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「誰かのために考えるチカラ」の2つの方向性(日経COMEMOテーマ企画_遅刻組)

変わる他者とのかかわり方

COVID-19 の影響は、騒動から1年が過ぎようとしている今でも依然変わりなく、対面で他者と関わり合う機会は激減した。テレワークが導入されている職場では、数か月単位でオフィスに出ておらず、職場の同僚とも顔を合わせていないという人も珍しくない。私の大学の後輩には、東京本社の大手IT会社で働いているが、完全テレワーク制が導入されているため、実家の大分県別府市に移住している人もいる。

このように、他者との関わり合いの在り方が変化する中で、他者への思いやりを大切にしようという動きが強まっているようだ。日経COMEMOのテーマ募集企画では、このような他者への思いやりを大切にしようという動きに対して「#やさしい時間」と題している。

「他者への思いやり」や「他者の気持ちに立って考える」という言葉は、社会人であれば誰もが指摘されたことがあるのではなかろうか。例えば、顧客への思いやりだったり、一緒に働く同僚への配慮だったりする。このような「他者のために考える」ときには、2つの方向性があるように思われる。

方向性①:組織内の他者のために考える

職場の生産性を高めるためには、職場内の特定の人だけが心地よく働くのではなく、構成員同士が相手の負担にならないように配慮しつつ、目的の成果を上げる必要がある。このとき、同僚への仕事の頼み方や日頃のコミュニケーションの取り方で、相手の立場になって考えることが必要だ。

しかし、相手の立場になって考えるというのは、言葉で言うほど簡単ではない。特に、仕事の場合は、会社や職場毎にお作法としてのコミュニケーションのルールが暗黙的に存在することが多い。この暗黙のルールは、その職場で効率よく仕事をこなしていくために自然醸成されたものだ。そのため、新人や他部署からの異動してきた人は、この暗黙のルールを知らずに行動してしまい、不信感や顰蹙を買うことがある。このとき、新人や異動者の言動に対して、同僚は「相手の立場になって考えることができない」と評価される。これは、お互いの暗黙のルールが異なることが起因となる。

当然のことながら、これまでの職場内の暗黙のルールは対面で同じ職場で仕事をすることを前提としてきた。しかし、テレワークなどでオンラインでのコミュニケーションが主になったとき、この暗黙のルールは適用できない。お互いの顔が見えない状態で、効率よく仕事をこなしていくためのコミュニケーションの在り方を模索する必要がある。つまり、新しい暗黙のルールができるまでは、仕事の頼み方やコミュニケーションの仕方において、相手の負担になっていないかどうかを想像する手間が増える。

テレワークが中心となった職場で、どのようなコミュニケーションや仕事の頼み方がふさわしいのか。職場の生産性を上げる方法を考えることは、組織内の方向性を持った「やさしい時間」と言えるだろう。

方向性②:組織外の他者のために考える

一方、テレワークによって、組織外と接点が増えたという人々も多い。テレワークのために労働時間が増えるということがメディアなどでは危惧されているが、反対に労働時間が柔軟になったために自分のために使える時間が増えたという人も一定数いる。

テレワーク下で複業(副業)が取りだたされている理由の1つはここにある。都心では顕著だが、通勤の必要がなくなった分だけ時間にゆとりができたという人がいる。また、日本全国ではテレワークで生産性が下がったという回答が多いが、世界的に見ればテレワークによってホワイトカラーの生産性は向上する傾向にある。つまり、日本国内であっても、一定数の人々にとってはテレワークは生産性を向上させる働き方となる。そのような人は、同じ仕事量を短い時間でこなすことができるようになり、時間的にも精神的にも余裕が生まれる。そのとき、できた余裕で組織外の活動に目を向ける機会となっている。

このように、高い生産性を持った人材の複業が広まるというストーリーは理想的だ。しかし、現実にはそうもうまくいかないらしい。日経新聞でも、COVID-19で副業定着するのではないかと期待を込めて記事を書いているが、どうにも政府が考える複(副)業のストーリーは所得補填の色合いが強い。

所得補填を目的とした複(副)業は、どうしても過重労働や過労による疾患のリスクが高くなる。

組織外における「#やさしい時間」は、生産性の高い人材ができた余裕で社会の課題解決に役立とうとする時間だろう。その期待が、地方への複業にも表れているのではないだろうか。そうであれば、COVID-19で所得が減った人々を援けたり、複(副)業をしなくては生活がままならない人々のために、解決策を考え、実行することに期待したい。



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