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21世紀生まれの新卒採用③【求職と選抜のテクノロジー化】

個人の求職者にとって、テクノロジーによる採用の変化で最も関心が高いことは、AIによる自動診断ではなかろうか。レピュテーション・ドッコトム社の創業者であるマイケル・ファーテック氏と個人情報保護管理責任者のデビッド・トンプソン氏は、著書『勝手に選別される世界』にて、機械がビックデータを分析することで、すべての事象がリアルタイムで評価される世界が来ていると述べている。

求職や採用は、AIによって自働化されやすい領域だ。なぜなら、マッチングの予測はコンピューターが最も得意とする分野であるためだ。現在は、人の意志が介在することが当たり前となっている求職活動や採用活動もプロセスの大部分が自働化される可能性が高い。それでは、テクノロジーは個人の求職活動や企業の選抜活動をどのように変化させるのだろうか?

本稿では、採用に関する調査結果や基礎理論と照らし合わせながら、個人の求職活動と企業の選抜活動のテクノロジー化について考えていく。


テクノロジーで「職探し」という概念はなくなる

つい先日、とうとう「Googleしごと検索」が日本にも上陸した。「Googleしごと検索」は、2017年6月にアメリカでリリースされ、2018年には12カ国以上(アメリカ・カナダ・インドなど)に展開している。求人情報の検索サービスはIndeed(2005年に米国で開始、日本では2009年から)が先行するが、求人探しをネットで行うことはどんどん当たり前となってくる。

リクルートワークス研究所の「求職トレンド調査2017」によると、日本では、26%が「インターネット求人サイト」が最も有効な求職手段として選択しており、次点の「公的機関(ハローワークなど)」や「リファーラル(職場の同僚や知人からの紹介)」よりも評価されている。

しかし、日本のこの傾向は他国と比べて弱く、他国では「インターネット求人サイト」の重要度がより高い。(米国:37%、ドイツ:40%、英国:43%、フランス:34%、オーストラリア:48%、ロシア:53%、13カ国平均:36%)

また、SNSによる求職活動は、日本は僅か2%のみであり、13カ国平均の10%をかなり下回っている。同調査では、求職活動における「インターネット求人サイト」と「SNS」の利用というテクノロジーに関連する入職経路が、調査隊長の13カ国中、最下位が日本である。つまり、求職活動における日本のテクノロジー化は他国と比べて進んでいない

また、求職活動におけるSNSの活用は、今後、確実に拡大してくる。世界最先端の採用活動を紹介するカンファレンスである「SourceCon」によると、欧米の採用担当者、特にソーサーと呼ばれる候補者プールを作る役割のプロフェッショナルは、その90%以上がリンクトインを活用して求人の候補者を探している(リクルートワークス研究所、2018)。リンクトインも、採用担当者向けの有料プランを用意している。求職者は、求職中のステータスを「Active」にしておくだけで、企業からスカウトの連絡が来る。

SNSはリンクトインだけではない。エンジニアを探すときは、プログラム・コードやデザイン・データなどを保存、公開することができる「GitHub」が有益なツールとなる。また、医療従事者の登録番号を検索できる「NPI NO」などが使われることもある。

候補者を探すのに、そもそも広告を出す必要がないサービスもある。求人内容や職務経歴をアップロードすると、マッチする人材をウェブから探し出し、ランク付けして情報をひとまとめにして表示する「Hiretual」や、エンジニアやデザイナーのSNSの情報をリスト化している「Authentic Pros」がある。

テクノロジーの進歩によって、求人と求職活動のプロセスは急激に変化を遂げている。近い将来、仕事は探すものではなく、インターネット上のデータから勝手に選抜され、声を掛けられることで仕事が決まることが当たり前となる時代が来るだろう。エンジニアや研究職など、一部の職種では既に生じている変化だ。


選抜は「評価」と「合意形成」に分けられる

求人に対して応募者が集まると、次に選抜のプロセスとなる。選抜では、主に3種類のマッチングが見られると言われている。第1に、企業文化と個人の価値観の適合度を見る「P-O fit」。第2に、仕事内容と個人の能力・資質の適合度を測る「P-J fit」。第3に、配属先の職場環境と個人のワークスタイルとの適合度を評価する「P-E fit」だ。

P-O fitに関連する分野では、AIによる企業文化とのマッチングを診断するサービスも出始めている。上海に本社を持つ「Seedlink」は、AIによって設問に対する自由回答形式の文章を分析し、社内の優秀な人材が使う言葉や文章のスタイルとのマッチングから将来の活躍が予測される候補者を抽出する。

P-J fitに関連する分野では、日本でも注目を集めているAI面接がある。代表的なサービスは「HireVue」だ。IBMやユニリーバ、メルセデスベンツなど、名だたる優良企業が採用しているツールだ。また、国産のサービスとしてタレントアンドアセスメント社の「SHaiN」も出てきている。現状では、対人面接の補助として使われることが多いようだが、筆者の訪問したことのある幾つかの欧米企業では対人よりもAIによる面接の方が精度が高いと評価されていた。

それでは、選抜では人が介在する必要がないかといいうとそうではない。P-E fit は、採用した人材が実際に一緒に働く同僚と人間関係を作り、職場環境に適応できるかが問題だ。特に、プロジェクトベースでの仕事が増える中、P-E fit の重要度は増している。それでは、P-E fit を高めるためにどうすべきか。その解決策の1つが、入社後に一緒に働く同僚との合意形成だ。

採用した人材が活躍するためには、職場に馴染み、同僚と人間関係を構築することが重要だ。入社後に新人が適応するための施策を、オンボーディング(Onboading)と呼ぶ。Googleでは、新人が初出社するときに配属先部署の採用責任者にメールが送られる。メールには、24時間以内に行わなくてはならない5つのタスク(期待する役割と責任の確認、同僚とのマッチング、社会関係構築の手助け、適応状況に関する定期的な相談、自由闊達な意見交換の奨励)が記載されたチェックリストが同封されている。新人の職場環境への適応は、チェックリストが配られるほど重要なマネジメント事項だ。

職場環境への適応は、配属前の選抜段階から始まる。候補者経験(Candidate Experience)と呼ばれ、選抜時の経験が入社後の適応やパフォーマンスに影響を与えることがわかっている。そして、候補者経験を高めるためには、選考プロセスへ配属先の従業員を参加させることが有効な手段の1つである。そのために、対面での面接を何度も行ったり、候補者を食事会に誘ったりすることで、選抜プロセスに巻き込む工夫がなされる。

職場環境に適応させ、新人を仲間として迎え入れるプロセスは、テクノロジーで代替することができない。機械的に選抜された人材に対して、すぐに一緒に働く仲間として人間関係を作ることは難しい。現状でも、配属先が採用プロセスに全く関与しないケースでは、配属後に職場の同僚から「使えるかどうか様子見してやろう」と構えられ、「仲間として迎え入れよう」という態度がとられないことがある。新人の適応を促すために、配属先のメンバーに選抜の当事者となってもらうことは重要なステップだ。

新卒採用に代表される日本の採用慣行では、配属先のメンバーとは出社するまで顔を合わせないことが少なくない。その分、P-O fit や P-J fit にコストがかけられる傾向にある。しかし、テクノロジーは P-O fit と P-J fit を高い精度で代替することが可能だ。その分、配属後に職場の同僚を選抜プロセスに加え、「仲間として迎え入れよう」という合意形成を行うことが、これからの選抜プロセスでは重要となるだろう。


まとめ

テクノロジーの進化は急速に起こっており、まさに日進月歩で新しいサービスが生み出されている。そして、新サービスは従来の求職活動や選抜プロセスで人が介在していたタスクを自働化する。

求職活動では、自分で求人を探すのではなく、自動で最も適した求人がマッチングされるようになるだろう。そのためには、個人と企業はより良い条件のマッチングが起こるように、自らのレピュテーションを高めるデータを残していく必要がある。それは、東大卒やハーバード大卒のような学歴の話ではなく、その時代に求められている職務経験を積み、スキルを身に着けているかだ。自分のキャリアを自律的に作り上げていくことが、社会人に成り立てのキャリアの初期段階から必要になってくる。また、企業は優秀な人材が働きやすい労働環境を整え、個人のキャリア開発に有用な職務設計を行う必要が出てくるだろう。つまり、良い条件の企業とマッチングするためには個人はキャリアの自律が求めらる。一方、企業はタレントマネジメントの整備が優秀な人材を確保するために必要となる。

テクノロジーの発展に適応することは、個人にとっても、企業にとっても軽視することができない時代の流れだ。「世界はテクノロジー化しているのに、日本だけはガラパゴス化している」と言われないよう、時代の流れに乗り遅れることがないことが期待される。ガラパゴス化は、優秀な人材が海外から日本に集まらないところが、優秀な日本人の海外流出にも繋がるだろう。

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