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「為せばなる」と「幸せ」

 いつから「為せばなる」という有名な言葉を聞かなくなったのだろう。
 私の子供の頃は、ことある毎に母から聞かされていたのに。
 
 私は、ハピネスを科学することを通じて、社会をテクノロジーで幸せにできないかを研究している。これに関連して、注目すべき発展がこの20年にあった。
 それは、我々の「持続的な幸福」を決めている要因には「教育や体験によって変えられる要因がある」ことだ。これは重大である。なぜなら、これが本当ならば、「我々は教育によって幸せになれる」ことになるからだ。しかも、この「教育可能な持続的な幸福」が高い人は、業績も給与も健康度も高いことが確かめられているのである。
 この研究の中心になったのが、ネブラスカ大学のフレッド・ルーサンス名誉教授であり、全ての科学者の中で、論文の被引用数が多いトップ1%に入り、米国の経営学会の会長も務めた方である。ネブラスカ州は日本にはなじみのないが、ギャラップという有名な調査会社があり、この周りに心理学や関連産業が発展している。今は一大分野になった「ポジティブ心理学」という学問が約20年前にスタートしたのもネブラスカ州である。
 教授によれば、持続的な幸せは以下の4つの要因からなる。(1) 自ら道を見つける、(2) 自信をもって行動する、(3) 困難にも立ち向かう、(4) 物事の明るい面を見る、これを合わせて「心の資本」と呼んだ。頭文字をとると"HERO(=Hope/Efficacy/Resilience/Optimism)"になって語呂が良い。企業業績との換算式もある。
 すなわち「自ら道を見つけ、自信をもって行動し、 困難には立ち向かい、物事の明るい面を見る人」は、それだけで幸せだし、そのような心をもった人は教育可能だというのである。そのような教育は、幸福と業績を生み出すのである。
 この「幸せな人」の特徴を何度も読み返している時に、はっとに気づいたことがある。これは、私が子供のころに親から受けた教育そのものではないか。
 
 為せばなる、為さねばならぬ何事も、ならぬは人の為さぬなりけり
 
この上杉鷹山の有名な言葉は、50年前にはよく聞いたものである。実際、隣にいる家内に聞くと、やはり子供のころによく親に言われたという。
 もしも「心の資本」の理論が正しければ、これを徹底して教育すれば、持続的な幸せ、企業業績が高くなる。一方、これの教育を怠れば、持続的な幸せや業績が低下する。今の停滞した日本の状況には、いろいろな原因が説明されている。しかし、本質はこの「心の資本」の低下ではないか。
 
 そういえば、いつから「為せばなる」と言わなくなったのだろう。ここで二度目に、はっとした。考えると、私は親として、我が子に一度も「為せばなる」をいったことがないではないか。私の世代になって、子供達に「為せばなる」を教育しなくなったのが、その原因ではないかと。
 「精神論を避けること」が行きすぎて、「科学的な心の資本の教育」までおろそかになっていたのではないか。
 いまからでも子供にいってみようか。どんな反応があるだろうか。今の子供にはどのように受け入れられるだろうか。

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