見出し画像

最後は商品力、だが伝える人(インフルエンサー)の必要性は変わらない

「インフルエンサーで売る時代は続くのか」が今回のお題・問いであるが、結論から言えば、これからもインフルエンサーで売る時代は続いていく。ただし、「インフルエンサー」という言葉が使われ続けるかどうかということについてはわからない。

そもそも「インフルエンサー」とは何だろうか。最近でいえば YouTuber や vtuber などといった人が象徴的だろうが、ひとくくりに定義すれば影響力のある有名人と言ってよいだろう。(余談だが、台湾(中国語圏)では、「代言人」と言われるようで、的を得た字義だと思う。)

その意味では、少し前であればブロガーがインフルエンサーとして注目されていたと思うし、マスメディア隆盛の時代であれば、「CM の女王」などと呼ばれるタレントさんが、今でいうインフルエンサーであった。

このように、広告やマーケティングの歴史を紐解けば、商品(の魅力)を伝える・代弁する人、今でいうインフルエンサーが、それぞれ呼称は変わっているが、商品(モノやサービス)を売るために大きな影響力を持ってきたことは変わらない。

そして、今後もこの構造は急に変わることはないであろうと思われる。歴史的に、メディア状況が変わり社会の状況が変わっても、何らかの形で今で言う「インフルエンサー」に相当する人が商品を売ることに一定の役割を果たしてきている。そして根本的には、モノやサービスが売れるには、買い手がその存在を知る必要があり、誰か(何か)がその存在を知らせる役割果たさなければならない。その時に、信頼できたり親近感を覚えたり憧れたりする人から存在を知ることで、商品の魅力とインフルエンサーの魅力をオーバーラップさせることは、人間の本能に根差す手法として、廃れることはないだろう。

しかし、インフルエンサーを起用すれば商品が売れるのかといえば、そんなことはない。ひとつには、 インフルエンサーを起用するためにはそれなりのコストとリスクが発生する。


例えば、家庭的なイメージを想起させる商品に起用されるCMタレントは、契約期間中に離婚をすることに対してペナルティが課せられる、といった契約条項が含まれていることがあった。おそらく今でも何らかの制約が契約に含まれる場合はあるのだと思う。それだけ、起用する側にもリスクが生じるし、起用される側にも制約が発生する。

またそうした制約の代償として、インフルエンサーの起用には一定のコストがかかってくる。特に、かつて、テレビ CM に出演するタレント契約では、知名度などに応じて数千万円から人によっては億円単位の契約金が必要になっていた。今ではそれが vtuber やブロガーなどといった人との契約になるので、縛りが緩いぶん、契約金額も少なくなっているのかもしれないが、いずれにしても何らかのコストが発生する。

こうしたコストとリスクを負担しても売り手にメリットが大きいとなれば、インフルエンサーが起用されることになるし、一般的にそれだけの価値がインフルエンサーにはあると思う。

ただし、これはインフルエンサーの力によって売るということであって、商品自体の力が本当にあるかどうかということとは、直接には関係がないというところが注意しなければいけないところだ。

どんなに有力なインフルエンサーを起用したところで、商品自体ではなくインフルエンサーの力で売っていた商品は、そのインフルエンサーとの契約が終わってしまえばその瞬間に売れなくなってしまうことになる。また、インフルエンサーをきっかけとして商品を購入した結果、満足しなかった場合には、インフルエンサーに対してもそうだが、発売している会社にマイナスのブランドイメージが付くことになりかねない。

新しく発売される商品の起爆剤として、また販売不振な商品のテコ入れとしてインフルエンサーを活用することは有力な手段だとは思う。しかし、それに頼って商品力自体を上げる努力を怠ってしまうと、インフルエンサーの起用が単なる一過性のカンフル剤でしかなく、長い目で見るとお金の無駄遣いになる危険性も高いし、実際にそうした例も思い起こされる。有力なインフルエンサーを起用することで満足し、安心してしまう、というのも、売る側にありがちな失敗である。

一方で、高い商品力を持つ商品を、口コミの力で売っていくということも今後とも有力な手段であると思う。むしろ SNS などオンラインメディアが発達した今では、こうした口コミによって特にインフルエンサーと呼ばれるほどには影響力がない人たちの口コミが、小さな影響力を束ねることによって、一定以上の売上を上げることも可能になってくるであろう。口コミを広げていく人たちは、従来の言い方でいえばファンであり、マイクロ・インフルエンサーと呼び変えてもいいだろう。こうして小さく火がついた商品は、それが広がることでメディアに取り上げられるなどすると、一層その販売にプラスの循環が働くことも期待できる。

お金のある大企業はインフルエンサーによるマーケティングを手段として取りうるが、資金力のないベンチャー企業やスタートアップが、いかにしてインフルエンサーにかけるコストを回避しながら商品を売っているか、ということは、大企業のマーケティング担当者であれば、ウォッチしていて損はない。一方、ベンチャー企業・スタートアップが大企業的なマーケティング手法を使って資金を使い果たしてしまう、というのも、典型的な失敗である。

こうして、今後ともインフルエンサーの活用は、商品を売るための一つの有力なオプションとして存在し続けると思うが、それ以外に口コミなど商品力自体の力によって売っていく、という方法も引き続き有力である。むしろ今のオンラインメディアやソーシャルメディアが隆盛な状況においては、その力をうまく活用することも必須の検討事項だ。また、流通に対する施策によって売っていく、というのも地道だが今後とも必要かつ有効な手段であり続けるだろう。そして、何より商品力自体で売っていくということが王道であり、それができれば、インフルエンサーを起用するかどうかということは、選択する手段の問題に過ぎない、ということも、今後とも変わらないだろう。

#日経COMEMO #インフルエンサーで売る時代は続くのか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?