「返り血」を気にする米通商政策

今般のトランプ政権による対中関税発動に合わせてコラムを書かせて頂きました。要点は以下の通りです:

・慣れてきているのか市場の反応は徐々に鈍くなっているが、トランプ米大統領の口を突いて出るフレーズは着実に過激さを増している

・トランプ大統領は貿易収支の黒字・赤字を企業収益の黒字・赤字のように錯誤している節があり、「先方(中国)の輸出(売上)を制限すれば、痛手に違いない」という発想をいかにも好みそうであるが、米国の浴びる「返り血」も相応に大きい

・関税で輸出は減るかもしれないが、その場合、中国で生産してアメリカへ輸出しているアメリカ企業や中国の消費者を相手に財・サービスを提供しているアメリカ企業は必ず影響を被る。

・かつての日本車がアメリカで経験したように、アメリカ製品への不買運動などに発展する可能性はある。スターバックスもマクドナルドもナイキもその対象になろう。一方、アメリカの消費者を相手に財・サービスを提供している中国の企業はさほど多くない。結局、トランプ政権の通商政策は巡り巡って中国企業への利敵行為にもなりかねない。

・同様に「アメリカにおける中国人観光客」ほど「中国における米国人観光客」はいない。旅行収支は圧倒的にアメリカが黒字であり、これも反米感情の高まりを受けて減少する可能性がある。過去10年でアメリカの対中旅行収支黒字は10倍以上に膨らんだ。

・2017年のアメリカの中国からの財輸入のうち、最も大きなシェアを占めたのが13.9%で携帯電話、2番目が9.0%でPC、3番目が6.6%で通信機器と続き、このほか玩具、衣服、家具などが上位につけている。要するに「生活に密着した財」がほとんど。

・中国製品にかかる関税を引き上げることでアメリカの家計部門が被るインフレ圧力が相応に大きなものになることは容易に想像がつく。これは今年11月の中間選挙や2020年の大統領選挙で勝利を目指すトランプ大統領にとっても望むところではない

・7月6日から課税される第一リスト(The first set)では資本財が43%、中間財が52%とほぼ全てを占めており、消費財はわずか1%にとどまっている。家計部門への影響を軽微に押さえ、関税に係る「返り血」を押さえたいという意向が窺える。

・自由主義ではなく保護主義に傾斜した時点で比較優位ではない財・サービスも自前で供給しなければならなくなる。「良いものを安く」の状況は必然難しくなる。米中貿易摩擦の敗者を中国と決めつける論陣の危うさは、アメリカの貿易統計の現状を整理するだけでも十分感じることができる事実。少なくとも決して「簡単に勝てる」というほど甘い問題ではないことは確か。

https://www.businessinsider.jp/post-170758

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