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整備したけど使われない「年収の壁」対策

「年収の壁」対策をしたものの

日本の非正規社員の年収が上がらない要因の1つとなっていたものに「年収の壁」がある。この壁には段階があり、年収が100万円を超えると「住民税」の対象となり、103万円を超えると「住民税」「所得税」の対象となる。合わせて、「配偶者控除」から「配偶者特別控除」と変わってしまう。年収130万円を超えると「住民税」「所得税」のほか、「社会保険料」もかかってしまう。この壁を超えるごとに、働いているのに手取り年収が下がることになるため、専業主婦を中心として就業時間を調整して働き控えをしてきた。
この問題のために、政府は労働者を雇用する事業主向けに、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」を新設し、新たに社会保険適用となった労働者の収入を増加する取組を行った事業主に助成するようにした。この助成では、①手当等支給メニュー、②労働時間延長メニュー、③併用メニューの3つを選ぶことができ、助成を受け取った事業主が労働者に手当することで手取りが減らないようにできるようにした。
また、「130万円の壁」対策としては、収入が一時的に上がり年収130万円を超えたとしても、健保組合などが被扶養者の収入を確認するタイミングで事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となるようにした。
しかし、この制度があまりに複雑すぎてしまい、多くの場面で使われないままとなっている。日経新聞の調査によると、女性の4割弱は「支援があっても労働時間を増やそう」とは思わないと回答している。

UXをシンプルにしないと誰も使わない

政策もビジネスも似たところがあり、「うまく活用すれば課題解決できるが、使いこなすのに熟達が必要」とされるものは市場に受け入れられることは、ほとんどない。それがどれだけ優れたメリットがあったとしても、わざわざ新しいやり方を学び、古いやり方を捨てるというコストを煩わしいものと感じ、逆選択をしてしまう。

ビジネスでも、素晴らしい機能を盛り込んだ商品が、あまりに複雑すぎて使われなくなるケースも少なくない。例えば、写真共有SNSではInstagramが広く知られている。一方で、Instagramより前に写真共有SNSとして広まったflickrを知っている人は少ないだろう。Instagramの登場は2010年だが、それよりも早く2004年にflickrは写真共有SNSとして登場している。この2つのアプリは、写真を美しく保存し、仲間と共有するという機能ではInstagramよりflickrのほうが優れていた。特に、本格的な一眼レフユーザーは、使用しているカメラやレンズ、撮影の状況を共有できるflickrが好まれる傾向にある。しかし、ビジネスとしては写真共有SNSは、スマートフォンで簡単に使うことができる後発のInstagramが最も成功している。手の込んだシステムは、多くの人にとっては「使いたくならない」ものだ。

今、政府は非正規の所得水準を上げるために最低賃金の引き上げなど、様々な手段を用いている。しかし、年収の壁が解決できない限り、最低賃金を引き上げても1人当たりの労働時間が減るだけだ。それは、非正規社員を雇用している事業主にとっても好ましくはない。制度が使われるためには、ユーザービリティを軽んじてはいけない。そうではないと、せっかく作った制度は使われないまま、問題は未解決のまま放置されるだけである。

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