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女子大生社長と60代専務で始めるベンチャー企業【日経COMEMOテーマ企画】

どんどん伸びる定年制

終身雇用とまではいかなくとも、長期雇用を前提とした組織作りを行ってきた日本企業にとって、シニア人材の活用は慢性的な悩みの種だ。昭和初期に55歳定年がスタートして以来、60歳定年、65歳定年と社会の高齢化に合わせて定年は引き上げられてきた。そして、今年4月からは高年齢者雇用安定法で70歳定年が努力義務として制定される。

それでは、伸びる定年に対して、一般の人々のキャリアや企業人事のかかわり方はどのようにあるべきだろうか。日経新聞電子版COMEMOのテーマ企画「#一緒に働きたい60代社員」に応じて、シニア人材活用について考えてみたい。

定年は伸びるが、市場価値は55歳定年制のまま

少子高齢化社会の我が国において、勤続年数の長期化は避けては通れない。社会システムの維持という観点からも、また個人の人生の豊かさという意味からも、健康でいられる間は働いて、社会と接点を持ち続けることは重要だ。そのため、定年制の延長という考え方は自然の流れだと言えよう。

しかし、定年延長したからと言って、シニア人材の市場価値が維持できているかというと別問題だ。企業としては長期雇用のもと、長年働いてきた従業員はスキルや専門知識がビジネス環境の変化に合わなくなってくる「専門性の陳腐化」という問題が出てくる。その結果、多くの企業では役職定年制として55歳でキャリアの一区切りをするように設定している。つまり、定年は伸びたが、シニア人材の市場価値は依然として55歳定年のままだということだ。

このことに対して、企業人事もただ手をこまねいていたわけではない。定年後の再雇用制度やシニアに向けたキャリア研修、確定拠出年金など、さまざまな対策が講じられてきた。例えば、NECはシニア人材派遣の新会社を設立し、定年後人材の活用に意欲を見せている。

このことは、調査結果からも見て取れる。2017年のリクルートワークス研究所の調査では、回答した東証一部上場企業のうち67%が人事課題として認識していた。しかし、重要な課題として回答したのは6.8%だった。調査で質問された人事課題の中では認識されている課題としては9番目であり、重要な課題の中では15番目だった。つまり、課題としては認識しているが、対策も講じており、緊急度の高い課題としては認知されていない

なぜかというと、定年の上限を引き上げても、役職定年55歳を引き上げようという企業がほとんどないことがヒントを与えてくれる。つまり、定年がいくら引き上げられようとも、企業として戦力化できるのは55歳が限界なのだ。そのため、定年を引き上げたとしても、関連会社への出向や現場の作業員、他社への派遣という、基幹社員とは異なるキャリアを歩んでもらう方針に変化はない。

越境学習で市場価値の高い人材で居続ける

ビジネス環境の変化がこれだけ早くなった現代で、1つの会社の中だけで社会人人生を完結させてきたシニア人材が輝き続けるのは難しい。例えば、オンライン会議で若手社員があっさりと新しいツールを使いこなす中、シニア人材がもたついていると「この人に若手人材よりも高い年収を払い続けるのか」という考えが経営陣の脳裏をかすめても無理はない。

それでは、シニア人材がすべてダメかというとそうではない。シニア人材が身に着けてきた専門性や知識は価値あるものだ。問題なのは、1つの組織に長くい過ぎたために柔軟性と学習意欲が失われていることだ。81歳でプログラミングを学び始めた世界最高齢のエンジニアである若宮正子さんのように、柔軟性と学ぶ姿勢さえあれば年齢は関係ない。

そこで、お勧めしたいのが1つの組織で長く働いている人材を積極的に越境学習の場に派遣することだ。これまで通算11年間、越境学習の場をコーディネートしてきた。その経験から、勤続年数が8年を超えたら越境学習の場に参加することをお勧めしたい。大学新卒で入社したなら、30歳を超えたタイミングだ。

勤続年数が早すぎると、まだ会社のやり方に馴染んでおらず、柔軟性があるものの軸となる価値観が弱い傾向にある。一方で、15年を超えると自分の常識と組織外の常識の差にショックを受け、ともすると拒否反応がでることもある。もちろん、勤続年数15年を超えても、柔軟な方は大勢いらっしゃるが全体傾向としての話だ。

越境学習で、自分の価値観や成長意欲を定期的に刺激することで、55歳という年齢で十把一絡げにされることなく市場価値の高い人材でいることができる。

現在、コーディネーターとして携わっている越境学習の場『Oita イノベーターズ・コレジオ2020』でも、その成果を実感している。プログラムでは、参加者がグループに分かれて、地方活性化のプロジェクトを企画してもらっている。そのうちの1つで、プロジェクトをスタートアップ企業に見立てて、事業プランを作り上げているグループがある。

そのグループは、受講生の女子大生を社長としてリーダーに立て、学校の校長先生が専務としてサポートするという体制を整えている。先週末、ゲスト講師にお招きしたPRコンサルタントの野呂エイシロウ氏の前でプレゼンテーションをしたが、「記者会見に見立てて、事業プレゼンテーションをするのは初めて見たし、とてもわかりやすかった」と高評価だった。

夢と情熱はあるが実力が伴わない女子大生のアイデアに対して、シニア人材である校長先生が共同することで、革新的でありながらも実現性の高い事業が計画できている。このような関係性は、理想的なシニア人材の在り方だと思われる。

夢に溢れた若者と熟練のシニア人材がイノベーションを生み出すという図式は、ライフネット生命の創業ストーリーを思い出させる。当時28歳でハーバード大学MBA卒業直後の岩瀬大輔氏と、58歳で日本生命一筋だった出口治明氏が、日本初のネット生命保険であり、戦後初、内外の保険会社を親会社としないで設立された独立系生命保険会社を創り上げた。

越境学習を繰り返して、年齢に寄らず、自分の市場価値を高め続ける。そのうえで、シニアとなったときに若者の夢に伴走する。少子高齢化が進む日本社会において、理想的なシニア人材の活躍ストーリーと言えるだろう。

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