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日本食が贅沢品になるインバウンド・インフレの足音

 日本経済にとって株価が上がるのは良いことだが、それに伴う弊害もある。これから想定されるのは、日本でも本格的なインフレが到来することで、外国人旅行者が訪れる観光地から起きている。北海道ニセコ町にあるニセコアンヌプリ国際スキー場のランチメニューでは、ホットドッグ1800円、カツカレー2400円、海鮮丼が3800円、牛めし3400円、本タラバガニラーメン3800円という価格で、1000円以下のメニューは見当たらない。

ニセコアンヌプリ国際スキー場ランチメニュー

ニセコ付近のレストランディナーは3~8万円というコースでも賑わっている。 地元で獲れた新鮮な食材を安く食べられるのが北海道の魅力であったが、インバウンド相場が定着していくと、日本人にとっては身近な食事ができなくなってしまう懸念もある。地元の高級食材が、外国人富裕層向けに値上がりしていくと、地産地消は最も贅沢な食事になってしまう。

【日本食は贅沢品になる?】

 中国を中心としたアジア、米国、欧州の富裕層にも共通しているのは「健康に良い食材」への関心が高まっていることだ。それは、自然の中で収穫された新鮮な野菜や水産物のことを指しており、インフレが進んでいる中では、「健康的な食事を摂るか」、それとも「不健康な食事を摂るか」によって、毎月の食費には大きな金額差が生じている。

米国でアウトドア調理用品を販売する「The Barbecue Lab」が集計した統計によると、健康的な食事を摂る人は、不健康な食事を摂る人と比較して1日あたりの食費が1.50ドル高くなる。年間では550ドル、家族4人では約2000ドル(約30万円)の食費高となり、一般世帯にとっては大きな痛手だ。そのため、オーガニックな食材は購入できずに、冷凍食品やインスタントが主体の食生活になりやすい。 それが、米国成人のおよそ5割が該当する肥満や生活習慣病の要因へと繋がっている。

Healthy Eating Statistics(The Barbecue Lab)

世界で食事の貧富格差が拡大する中で、健康食材に対する需要は富裕層の中で高まっているため、一般家庭には手が届きにくい存在になりつつあるのだ。

たとえば、欧州の料理では日常的に使われる高品質のオリーブオイルは、悪玉コレステロールを減少させるオレイン酸が大量に含まれているため、食品としての需要は、韓国や中国にも広がっている他、化粧品や薬品の原料としても使われるようになっている。しかし、異常気象による干ばつで生産量は減少しているため、オリーブオイルの業者向け取引相場は、2023年~2024年にかけて108%もの高騰をして、欧州市民が気軽に購入できない高級食材になってしまった。これには、欧州人の食文化が壊れてしまうという指摘もある。

オリーブオイルの国際相場(Global price of Olive Oil)

日本の伝統的な食材でも、寿司ネタとなる鮮魚、和牛、ウナギなどは中国人富裕層から人気が高い。また、ラーメン、たこ焼き、お好み焼きなどの原料となる小麦粉の消費量でも、中国は世界トップだ。中国が日本食に傾倒していくと日本の食材も高騰していくことになり、日本食が贅沢なものになってしまう。これらの影響は、中小の飲食業者にも出てきており、原材料の高騰により閉店する店も増えている。

異常気象による食材の上昇、人件費の高騰、インバンド需要の増加という3つの要因により、これまで日本人が楽しめていた伝統的な日本食は、気軽には食べられなくなっていくのかもしれない。

《インバウンド人気で値上がりする日本食》
・寿司
・ラーメン
・手打ち蕎麦
・刺身
・うなぎ
・天ぷら
・すき焼き、しゃぶしゃぶ
・たこ焼き、お好み焼き
・和食定食

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