「缶詰め」の効用~世界経営者会議に参加して改めて気がついたこと

今月開催された世界経営者会議に、私もオンライン参加することができた。初めてのオンライン開催ということで、主催者も色々と苦労をして開催・運営されたことと思う。

個別の講演者の内容もさることながら、オンライン参加という形態について思うことがあったので書き留めておきたい。

今回の世界経営者会議は2日間にわたって朝からプログラムが組まれ、時間割に従って自分の聞きたいスピーカーの話を聞くというスタイルになっていた。

このため、自分が他の用事や打ち合わせなどがある時には聴講を中断し、自分の聴きたい講演者の時だけ聞くということも出来た。実際に私自身もオンライン・オフラインを含めた用事がある合間を縫って、世界経営者会議の講演を聞くことになった。スマホで講演を聞くこともできたので、聴きたいが腰を落ち着けていられないタイミングの講演は、実際に移動中の電車内で聴いたりもした。

これがリアルな開催であれば、開催地まで足を運んで会場に「缶詰め」になるので、基本的には朝から晩まで、自分があまり興味がない講演も聞く、ということにしたであろう。

しかし今回のようなオンライン参加になれば、自分の日常生活の中で講演を聞くことになるので、どうしても定例的に入っているミーティングなどは、この世界経営者会議を理由にスキップしにくい。あまり関心のない講演であればなおさらだ。

こうしたことを考えると、リアルに開催することは、よく言われるように人と人が対面で顔を合わせることの効用もさることながら、自分が「缶詰め」な状態になり、他のことが出来ない状況の中で講演に集中をする、そしてタイトルを見ただけでは自分には興味がないと思われたものでも、何か新しい発見やヒントを得るという、セレンディピティの可能性も含めて効用があるのだな、ということを改めて思った。

オンラインをメインにせざるを得ない今年の状況で私たちが失っているもののひとつに、この「缶詰め」の効用があることを、今回の世界経営者会議で自覚した。

今後も、オンラインとオフラインのハイブリッドな形でこうしたイベントが開催されることになるのだろうと思うし、それはまさに今回のテーマである「新常態」と言える。当然のことながら、参加の間口が広がるというオンラインの良さもあるわけで、オフラインが出来るようになったら昔通り、というのでは「旧状態」にもどることになる。

今回の経験を踏まえて思うことは、実際に用意されていた受講プランの「プレミアムパッケージ」のように、あえてホテルに宿泊して講演を聞くということであれば「缶詰め」的な効用が期待できるのではないかと思った。さらに、感染防止に配慮しつつ、このプランの参加者がバンケットルームの1室に集まってパブリックビューイングのように講演を聞くのであれば、参加者同士の交流も一定程度かなうことになるだろう。

東京在住の作家であっても山の上ホテルに缶詰めになって原稿を書かされる、というのは伝説と言ってもいい話だが、東京にいながらでもこうしたホテルに缶詰めになって講演を聞くことには意味がありそうだ。

そして、こうしたホテルでの会場が日本と世界のいくつかの都市でできるのであれば、参加者が分散しているとはいえ一定程度集まる形で、オンラインとオフラインのハイブリッド開催ということも考えられるのかもしれない。本当に缶詰めになりたい人であれば、自分が普段住んでいる町ではなく、離れた場所のリゾートホテルなどで参加する、ということも考えられるのではないだろうか。

一方、今回のように場所に縛られずオンライン参加する人であれば、必ずしも講演プログラムのスケジュールに縛られて視聴するということでなくてもよいのではないかと思う。講演のなかには事前収録されているものもあったようであり、そうであればなおさら、時間に関係なくオンデマンドで視聴ができるというスタイルになっていると、より一層多くの人が沢山の講演を見られるのではないかと思った。とはいえ、いつでも見られる、となると結局見ないことになる場合も多いと思うので、「会期中のみ」いつでも見られるといった制限はむしろあった方がよい気がする。

もちろん、視聴できる時間が決められていることによって、その時間をどうしても開けるという主体的な参加をする人を増やすという効用もあるのだと思う。しかし一方で、せっかく時間を合わせて参加したのに事前収録で、質問をしようにもできないようになっていたりすると、なぜこの時間にわざわざ合わせなければならないのだろう、と思ったことも事実だ。

とはいえ、イベントのオンライン開催、ないしはオンラインとオフラインのハイブリッド開催は、まだまだ事例も少なく手さぐりで、これから様々なトライがあってより良い方法が見つけ出されていくのだと思う。

来年の世界経営者会議では、今年の結果も踏まえて、より参加しやすく、一層有効な形でオンラインとオフラインのハイブリッド開催がされることを期待したい。

#世界経営者会議 #日経フォーラム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?