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職業として考える「ユーチューバー」の労働生産性と収益構造

 ユーチューバーという職業が注目されはじめたのは2011年頃からのことだが、その後もYouTubeのトラフィックは伸び続けており、10~20代の若者にとっては起業の手段にもなっている。日本のトップユーチューバーは、チャンネル登録者数が600万人を越してきており、月間の動画再生回数でも3,000~5,000万回という規模になっている。

ユーチューバーの収益は、動画に挿入されるGoogleからの広告(アドセンス収入)がベースになっており、国内の人気クリエイターが多数所属している、UUUMの収益状況からすると、1再生あたりの収益額は約0.1~0.3円と算定することが可能で、日本でもトップクラスのユーチューバーは、年収も数億円の規模になる。

ただし、Googleからユーチューバーに支払われる広告収入の計算はそれよりも複雑なアルゴリズムで、成功者とそれ以外の者との収益格差は広がる構造になっている。

ドイツのオストファリア応用科学大学、マティアス・ベアトル教授がブルームバーグ・ニュースに発表した研究レポートによると、ユーチューバーを目指す者のうち96.5%は、米国の貧困世帯を上回るだけの広告収入を稼げていない。具体的には、月間トータルの動画視聴回数が月140万件を超すユーチューバーは、上位3%の中に食い込むことが可能だが、これでも年間の広告収入は16,800ドル(約185万円)である。

上位3%のチャンネルがYouTube全体の視聴回数を牽引する傾向は年々高まっており、2006年には全体の64%だったが、2016年には90%にまで上昇している。つまり、ユーチューバーとして成功できる空席は年々少なくなっているのは事実である。

‘Success’ on YouTube Still Means a Life of Poverty(Bloomberg)

「ユーチューバーの上位3%でも年収16,800ドル」というデータは、ネガティブに捉えられる一方で、完全に夢を捨ててしまうほどではない。比較対象として、高校球児(約15万人)の中で、ドラフト会議で指名されてプロ野球選手になれるのは毎年90名前後であり、0.06%の確率に過ぎない。サッカー部員の高校生がJリーガーになれる確率も0.1%未満であり、好きなスポーツを仕事にできる者は少ない。

一方、ユーチューバーを映像クリエイターの新職業とみれば、スポーツや音楽の世界よりも、生計を立てやすい道筋が出来ており、人気に火が付けば高収入を稼ぐことができる。1960~70年代の若者がロックスターを夢見てエレキ・ギターを手にしたように、今の若者はユーチューバーを目指す。

ユーチューバーの日常は、10分程度の動画を毎日投稿することを日課にしているが、動画の撮影から編集には、慣れていても3~5時間はかかる。それ以外にも、新しい動画の企画作りや、ロケ先での撮影許可を取ること、撮影に必要な小道具の調達などで時間と資金はかかり、それをすべて1人でこなすのは、かなりの重労働になる。YouTubeの規約では、チャンネル登録者が1,000人以上で、過去 12 か月間の総再生時間が 4,000 時間を超すまでは収益化ができない。そうした苦節の時期を乗り越えながら投稿を続けることで徐々に視聴者数を増やしていく、かなりストイックな作業でもある。それでも夢があるから、毎日の投稿を続けられるのだ。

現代では10~20代が、スマートフォンとタブレットで情報収集する時間は、1日あたり200~250分で、テレビの視聴時間(約90分)を遙かに上回っている。その中でも動画は、最も人気が高いコンテンツであることは間違いなく、企業や大人世代のビジネスパーソンにとっても、YouTubeを中心とした動画コミュニティの中から、ヒット商品を生み出すインフルエンサーが多数登場していることを意識して、今後のビジネスがどのように変化していくのかを見定めることは重要になってくる。

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