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マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできるようにならない〜その(4)〜

「マーケティングが出来る」とはどういうことか、の構造を考えるために始めた本記事。
ここまではマーケティングを下のスライドの様な四階層

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に分け、「マーケティングができる」こととはどういうことなのか考えています。
*前回までの記事を格納したマガジンは、こちらです。

初回ー第3回までは「仕事のOS」階層について考えたのですが、今回は一旦この階層から離れ、「マーケのOS」(人間理解)階層について考えてみたいと思います。

上のスライド中、マーケのOS階層には、その内容として参照点、流暢性、返報性など、行動経済学や心理学の用語が並んでいますが、その理由は人間がどのように物事を認知するか、そして意思決定するか、といったことを理解することが、マーケティングの戦略や施策を立案していく上での要諦となるからです。
これらを整理していく上で、まず初めに「人はなぜものを買うのか?」という問いを立てたいと思います。

人が何かを購買するとき、その対象を選ぶ理由は、大きくはこの図表に示した「なんとなく(馴染みがあるから)」「良いから」「好きだから」の三階層に整理できると思います。それぞれについて考えてみましょう。

(1)なんとなく(馴染みがあるから)買う

コンビニで清涼飲料を買うときのことを想像してみてください。読者の皆さんはどのように商品を選ぶでしょうか?
揺るがぬ指名ブランドを迷わず手に取る、ということもあるかもしれませんが、大抵は「なんとなく」選んでいるのではないでしょうか?

この「なんとなく」の意味・心理をもう少し深掘りして考えてみましょう。
「なんとなく」選ぶ時に、私たちは特に何かを意識しているような感覚はないのではないかと思います。つまりコンビニの棚の前では、私たちは無意識に商品を手にしている。
しかし、この「なんとなく」選ぶはランダムに商品を手に取る、というのとは違うように思われます。
なぜならば、私たちは「なんとなく」商品を手に取るとき、見たことも聞いたこともないブランドを選ぶことはまずないからです。
であるとすると、「なんとなく」手に取るという行動は、「以前見聞きしたり、試したり、使ったりしたことのあるブランドを無意識に選ぶ」という行動である、ということになります。もう少しこなれた言い方をすると「馴染みがあるものを無意識に選ぶ」といったところでしょうか。

人間は、このように馴染みがあるものや、シンプルで理解しやすいものを選ぶ性質をもっており、この「馴染み」や「理解しやすさ」のことを流暢性と言います。
読者の皆さんは想起集合という言葉を聞いたことがありますか?
想起集合は何かを購買するときに心に浮かんでくる候補のリストのことですが、大きく助成想起と純粋想起に分類されます。助成想起は、何かのヒント、きっかけを与えてもらうことにより思い出されること、純粋想起はノーヒントで思い出されることです。
先のコンビニで清涼飲料を選ぶ例は、助成想起に入っている商品が無意識に選ばれた、と説明することができますが、この助成想起に入るためには、顧客が商品名やパッケージなどに何度も接触し、流暢性が成立している必要があります。
そう考えると、広告の最低限の役割として、顧客とブランドの間に流暢性を成立させることがある、ということがわかります。ある程度の頻度で商品名やパッケージとの接触を作ることは意味があるのです。

助成想起に対して、純粋想起は、ノーヒントでも思い出してもらえることを指します。喉が渇いたことを自覚した時に、お店の棚の前に立たずとも「コカ・コーラが飲みたい」「一番搾りが飲みたい」という状態であれば、ヒントなしで具体的な商品が想起されているので、これらの商品は純粋想起に入っている、ということになります。(純粋想起の中で、Top of mindで思い出されるものを第一想起とよび、通常これは別格で扱われます。しかし文脈が複雑になるので、今回の記事では第一想起にかかる説明は省略します)

(2)良いから買う

先ほど「助成想起に入るためにある程度の頻度で商品名やパッケージとの接触を作ることは意味がある」と記しました。
しかし日々暮らしている中で、どれほど多くのマーケティングメッセージに接するか、ということを考えると、単純に商品名を連呼したり、パッケージを見せるだけのメッセージ、換言するとインパクトの無いメッセージが、多くの競合するマーケティングメッセージの中を生き残り、ブランドと顧客の間に流暢性を作るためには、相当量の出稿が必要になりそうです。

そこで、マーケターは「良さ」を訴求します。顧客にこれが腹落ちすると積極的・意識的にその商品を選択する理由となりますし、伝達される内容が単純な商品名や商品イメージではなくメンタルモデルになるので(メンタルモデルについては、本シリーズ「マーケティングだけ勉強しても、マーケティングできるようにならない〜その(1)〜をご参照ください」)記憶しやすくなることにより、出稿量を低くコントロールできそうです。

では「良さ」とはなんでしょうか?

どんな商品でも、商品時に設計された仕様と、仕様により導かれる性能・機能があります。例えば自動車で言えば

という具合。この図にあるように、固有の仕様に基づく機能・性能がその商品の「良さ」です。
この図ではエンジンと駆動方式のみ記載してありますが、自動車には他にも色々な仕様に基づく機能=良さがあります。それらについて、どのような競合環境に置かれ、何と比べられるかにより、強調すべきポイントは変わってきます。例えば他のスポーツカーと比べるのであれば、エンジンを訴求してスポーティさを伝え、悪路でも走破できるオフロード性を重視するのであれば、4輪駆動を訴求する、と言った次第。

このように自ブランドが競争する市場を定義して、どんな良さの訴求により差別性を構築するか、をポジショニングと呼び、これは「マーケのアプリ」階層で最も重要な概念の一つです。詳しくはマガジンに格納されている記事「ポジショニングがなぜ大切か、人間理解の視点で考えてみる」をご覧になってみてください。

ここで説明した「良さ」は、マーケティング用語では「機能的便益」と呼ばれたりします。機能的便益はメンタルモデルの主要素の一つなので、これが伝わるとそのブランド・商品は助成想起から純粋想起の仲間入りできる公算が高まります。
しかし、機能の軸において、自社よりも優れた競合が存在した場合、顧客は競合の方を選ぶことになります。
では、顧客に競合を選ばれることが起きないようにするために、マーケターはどうすれば良いのでしょうか?

(3)好きだから買う

良いから買う、は意識的・選択的な購入理由なので、なんとなく(馴染みがあるから)に比べて強力ですが、好きだから買う、はさらに強力です。
好き嫌いは個人の感覚なので、機能・性能のような数字による勝った負けたとは別の世界です。一般的には忌避されるようなものすごく不便な場所に住んでいる人がいたとして、彼が好きだから住んでいるのであれば、問題も文句もない訳です。
「好き」には大きく(1)「趣味に合う」タイプの好きと、(2)「感情的な結びつきがある」好きの二方向があると考えます。
趣味に合う、という方は、その製品固有のデザインや仕様が嗜好に合う、ということで、製品そのものの特性をベースにしているという点から、「良さ」に近い性質があるのではないかと思います。味や見てくれなどは、速度や操舵性のように数値で示すことは難しいですが、製品そのものに由来している、ということですね。

それに比べて「感情的な結びつきがある」方はもう少し複雑です。
商品・ブランドの設計をするときに、その内容として、顧客とどんな関係になり、顧客からどんな気持ちを持たれたいか、というような要素を言語化します。この「顧客からもたれたい気持ち」のことをマーケティング用語で「情緒的便益」と呼びます。
情緒的便益を顧客に感じてもらうためには、その情緒・感情を伝える媒体になり、かつそれらとブランドを結びつけるトリガーとなるような、シーン、小道具、楽曲、人物などと商品が一緒に登場するストーリーを紡ぎ、それを顧客に伝える、と言ったアプローチが一般的に採用されます。動画やテキストなどによるマーケテイングコミュニケーションは、この原則とともに創られ、エピソードとして人の記憶に残るため、より記憶に残りやすくなります。
そしてブランド・商品はエピソードとともに記憶されることにより、その中のシーン・小道具などが有している情緒・感情が顧客の心の中でブランドと結びつき、情緒的便益が成立する、という訳です。

本日は、人間理解の第一歩として、人がなぜものを買うかを考察し、その理由を(1)なんとなく(2)良いから(3)好きだからの三階層に分けて考え、その各アイテムを流暢性、想起集合、機能的/情緒的便益などの概念とともに考えてみました。
このうち機能的便益と情緒的便益は、ブランディングを行なっていくときの重要な要素になります。本シリーズで追い追いブランドのことを考える記事を書くことがあれば、再度詳細に触れたいと思います。

ところで、今回のCOMEMOのお題はこちらでした。

本記事の考え方をベースにすると、この問いへの答えは自明です。
すなわち、値上がりしても買う理由は、値上がりしてしまった商品が「良い」から、または「好き」だからです。

値上げに踏み切った場合もお客様に継続して選んでいただけるよう、マーケターとしては、戦略的に商品・ブランドの便益を伝えるようにしていきたいものです。

読者の皆さんは、どうお感じになりますか?

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