかけにもなる。

デジタル田園都市構想が、市民の多様性に応える「ロングテール行政サービス」への第一歩になることを願ってやまない。

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