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ミドル世代の転職に必要なこと

株高の陰で、企業による早期退職募集のニュースが相次いでいる。現場での慢性的な人不足を考えると一見不思議だが、特にホワイトカラーを多く抱える組織の多くにとって、高コスト体質は大きな課題で在り続ける。中高年を中心にする人員削減によってスリムダウンと新陳代謝促進の両方を図っているようだ。

日本社会全体としては、雇用の流動化が産業の新陳代謝を促すメリットがある。若い世代により活躍の機会が広がると捉えることもできる。しかし、日本の中高年ホワイトカラーサラリーマンが人生で初めて、何十年も勤めてきた会社以外の選択肢を考えるハードルは高い。ミドルの転職市場が活性化しているとはいえ、新しいロスジェネを生まないよう、企業や社会のサポートが必要だ。

今のミドル世代は、終身雇用を前提として社会人人生の大半を過ごしている。会社の中で同期、先輩、後輩と人間関係を築き、会社に固有の習わしに長(た)けている場合が多い。その裏腹として、外の世界でどのように自分の価値が評価されるかには、極めて無頓着でいられたともいえる。気にする必要がなかった、というのが本音だろう。

このような人材が、早期退職募集やその他のきっかけで、はたと転職を考えるときに、圧倒的に足りないのは自己分析と自己マーケティングだ。私の周りのミドルからシニア世代でも、「次の天地」を探す例が増えてきた。ところが、優秀な人材であればあるほど、これまでは会社にいるだけで新しい機会が次々に与えられてきたので、外の世界で自発的に機会を探し、形作ることに慣れていないケースが圧倒的に多い。

知り合いの上場企業役員は、「(一社に勤めあげたミドル世代にも)実は汎用(はんよう)的なスキルがある」と強調する。しかし、この汎用性を自覚し、面接で言語化し、次の職場でうまく生かすにはスキルと心構えが必要だ。もちろん、その過程では「本当にこれが自分のやりたかったことなのか?」という根源的な問いも生まれるだろう。終身雇用を前提に一本道を歩くときには疑いもしなかった自分の存在意義さえ、心もとなく感じてしまうかもしれない。

このようなミドル世代の転職を支え、スキルの転用を成功に導くことは、日本経済の活性化につながる。そのためには、デジタル技術など「最新」分野のリスキリングのみならず、「初めての転職」に向き合うための自己分析と自己マーケティングを指導するサービスに、もっと官民ともに投資が必要だと考える。

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