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パーソナルモビリティの時代が再びやってきた!

最近、コンビニでバイク雑誌がふと目に止まった。90年代が全盛期だった50ccのミニバイクの特集だ。それもスクーターではなく、大きなバイクと同様にギアとクラッチのついたスポーツバイクの特集だ。80年代は高校生になると、こぞってバイクの免許をとり、バイクに乗ることがカッコイイ時代だった。一方で、事故もあったことから、バイクは危険という認識もあり、『バイクの免許を取らせない・バイクに乗せない・バイクを買わせない』という、いわゆる『三ない運動』が展開されたのもこの時代だった。

まさにこの時代に生きていた筆者にとっては、とても懐かしい。実際、高校時代には、RZ50というヤマハのギア付きミニバイクに乗っていた。そして怪我をする事故も経験した。でも機械を「自在に操りたい!」、「少し操れた!」という感覚に魅了されていた。走っている時の爽快感も格別だった。自分ができることが沢山増えたような感覚すら味わうことができた。時を待たず、80年代前半に800万台に届かんとしていた日本のバイク市場も急速な右肩下がりの時代を迎えたのだった。やがて、筆者自身も車に興味が移り、バイクと距離を置くようになっていった。

その後、大学院時代に再びバイクに乗るようになった。今度は中型免許をとって、大きなバイクに挑戦した。周囲からの反対もあったが、「スピードもあまりでない、視点が高く安全だ」という理由をつけてモトクロス型を選んだ。その後やはり速さにも憧れて、ネイキッド型の400ccに乗り換えた。10年遅れたが、本格的なバイクの世界に足を踏み入れたのだった。その後しばらくブランクはあったが、150ccのスクーターで復帰し、800ccのスクランブラーに乗り換え、今は110ccのクロスカブに乗っている。

いまや「リターンライダー」の時代と言われている。子育てに一定の区切りが持てた50代が、コロナ禍を機に、バイクに再び戻ってきたのだ。人気のある絶版車は5年前に比べて、1.5倍から2倍に値段が上がっている過熱ぶりだ。2020年は、原動機付き自転車を除く126cc以上の二輪の新車販売台数も前年比14%増となり、2年連続で前年を上回ったという。新車の納期が延びがちになっている中、中古車の人気はこれまでにないレベルに達しているのだ。

かつて、バイクは危険なものというのが常識であったが、最近では「転ばないバイク」というジャンルまで出て、その常識を覆す取り組みが活発だ。ヤマハが2014年に投入した前輪が2つの三輪スクーター「トリシティ125」だ。数年後に155ccバージョンを出し、2020年には300ccをラインナップに加えている。さらに本格三輪スポーツバイクのナイケンGTというモデルもあるが、2021年分の予約は既に締め切っている状態だ。ホンダは、人やスタンドが支えなくてもバイクが勝手に自立する技術も開発した。もう「立ちごけ」とは「おさらば」だ。また、ボッシュ、小糸、ショーエイなどは、車に負けじと、安全運転を支援する様々な技術を開発して、直近の市場投入が備えている状況だ。

さらに、ヤマハは二輪運転技量の「見える化」なる取り組みも始めている。「車両の位置や速度データをGPS(全地球測位システム)ロガーで取得し、加減速や旋回に関する情報を図として表示する。技能講習中に撮影した運転姿勢の写真と組み合わせ、教官のコメントを添えてフィードバックする」という。普段の運転でも診断をできるようになったら、運転がさらに面白くなりそうだ。

リターンライダー以外にも裾野を広げる取り組みもある。密を回避して楽しむレジャーとして注目を集めている三島スカイウォークでは6年前、「セグウェイやバギーに乗って森を駆け抜けるアクティビティーも始めた。特にセグウェイが人気で、リピーターに対応するため20年9月には中級者向けコースも新設した。18年の開始当初は5台しかなかったが、現在では25台まで増やしている。全体の敷地は8.6ヘクタールと、開業当時の1.7倍に拡大した」という。今年からはスポーツタイプの電動アシスト自転車「eバイク」を投入して、コロナ禍でも屋外で体を動かしたいという需要に応えていくという。パーソナルモビリティに魅了される人々が確実に増えているようだ。

ヤマハは、コロナ禍の米国において、アウトドア向けの子供用バイクも投入した。新たな顧客の定着に向けた活動も着々と進んでいる。また、バイクの魅力に取り憑かれた人向けには、特別のプログラムを用意している。ヤマハが国内外で展開しているアマチュアのレーシングライダーを対象としたサポートプログラム「ブルー・クルー」がその取り組みだ。最大の特徴は「全方位サポート」だ。「レース会場で困った時にはレーシングサービスを、スキルをさらに高めたい方には、プロフェッショナルライダーによるライディングスクールをご用意した」という。

手頃なバイクを日常の当たり前にしようという取り組みも始まった。井原慶子さんが代表を務めるフューチャーが投入したパーソナルモビリティだ。井原さんは12年に世界で初めて女性で 世界耐久選手権(WEC)にフル参戦。14年までの3年間、世界最高成績をおさめた伝説の女性レーシングドライバーだ。フューチャーでは、個人での利用に加えて、自治体などへ移動サービスと組み合わせた提案をおこなうという。アプリとセットでカーシェアや食品宅配などに活用する取り組みも準備中だ。このあたりはホンダがMaaSベンチャーのスマートドライブなどと行なっている取り組みもあり、今後注目していきたい。

2050年に向けてはバイク業界も電動化への大きな転換が迫られている。ここでは、世界で約5割のシェアを持つ日本勢が、バッテリー仕様の共通化で連携して、電動バイクの普及を後押しする。さらに今年5月には、欧州でもホンダ、ヤマハ発動機、伊ピアッジオ、オーストリアのKTMの4社で同様の取り組みを行う協議体を設立する予定だ。世界標準を日本発で生み出すことが期待される。

パーソナルモビリティの世界は、バイクといった単一の価値観の世界から、多様な人々の移動や活動を彩る懐の深い道具へと急速に広がり始めている。ニューノーマルの豊かな未来を形づくる大事な武器になると思う。ウェルネスを高める使い方をみんなで知恵を絞って考えていきたい。さあ、みんなで乗ってみよう!

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