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スローに生きる〜役に立たないモノやサービスの効用

(Photo by Karlis Reimanis on Unsplash)

ほしいものはありますか?と聞かれたとき、モノがほしいと答える人は減ってきているのではないだろうか。安心安全、健康、人とのつながり、あるいは時間、睡眠などと答える人もいるかもしれない。

そんな中、便利や効率化を追求してきた日本の真面目なメーカーが、「役には立たない」ロボットを次々と開発している。そして、モノではなく、ロボットというアバターを通して、ソフトで価値を提供しようとし始めている。


役に立たないモノがほしい

可愛いけど、正直、高い。役に立つわけでもないのに、各社、癒し系ロボットを次々と開発している。もちろん、癒し系ロボットがほしいという物欲と言うこともできるのだが、この現象を「モノを買っても幸せになれない時代の到来」と捉えることもできるだろう。

家の中に「役に立つべきモノ」は、もうすべて揃ってしまっているから、逆に「役に立たないモノ」を買いたいと思うようになってきているのだ。


効率化よりも手間にお金を払う

役に立たないロボットたちは、意外なことを言うなどして、オーナーを楽しませる。オーナーたちは、意外なことを言い続けることや、新しい芸を覚え続けるために、サブスクリプションモデルに申し込み、定額のサービス料まで支払う。これは便利さを追求してきた家電というよりは、ペットを飼うような、「コストをかけて手間を手に入れる」タイプの消費になるだろう。

効率化や便利が大好きなパナソニックさえも、「役に立たないこと」をめざした「弱いロボット」をテスト販売した。

一見、「効率社会で疲れた人が一時の癒しを求めた消費」にも見えるが、この変化はもっと本質的な「脱効率社会」への変化の兆しと捉えるべきではないだろうか。もしこのトレンドが確かなものになれば、パナソニックは次に、おしゃべりな洗濯機とか、背中をなぜるとあったまるアイロンとか、役に立たずに手間のかかる機能を次々と搭載してくるかもしれない。

それは、DIYや料理のように意味とかやりがいのあるものではなく、ゲームのような達成感のあるものでもない、それは「効率社会からの脱却」を手助けしてくれるモノなのだと思う。なぜなら、料理のように意味があるものは、「料理を効率的に」という商品を作りたくなってしまうからだ。この衝動を抑え、効率的な生活を手放すためには、「あえて役に立たないモノ」であることが重要なのだ。


スローに生きるには?

ファストな生き方が、つねに時間に追われる生き方だとすると、スローに生きるということは、時間の制約から解き放たれた生き方である。単にゆっくりなわけではない。私たちを取り巻く社会は、個人に役割を与え、場所を与え、時間を管理しようとする。このルールに則って生きること、それがファストな生き方の正体である。

つまり、スローに生きるために必要な習慣は、ファストな生き方があてはめようとしている役割、場所、時間の3つから自由になることだ。

スローな生き方の習慣(1):役割から自由になる

役に立つ道具は、役割と紐づいていることが多い。だから、役に立たない道具は、「役割を果たそう」とする効率社会から私たちを自由にしてくれる。役に立たないロボットが私たちに教えてくれることは、人間も役に立たなくても存在意義があるということだ。

これからは、便利だとか役に立つということではなく、「役割を果たさなくてもあなたには存在意義がある」ということを思い起こさせてくれるモノやサービスが増えるだろう。

スローな生き方の習慣(2):場所から自由になる

癒し系ロボットと同じくらい役に立たないのが、ワーケーションだ。旅行してリラックスするわけでもなく、ただ移動した先で仕事をする。言いたいことは、役立たないからこそ、ワーケーションは素晴らしいということだ。

これからは、目的地があって移動するということではなく、「あなたはどこにいてもいいのだ」ということを思い起こさせてくれるモノやサービスが増えるだろう。

定額泊まり放題サービスの「HafH(ハフ)」なども、便利だから使うというよりは、「私は世界中のどこにでも家がある」というアイデンティティを買っているのだと思う。

スローな生き方の習慣(3):時間から自由になる

時間から自由に生きるためには、企業経営を反面教師にすれば良い。四半期決算、半期決算、年度計画。聞いただけで、時間に追われている気がしてくる。だが、スローに生きるとは、必ずしものんびり生きることを意味しない。時間の制約から解放されて、自由に生きるということだ。

企業経営の逆張りをすれば良いのだから、長期視点で生きるのもいいし、あるいは逆にイマココ、毎日その日がすべてだと思って生きるというのでもいい。時間から自由になるということで言えば、予定を明確にしていない旅などは、その象徴だろう。自分の人生を予定のない旅だと思うのもいい。

これからは、仕事は成果給になり、労働時間を切り売りするのではないという意識も制度も進むだろう。それに伴って、時間から自由になるためのモノやサービスが増えるだろう。忙しいことを前提としたモノやサービスは、付加価値のないものになっていく。


スローに生きることのできる環境は、急激に広がっている。適切な制約を心地よいと思うのをやめて、制約というカンファタブルゾーンから一歩出て、役割、場所、時間から自分を解き放ってみてほしい。

そうすれば、制約から自由に生きるあなた自身がほしいと思うモノやサービスが変わるだろう。そしてきっと、これまでにはない新商品や新事業がどんどん思いつくだろう。

イノベーションは、制約に当てはまったファストな生き方からは生まれない。スローな生き方は、楽だし、楽しい。そして、イノベーションはそこからしか生まれない。そう信じて、一歩踏み出してみませんか?



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