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ウイルス共生社会をどう生き抜くか〜生命科学と人類史から読み解く〜

はじめに

今回の投稿内容については、5/30 11:00- Peatix【24時間つながろう】イベントジーンクエスト代表取締役であり分子生物学研究者でもある高橋祥子さんと一部話した内容です。


「新常態」の前に〜コンテクスターとしてのアプローチ〜


私はnoteのプロフィールで〜全ては構造と文脈を正しく把握することでシンプルに理解できる〜と自己紹介している。

事象における「意味の場」(構造/文脈)を繋げて説明できる解説者(Contexter)という役割が今後重要になってくる。

自分なりにみつけたその思考法や具体的なアプローチについては、機会を見てnoteに書く予定だ。

その思考法の要素の重要な一つに、本質を深く捉えるためには、

「構造」の検討の射程空間(Solution Space)を広く大きく多元的に、
「文脈」の検討の時間軸(Consequence)を構造に応じて正しく十分長く設定する

という事がある。

今回の新型コロナ禍についても、下図の様に、検討の射程空間と時間軸を広く十分長く設定しようと思う。

スクリーンショット 2020-05-29 15.10.05

結論から言うと、生命科学、人類史的な観点からみるとアフター/ウイズコロナ(After/ With Corona)等ではなく、人類は常にウィズウイルス(Always With Virus)の状態で共生し、時に闘い、進化/進歩してきたということだ。

1. 生命科学からの考察


1-1.ウイルスはアルゴリズム

まずは、新型コロナウイルス(COVID-19)の様なウイルスについて、基本的な事を理解したい。

ウイルスとは細胞を持たない無生物であり、遺伝子=アルゴリズムのみの存在であり、(寄り主)が存在して始めて自らを増殖させ拡散することが可能となる存在だ。

そもそも生命とは、遺伝子によって自己複製を行い、自らエネルギー得る仕組み(細胞)を持つ存在であり、細胞を持たないウイルスは、無生物である。但し、寄主に感染すると、増殖を行い生物的な動きをする、生物と無生物の間の存在と言われる所以だ。

1-2.膨大な数のウイルス・細菌、膨大な種類の抗体作成

ウイルスは、発見されているだけで5400種類、そのうち病原体として認知されているだけで217存在する。未知のウイルス・細菌は膨大に存在し、我々が根絶できたものは、天然痘(1980)と牛痘(2011)わずか2つにしか過ぎない。

但し、我々もまさにウイルスが与えてくれた獲得免疫機構を備えてはおり、一説には100億種類の抗体を作る能力を有している。(利根川進教授)

そしてその獲得免疫能力が、文明の誕生とパンデミック発生、集団免疫とさらなる進化という感染症の人類史を形作ってきている。


2.人類史からの考察

2-1.SARS3は必ずくる

SARSが流行した2003年の時は中国のGDPは約1.7兆ドルで世界の4%に過ぎなかったが、それがSARS2とも言える新型コロナ禍の2020年現在は、約10倍に増え15兆ドル世界の17%まで占めるに至る。

短期的に、グローバルサプライチェーンの調達先を見直したり、母国回帰の動きは起きるだろう。ただ、グローバル化は避けられない以上、それに合わせた人と物の国際流通は徐々に戻っていくだろう。またこれからは、人口が急激に増加している最後の成長市場アフリカ諸国がこのサプライチェーンに入ってくる。アフリカは、マラリア、天然痘、HIV,エボラ出血熱などこれまでも様々な人類の感染症のルーツでもある。世界がこのまま、国ごとに大きく分断され交流が亡くならない限り(そしてそれは考えにくい)、SARS3は、ほぼ確実に来ると予測して良い



2-2.悲惨な感染症の歴史〜人類は同じことを繰り返す〜


免疫のない新しい病原菌に暴露すると人類は多い時は普通に人口の3割から9割死亡してきた。


ユスティニアヌスのペストと呼ばれたペストでは、首都コンスタンティノープルの人口の40%減少、黒死病ではヨーロッパの人口の30-60%が死亡、新大陸進出のスペインが持ち込んだ感染症により現地インディオの人口は95%減少したと言われる(「疫病と世界史」- ウイリアム・マクニール)

人類は、感染症の度に、同じことを繰り返しているように見える。

ペロポネソス戦争では籠城戦のアテナイに疫病が流行り1/3の人口が亡くなった。歴史家トゥキュディデースが「戦史」では下記のように記している。

「ペロポネーソス勢が貯水池に毒を入れたのかもしれぬ、という噂さえ流れた。」
「医師はそれが何であるか実体をつかむことができなかった(中略)患者に接する機会が多かったので、自分たちがまず犠牲になる危険に晒された。」
「誰も看病しようとするものもなく(中略)患者は取り残されて死ぬほかはなかった。」
「ポリスの生活全面にかつてなき無秩序を広めていく最初の契機となった。」
「激しい盛衰の変化が日常化されたためである。その結果、生命も金もひとしく今日かぎりと思うようになった人々は、取れるものを早く取り享楽に投ずるべきだ、と考えるようになった。

1630年にミラノを襲ったペストの流行に関する記述がマンゾーニ著「いいなづけ」の第31章にある。

「ドイツのアラマン族がミラノに持ち込む可能性があると健康省が恐れていたペスト。それは、実際に持ち込まれ、イタリア中に蔓延し、人々を死に至らしめた…」
外国人を危険と見なし、当局間は激しい衝突。最初の感染者をヒステリックなまでに捜索し、専門家を軽視し、感染させた疑いのある者を狩りデマに翻弄され、愚かな治療を試し、必需品を買い漁り、そして医療危機。」

ロンドンの大ペストについて、デフォーは『ペストの記憶』にこう記している。

「親方衆は、弟子たちをー現代風に言えばー解雇し、家の建築が滞ったことで、関連するすべての職人たちの職は途絶え、人々は生活を切り詰めた。仕事を失った人々の中には、義援金のおかげで、苦境は改善されたという人もいたが、義援金でロンドンから避難を選んだ人のなかにペスト感染者もいた。彼らの移動は、疾病を隅々まで広げ、やがて死が追いついた。
そして、その後は「ペストそのものではなく、ペストが引き起こした災いのせいで」絶命する人々が出てくる。」
「空腹と苦境に襲われ、全てが欠乏するなか亡くなったのだ。住む家もなく、金もなく、友もなく、パンを得る術もなく、パンを施す人もなかった」

共通して言えるのが、
①噂、デマの拡散、必需品の買い占め、外国人の排斥
②感染拡大、医療崩壊
③都市から地方への拡散、経済不況と解雇と関連死、政権や権威の崩壊

時系列で起きた事が、現在起きたことと、驚くほど酷似している。

「コロナは26度のお湯で治る」というデマ、マスク/トイレットペーパーの買い占め、欧米諸国でのアジア系人種への差別、イタリア/ニューヨークの医療崩壊と東京/大阪の寸前の状況、コロナ帰省と地方の困惑と排他、そして自粛による経済恐慌と雇い止め、そして安倍政権の支持率の急落....

全て21世紀の我々がつい最近、経験したことだ。


3.新常態(ニューノーマル)に向かうのは人々の意思


ペストの結果、ローマ帝国や中世封建制度は崩壊し、儀式や祈りが役に立たなかった宗教の権威は落ちた。

ウイルスなどの感染症拡大は、既に構造的に限界が来ていた存在の衰退や滅亡を加速させる。

一方で、新しい社会に順応した存在は、新しい未来、新常態を切り拓いていく

黒死病下のイタリアで食料供給、隔離検疫制度の導入、医療の手配、行動規制等現実的な能力を示した都市国家は世俗の勢力を拡大させる。(メディチ家の祖先は医師か薬種問屋であり「薬」メディスンの語源)

個人としても、疫病が流行し敗北したペロポネソス戦争の終結から死刑になるまでの5年間にソクラテスは「無知の知」などの問答を積極的に行いギリシャ哲学がここから生まれてくる。

アイザック・ニュートンは、ケンブリッジ大学が封鎖されてしまった一時帰省の時に、微積分、プリズム光学、万有引力の着想を得たとされている。

その時、変化できた存在と変化できず滅びていく存在に別れる

「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ。」
- チャールズ・ダーウィン


今回のコロナ禍、行動の自粛をしてStay Homeをしていたからといって
新常態(New Normal)が訪れるわけではない

新しい未来を切り開くのか、人間の変化に対する受容性と可塑性の話しであると思う。

ローマ帝国、封建領主、中世キリスト教会、として滅びるのか
ギリシャの哲学者、ルネサンスを生む都市国家、近代科学の祖になるのか

西暦2020年6月はあとから振り返ると100年かかる大きな変化の最初の1ヶ月なのかもしれない。

全てはこれからの人々の意思次第だと思う。

人類社会は、ウイズコロナなどではなく、ずっとウイズウイルスの歴史であり、これからもあり続けるのだから。

修正(2020.5.30 8:00):

当初の投稿は長文かつ論点が多すぎたのので少し編集しました。

生命科学編、人類史編のそれぞれの完全分析版は本日のCOMEMOオンラインセミナーで使用したスライドとともに、2つの記事として投稿します。


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