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デジタル人材不足?「ASEANでデジタル人材10万人育成」は誰が笑うのか、その将来を予測する

先日の日経新聞一面でこのような記事がありました。

自身がオフショアマネージメントに関わってきたことや、現在でも海外人材受け入れを課題とした業務に関わることもあるため、この方針に対する将来予測をまとめておきたいと思います。

観点は次の4つです。

  • 本当に不足している人員はどの程度か?

  • 海外人材で「求めているデジタル人材」は埋まるのか?

  • どこでやるのか?

  • この動きを取ることによって誰が(一時的に)成功するのか・儲かるのか?

それぞれについてお話ししていきます。

本当に不足しているデジタル人材はどの程度か?

もともとデジタル人材不足の文脈で語られるのは下記のグラフが起点です。

経済産業省 平成28年 「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(委託先:みずほ情報総研株式会社)

このグラフにより人材不足が過剰に煽られており、人材界隈などは結構な経済効果が起きたと捉えています。(誰か経済の専門家が試算してくれないか期待しています。)

しかしこのグラフで議論されていることに「質」はなく、「量」であることに注意が必要です。人月神話的発想です。想定より早い生成AIの成長もあり、見直されるべきでしょう。

実際に2024年現在、採用の現場を出入りしていて見えてくるのは「各社求人はしているが誰でも良いわけではない」ということです。

過去には限りなく「誰でも良い」に近い時期と組織はありました。コロナ禍の金余り現象に触発され、スタートアップ投資が起きたり、DX投資が起きたことでSaaSやコンサルも盛り上がりました。2022年までの第二新卒採用のハードルはかなり低いものでした。稼働人数がダイレクトに売り上げに繋がるSESの未経験歓迎採用も活況でした。また、コンサルティングファームの一部ではダイバーシティの名の下に、女性比率を上げるために女性の選考ハードルをかなり低めにしていた時期もありました。

2024年現在、エンジニアにするつもりでジュニア層採用したはずがダブついている界隈としてSESがあります。聞いたところによるとある大手SES企業では在籍者の3/8が非エンジニア職(ヘルプデスク、コールセンター、家電量販店などの営業職)を担当しているということで、エンジニアにするためにどうするか悩んでいる様子でした。

2024年現在にSESも含めた各社が欲しがる人物像は下記です。

  • 教育コストが低い即戦力

  • 事業共感が高い

  • 利他性が高く、利己性が低い

  • コミュニケーションが円滑に取れる

誰でも良いわけではなく、上記を満たした人が不足しているというのがポイントです。単純に頭数であれば余っているところがあると言えるため、海外を検討する前に日本語が通じるというアドバンテージのある余った日本人を何とかした方が良いでしょう。

海外人材で「求めているデジタル人材」は埋まるのか?

前述した企業が求める人物像を踏まえると「国内に人が居ないので海外で調達しよう」というのは2点の疑問があります。

一つは、「デジタル人材の卵ではあるが、デジタル人材の業務に当たれていない人が相当数居るが解決されていない」ということ。もう一つは、誰でもよくないという企業側の要件に対し、海外人材では満たせないということです。

オフショア営業や、海外人材の受け入れ経験からすると下記の壁を超えられる企業は少ないです。

  • 日本企業のエンジニアは英語を話せない人が圧倒的に多いため、英語でコミュニケーションが取れるフィリピン、インドなどのエンジニアと意思疎通がスムーズではない

  • 給与レンジの低い日系企業では、英語を話せるスキルの高い人材は雇えない

  • (少なくとも私が見たフィリピン、ベトナム、インドの人材については)日本語でコミュニケーションを取ることの優先順位が低い

    • 英語を勉強して欧米企業に就職した方が給与が伸びるため

    • アニメが無茶苦茶に好きな人材であればその限りではない(来日も含めて歓迎する)

  • 英語を話せない人材であれば日系企業との契約可能性はあるが、通訳がコミュニケーション上のオーバーヘッドになる

最後の点について補足します。テキストについてはDeepLで成立するものの、ミーティングが難航します。間に通訳が入ると下記のフローで進んでいきます。

  1. 日本人が日本語で通訳に話す

  2. 通訳が先方の言語に翻訳する

  3. (日本語がハイコンテクストであるためと思われますが)先方で意味を確認するためのディスカッションが発生する

  4. 回答が先方の言語である

  5. 通訳が日本語に訳す

経験上、単一の言語で実施する場合に比べて3倍の時間がかかります。

共通言語を英語にしようとしたこともありますが、勤勉な上位層を囲い込まないと「自分は英語を勉強しても話せる気がしないから日中韓の企業で甘んじてやってるんだ」という極めて意識の低い回答が上がってきたことすらあります。

オフショアや海外人材と協業するとなると、コミュニケーションを丁寧にしないと炎上しますが、多くの現場においてプロジェクトが佳境になると時間が割けず、放置する傾向にあります。

結果、5年置きくらいに日本国内でオフショアブームが来たり去ったりを繰り返している印象です。

どこでやるのか?

そもそも論なのですが、フィリピンやベトナム、インドなどではIT業界に進むと給与が上がるという言説が既に広がっています。

フィリピンのセブ島やマニラなどでは扶養家族が多いこともあり、自頭の良い子供を情報系に進学させてITエンジニアにすることで高い給与を得ることで次の世代を育てるという循環が出来上がっています。都市部においては適性がある若い人たちは情報系に進んでおり、日本が上から目線で「デジタル人材育成」と言うには都市部では10年以上遅く、日本人には馴染みのない国や地方部で展開することになるか、支援金が行方不明になるのかといったところではないでしょうか。いくら動くかは不明ですが、気になるニュースでした。

この動きを取ることによって誰が(一時的に)成功するのか・儲かるのか?

では冒頭でお話しした政府の方針がまるで無駄かと言われるとそうではないと思います。

日本のベンチャー企業で海外人材受け入れの際に拗れがちな事象として、日本語教育を施し、来日させるというものがあります。企業と現地人材を繋ぐ人材ブローカー視点では人材紹介、日本語・日本文化教育、オンボーディングサポートで三毛作くらいできるので奨励しがちです。ただそこまで日本の人気がないので学習コストやホームシックコストを考えると合理的には思えません。

大手製造業のお客さんで以前見られたのですが、既に現地海外拠点に人員が居る場合、現地支社でオンボーディングから配属まで実現することでスムーズに馴染んでもらっていました。そのまま現地で開発チームを組成し、IT部門の指示出しを現状の開発体制に準拠する形で出せればスケールする可能性がありますし、この人材育成文脈の政府方針に合致する可能性も高いです。

一つ確実に言えることは、海外人材の来日を含む協業は雰囲気で手を出すものではないです。しっかりとした覚悟と予算、社内の理解と外国語能力を持って取り組みましょう。

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