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新しい需要創造が、ウィズ・コロナ時代の消費をけん引する

例えば20年後、コロナ禍を直接知らない将来の世代に、去年春から起きた生活の劇的な変化を、私たちはどう説明するのだろう?せんじ詰めれば、それまで社会を縛っていた見えないタガが大きく緩んだと、この変化を要約できないだろうか?

もちろん外出自粛、ソーシャルディスタンス、マスク義務など、明らかな不便は増えた。しかし、その一方で、「何時までにオフィスへ行く」「何時に家に帰る」といった時間と空間の制約が忽然と消え、デジタル技術は「いつでも・どこでも」の自由を可能にしている。

技術自体はコロナ以前からあったものの、その可能性を余すことなく試す機会が、図らずもパンデミックという形で到来したのだ。

この結果、私たちの生活を規律づけていた正と副、オンとオフ、外と内の切れ目が、非常に曖昧になった。例えば、リモート勤務によって、本業と副業が楽に共存する。スーツは敬遠される一方、ビデオ会議でもきちんと見えるカーディガンなど、「ソフトテーラー」と言われるジャンルが人気だ。

自宅は仕事場であり、長期滞在できる温泉宿が自宅とみなされる。生活規律の代表選手である三度の食事でさえ、間食と紛れてきたという指摘がある。このように、今まで当たり前にあった枠がみるみる溶ける様を目の当たりにしたのが、2020年であった。

これが新しい生活様式ならば、ウィズ・コロナの時代には、この変化を正面から捉えて、新しい需要を刺激するものやサービスが消費をけん引するだろう。そんな新規事業を、どのように想起できるだろう?二つのキーワードから考えてみる;

一つ目は、「境界不在」だ。これまで常識的に分けていたものを、敢えてブレンドしてみる発想だ。例えば、化粧品は、スキンケアとメークに大別される。スキンケアは夜にゆっくりお手入れするオフのもの、メークは肌への負荷に目をつぶりながら、華やかに彩るオンのもの。

しかし、オンとオフがごっちゃになった今、この区別の意味が薄れてきた。ならば、一日中快適、スクリーン越しにはちゃんと見えるし、実はお肌のケアもできている、という化粧品第三のジャンルができるかもしれない。

二つ目は、「ながら」の可能性を考えたい。時間と空間の制約がないのであれば、マルチタスクは今までになく可能になる。職場でははばかられる美容機器も、自宅ならば、仕事をしながら堂々と使うことができる。肌の状態によってデータを解析し、常に最適な解を提供するといったBeauty as a Serviceも考えられるかもしれない。

もし主食と間食がブレンドするのであれば、罪悪感なく一日中つまめるような健康にいいスナックを開発したくなる(私の歯医者さんは反対するだろうが)。これは、「境界不在」と「ながら」の両方を兼ね備えたアイディアと言える。

生活のタガが外れることは、急にガードレールがなくなるような心もとなさがある。しかし、ポジティブにとらえれば、生き方の選択肢が増えることをも意味する。企業は、この変化を従来型延長の「巣ごもり需要」と狭くとらえると、機会を逸することになる。

例えば、巣ごもりで加湿器の売上が伸びているという。当然、加湿器を増産したくなる。しかし、「境界不在」かつ「ながら」の視点で考えれば、例えば、ウイルス除去までできるような清浄と加湿を兼ねた、新しい空気プロデュース機を投入するほうが、新しく大きな需要を作れるのではないか?

消費者心理は、コロナ禍で落ち込んでいる。しかし、生活の劇的な変化は、需要を生む良い機会でもある。いま、消費財企業の柔軟な発想力こそが求められている。

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