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キャッシュレス社会で見直される経済的幸福度の価値観

お金や金融商品についての正しい知識を習得する、金融リテラシー教育に対するニーズは、子どもや高齢者だけでなく、現役世代のサラリーマンにも広がっている。その背景にあるのが、企業で働く従業員の約25%は金銭面の悩みを抱えており、仕事の成績にも影響していることが、各種の調査から判明していることである。

それらの従業員は、家賃、住宅ローン、クレジットカードの返済、保険の支払い、子どもの教育費などで、家計が赤字となっていたり、返済の不安を抱えており、雇用主の企業は、家庭の金銭問題を改善できるようにサポートすることが、健康面の福利厚生と同等に重要視されるようになっている。

米国や英国では、従業員向けの金融リテラシー教育が、「ファイナンシャルウェルネスプログラム」として、各種のサービスやツールが開発されてきている。経済的な幸福度は、年収の条件だけ決まるものではなく、収入と支出のバランスが良好であれば幸福度は高く、家計が赤字で毎月の支払いにひっ迫していれば、高年収者でも幸福度は低くなる。それを健全な収支バランスな改善することは、経済的幸福を取り戻すことになるのだ。

「National Financial Educators Council(NFEC:全米金融教育者協議会)」は、金融リテラシーの教材開発と、金融の授業や個別指導が行える人材の育成を事業としている、営利の団体である。NFECでは独自に開発した、子ども向け・大人向けに金融の仕組みをわかりやすく解説した各種教材(紙テキストとeラーニング)を、学校や企業に対して有償でライセンス提供している他、金融リテラシー教育の専門人材として「ファイナンシャルコーチ」の育成と認証制度を実施している。

従来のファイナンシャルプランナーは、顧客へのアドバイスやコンサルティングを通して販売する保険や金融商品の手数料を主な収益源としているのに対して、NFEC認定のファイナンシャルコーチは、学校や企業への出張セミナーや、個人に対する財政状況の相談対応など、金融分野の指導に対して報酬を得ている。

【将来の不安に向けた貯蓄計画と詐欺対策】

金融リテラシー教育が重要視される要因には、老後の貯蓄設計を自分自身で組み立てていく時代になったこともある。米国企業には一律的な退職金制度が無いため、各従業員が給与の一部を私的年金として貯蓄していく必要がある。会社からは、複数の私的年金プランが用意されているが、どのプランに加入するのか、毎月いくらずつ積み立てていくのかは、本人の裁量に任されている。しかし、50歳以上の労働者で3分の1は、老後資金に不足が生じていることは、統計からも明らかになっている。

日本でも、退職金制度が無い企業(社員30人以上)は約20%ある。雇用の形態で非正規社員やフリーランスなど、退職金の支給対象とならない就労者の割合も増えていることから、老後生活に必要な貯蓄や投資についての知識を独学で習得するか、専門家からの指導を受ける必要が生じている。

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老後の夫婦2人が暮らすための最低生活費は22.3万円/月で、要介護になった時の備えや、ゆとりのある生活を送るにはプラス14.3万円/月が必要と言われている。そのため、定年までの貯蓄と退職金で3,000万円の資金があったとしても、定年後の人生を30年間で算定すると、1,896万円の不足が生じる計算だ。

その対策としては、保有資金を高利回りで運用できる投資をするか、月に10~20万円程度の収入が稼げるスモールビジネスを持つことが有効だが、将来の不安に付け込んだ悪徳商法や詐欺は、これから増えていくことが予測されている。

新手の特殊詐欺は、高齢者を狙ったものばかりでなく、「起業や投資で収入を増やしていきたい」と考える、現役世代のサラリーマンもターゲットなっている。そうした詐欺の被害者は、自分が詐欺にあったことに気づいても、それを家族や知人に相談したり、警察に届けることはせずに、自分の中だけで悩んでいるケースが多数あり、報道される件数以上に、被害の実態は大きいとみられている。

キャッシュレス社会が進行する中では、面識のない不特定多数の人達に「投資話」を勧誘して、資金を振り込ませることも容易になる。投資は自己責任で行うことが原則であり、他人に誘われて多額の損失を出したとしても、勧誘者の責任を追及することは難しい。だからこそ、自分で正しい金融知識を習得することが、一番の「自分への投資」であり、経済的幸福度を高めることに繋がるのだろう。

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