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スーパーマーケットが業態転換するダークストアの正体

海外では、既存のスーパー店舗からeコマース専業施設へ転換することが、小売業の新たなトレンドとして浮上してきている。これらの施設は、消費者の来店は受け付けずに、住所も正式には公開されていないことから、「ダークストア)」と呼ばれて、欧州や米国に広がっている。

2017年にアマゾン傘下となった、米スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ」は、2020年9月にニューヨーク・ブルックリンで古い倉庫を改装したダークストアを開業したことから、他のスーパーチェーンでもeコマース専業施設を開業する動きが相次いでいる。この動向については、小売業だけでなく、物流業界や不動産業界にとってもビジネスチャンスが生まれている。

【即日配送を実現するダークストアの正体】

ダークストアの本質は、人口が数十万人以上の都市を1つの商圏と捉えて、生鮮品、食料品、日用雑貨、アパレルなどのオンライン注文を受け、当日または翌日までに配送するデリバリーサービスの拠点であり、物流業界では「マイクロフルフィルメントセンター(MFC)」と定義されている。

MFCは、500~2000平米の倉庫や空き店舗を活用した小規模サイズのeコマース専用の物流施設だが、AIやロボットを導入することで少人数のスタッフで大量のオンライン注文を捌けるように設計されている。

ピッキング→梱包された荷物は、提携する宅配便業者やデリバリー業者によって、近隣エリアの注文者に対して、最短で2時間以内に配送される仕組みになっている。また、注文者が駐車場で商品を受け取れる「カーブサイド・ピックアップ」に対応しているケースもある。

ウォルマートでも、2019年にニューハンプシャー州セーラムの店舗に隣接した土地で、同社初のマイクロフルフィルメントセンター(MFC)を立ち上げて、生鮮食料品のオンライン販売モデルを運用し始めている。この施設では「Alphabot」というロボットが導入されて、約1850平米ある倉庫内で立体的に組み上げられたラックの中からピッキングをして、スタッフが最終チェックをした後、自動梱包される仕組みになっている。

ウォルマートは、このようなマイクロフルフィルメントセンター(MFC)を、食料品の宅配ニーズが高い全米各地のローカル店舗に設置することで、即日配送サービスを充実させる計画だ。これまでにも、店舗に陳列された商品をスタッフが手作業でピッキング、宅配するサービスは実施してきたが、この方式では1日に100件程度の注文が上限になっていた。

しかし、MFC方式であれば、その10倍の注文にも対応することができる。また、ロボットの導入で1注文あたりのフルフィルメントコスト(受注から配送までの費用)も抑えられるため、配達料の割引きや無料化の特典を顧客に与えることも容易になる。

ウォルマートは全米で約5万店のスーパー店舗を展開しているが、その中のおよそ1割にあたる5000店舗にMFCを併設する計画を立てており、ライバルとなる同業スーパーチェーンでも、同様の動きが加速するとみられている。

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【コロナ禍で変化する食料品の買い物習慣】

 米国でも、2019年までは食料品のオンライン購入率は3~4%と低かったが、2020年のパンデミック以降は、オンライン購入客が約5倍に伸びている。オンライン食料品ビジネスの市場調査を行う「BrickMeets Click」によると、米国の食料品デリバリーサービス売上規模は、2019年8月に12億ドルだったのが、2020年6月には72億ドルとなり、利用者数でも1610万人→8500万人に急成長している。

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野菜、肉、魚などの生鮮品は、店頭で実際に商品を確かめて購入したほうが良いと考える消費者は一定の割合でいるが、3密を避けるためにもオンラインで購入したほうが便利と考える層も、30代までの若い消費者と、60代以降の高齢世帯を中心に増えている。

食料品をオンライン注文する消費者の特徴は、デリバリー料金の負担を減らすため、食料品、水、日用品、ペット用品などを、まとめ買いする傾向があり、店舗の来店客と比較しても1回あたりの注文単価は高くて、月に2回程度の利用をしている。

デリバリーサービスは1度利用するとリピートする確率が高いのも特徴であり、BrickMeets Clickの調査では、コロナ禍で米国世帯の31%が食料品のオンライン購入を経験しているが、2024年までには66%にまで伸びると予測している。そうした状況から、米国のスーパーマーケット業界では、マイクロフルフィルメントセンター(MFC)への投資が加速している。

米国でも、マイクロフルフィルメント施設の投資効果は、これから検証されていくところだが、倉庫や空き店舗を改装する方式で、既に開発済みの物流テクノロジーを導入するのであれば、同じ面積のショッピングセンター(来客用店舗)を建設するよりも安く済む。一方で、在庫商品の回転率は従来店舗の3倍以上に伸ばすことができる。

宅配にかかるコストは最大にネックとなるが、年間または月間の買い物金額が多い顧客ほど、配達料金が割引されていくプランを作ることや、駐車場で注文商品の受け渡しをすることで、ネットスーパー事業の収益性を高めていける余地はある。Uber Eatsのようなフードデリバリーサービスが飲食業の常識を変えたのと同様に、スーパーでの買い物スタイルにも変革の波が訪れることは間違いなさそうだ。

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