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中国人アウトバンド旅行者が求める目的と価値観の変化

 旅行を人生の生き甲斐としている人達にとって、2023年は4年ぶりとなる海外旅行を渇望している。しかし、旅行の楽しみ方や価値観にもコロナ前とは変化が起きている。コロナ前には、日本を訪れる外国人旅行者の中で、中国人の数が3割、旅行中の消費金額では4割を占めていたことから、中国人旅行者の変化には注目していく必要がある。

中国人観光客の動向を調査する、China Outbound Tourism Research Institute(COTRI)によると、2024年には中国人の海外旅行者が2019年の水準(年間1億7000万回)を上回り、2030年までは年率5%のペースで増えていくと予測している。そのため、国際旅行市場の中で、中国人旅行者のシェアは、コロナ前よりも更に高くなっていく。

China Outbound Tourism Research Institute

しかし、気候変動や政治的な理由によって、将来的には海外旅行がしにくくなることも意識されている。そのため若い中国人旅行者ほど、1回毎の旅行体験を大切にしたいという価値観が高まっており、これまでのように大量の買い物に時間を費やすよりも、人生にとって有意義な挑戦や、異国の自然や歴史を体感したいというニーズが高まっている。

若い中国人の中で人気が高まっているが、冒険的な旅行をすることで、SNSに投稿する映像コンテンツとしてもスリルのある体験が求められている。一例として中国内では、標高が高い山中で床面がガラス張りになった長い吊り橋を渡る体験が人気となっており、全国2000ヶ所以上でガラス吊り橋が作られている。

中国北東部の吉林省の山渓に2018年完成した全長400mの吊り橋では、強風によりガラス板が外れて観光客が転落寸前となる事故が起きたが、これにより不人気とはならず、逆に恐怖体験ができる吊り橋として注目度が高まった。ガラス吊り橋の人気は東南アジアにも広がっており、ベトナムでは高さ150メートルの谷に世界最長となる632mのガラス橋が2022年5月に完成した。

その他にも中国では、ダイビング、山岳サイクリング、ロッククライミング、トレッキング、フリースタイルスキー、サーフィンなどが、コロナ禍で自宅に籠もっていたストレスを解消するアドベンチャー体験の人気が高まっている。中国のハワイと言われる海南島では、空前のサーフィンブームが起きており、サーフショップやサーフスクールの開業が相次いでいる。

海南島の自治体でも、サーフィンを新たな観光事業として育てる戦略を立てており、女性プロサーファーをイメージキャラクターとして起用することで、女性のサーフィン初心者を主要客と捉えた集客マーケティングを展開している。そのため、現地のサーフスクールに参加する客層も7~8割が女性となっている。中国のSNSでも、波に乗る女性には、挑戦的かつ健康的な印象があり、サーフィンの動画や写真を投稿することでフォロアーを増やすことができる。

■海南島の観光プロモーション映像

【中国人旅行者が求める自然体験】

 日本と同様に、中国でもキャンプとグランピングの野外体験は人気が高い。コロナ禍では、子どもを連れて遊びに行ける場所が少なかったため、キャンプが人気化した状況は、日本と共通している。しかし、中国のキャンプ文化は歴史が浅く、キャンプ場の数やサービス品質も低いため、ファミリーでキャンプを楽しめる場所は限られている。

そのため、海外旅行中にキャンプを楽しみたいというニーズがあり、日本のキャンプ場では中国人旅行者を獲得できるチャンスがある。そこでは、日本の先進的なキャンプ道具の使い方やキャンピングのノウハウを指導することが効果的であり、体験型サービスの人気が高まっている。

言葉の問題については、キャンプ場が中国語のできるスタッフを雇って通訳する方法もあるが、これは意外と成功していない。それよりも簡単な英会話や、中国語の翻訳アプリを利用して、キャンプの知識が深いトレーナーが直接コミュニケーションする方法のほうが好評で、これは他分野の接客サービスにも共通している。「百度(バイドゥ)翻訳」は中国人に最も使われている翻訳アプリで、Google翻訳よりも音声発音の品質が良いと評価されている。

また、中国内では都会に住む若者やファミリーが、田舎暮らしや農業体験をする農村観光も人気化している。この背景には、中国政府が地方の過疎化対策として農村観光を推進していることもある。もともと、この発想は日本の取り組みを参考にしたと言われており、訪日観光者の中でも、日本の田舎生活を体験することへの興味は強くなっている。

中国人の海外旅行目的として、コロナ前よりも急増している行動に「移住(移民)の候補地を見つけること」があり、中国SNS(WeChat)や検索サイト(百度)などで「移住」関連の検索回数が急増している。

日本からみたインバウンド経済の動向を占う上でも、こうした中国に起きている変化や、抱えている問題を理解して、コロナ前とは異なる旅行者の客層やニーズを捉えることが重要になるだろう。

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