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米国のテキサス、フロリダ、ルイジアナ州などは、ESG投資に疑義を持つ州で、促進を潔しとしていない。企業年金運用でESG投資を考慮した投資判断を禁じる決議案を米議会が可決したことで、ESG投資一辺倒の流れが停滞を始めたことは事実である。欧州とて同じで、金融機関にとって、既存の重要顧客である石油・ガス向けの融資については現実とバランスさせながらの選択を考えるのも無理からぬこと、である。ネットゼロという目標とそれに向けたトランジションを取り入れるとしても、そのトランジションの程度を現実に重きを置くか、理想に重きを置くかで、かなり違うのは当然であり、結果、行動計画が採択されないことになる。

とはいえ、こうした目先の悩みとは別に、地球環境は日々変化しており、行動をとる必要があることは待ったなし、である。

欧州委員会は今年はじめ、グリーン・ディール産業計画に関する暫定的な発表に置いて、気候変動に対するEUのコミットメントの重要性とネットゼロに向けた産業の転換の重要性を詳細に示した。グリーン・ディール産業計画はIRA(米国のインフレ削減法)に基づく大規模な税制優遇措置と補助金に対抗するための計画であり、規制環境の簡素化、資金アクセスの迅速化、人材のスキルアップ、貿易の保護と促進の四つを柱としている。第二の柱の一環として、欧州委員会はまだ配分されていない2250億ユーロのNGEU(次世代EU)融資をグリーン・トランジションとクリーン・テクノロジー生産のための追加資金として、各加盟国に提供する。欧州委員会はグリーン・ディール産業計画を構成する三つの主要要素、すなわちネットゼロ産業法NZIA、重要原材料法、電力市場改革に関する法案に関する法案と規制案を公表したところだ。グリーン・ディール産業計画とその構成要素は中期的にEU経済とEUのクライメート・トランジションにトータルでプラスに働くことになると考えられる。学問的にも、公共投資と公的支出については財政乗数が大きく、EU域内で実行されるグリーン投資のための公的支出の財政乗数は特に大きいとされており、IRAに対抗する意味でも欧州は引けを取れない。

バランスをどう取るかは、常に当事者にとって重要でも、大きな目線で眺めれば動く方向は自ずと見えているはず。現実にうまく折り合いをつけて、経済成長の果実を獲得するのはどの地域で、どの国か。気候変動貿易戦争といった大げさなことまで想定する必要は今のところないであろうが、足下の停滞の話が出るたびに競争のルールを見直し、優位性を見極めておくことが重要である。


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