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カーゴバイク業界が変革するギグワーカーの就労体系

 欧州では、荷物を運ぶために専用設計された自転車が「Cargo bikes(カーゴバイク)」として物流業界のイノベーションを起こし始めている。カーゴバイクは、環境負荷が少ない輸送手段として注目されていたが、最近は電動化が進んだことで、ビジネスとしての採算性も向上させることができ、貨物バンに代わるものとして、行政でも本格的な普及を推進し始めている。

英国では、コロナ禍の2000年から2021年にかけて、ネット注文による宅配荷物が激増したことで、ガソリンとディーゼルによる貨物バンの登録台数が2倍近くに上昇した。英国ロンドンだけでも、貨物バンによる環境汚染の損失コストは年間24億ポンド(約4400億円)と算定されている。

貨物バンの問題は、交通渋滞、違法駐車、歩行者を巻き込んだ事故にも及ぶため、EV化するだけでは解決されないというのが、欧州の考え方である。そのため、自転車を物流インフラとして活用することが「Cycle logistics(サイクルロジスティクス)」として注目されている。

ロンドン市内のラストマイル物流では、走行距離が短く、荷物を届けるための駐車時間のほうが長いのが特徴である。一方、カーゴバイクは、人力のため燃料を使わず、駐車スペースの制約も少ないため、ビジネスの採算面でもメリットが大きいことが見直されている。欧州自転車連盟 (ECF) によると、今後は欧州の主要都市における商用配送の4分の1がカーゴバイクに代わると予測している。欧州では、カーゴバイクを導入したい企業に対して、自転車団体の立場からコンサルティングを行う事業が成長している。

フランスを拠点とする「Urbike」は、カーゴバイクの事業者によって結成されている協同組合で、企業に対してカーゴバイク物流のコンサルティングから、配達する荷物に最適化された車両の開発、配達業務の受託までを行っている。もともとカーゴバイクの業界は、自転車愛好者が立ち上げたスモールビジネスからスタートしているため、大手企業との交渉や営業力を高めるために、このような団体が生まれている。

日本でも、ガソリン価格の高騰しはじめた15年程前から、自転車ブームが起きて自転車通勤をする人達が増えたが、次のトレンドとしてカーゴバイクによる宅配が、新たなストリート文化として支持されていく可能性もある。そこには課題も存在するが、それがビジネスチャンスにもなる。

【カーゴバイク業界のギグワーク変革】

 配送用のトラックや貨物バンをカーゴバイクに切り替える物流トレンドにより、欧州ではカーゴバイクライダーとして15万人の雇用が生まれている。カーゴバイクを導入する企業は、SDGsを重視した持続可能性の高い事業モデルを目指す志向が強いため、ライダー採用の面でも、従来のギグワーカーとは異なる就労体系の確立を目指している。

英国ロンドンで2017年に設立された「Pedal Me」は、カーゴバイク専門の運送会社で、コロナ禍のロックダウン中には行政との提携により、買い物が出来ずに困っている個人宅に1万個のケアパッケージを届ける仕事を請け負った。また、感染対策としてバスや地下鉄を利用したくない顧客層をターゲットとした、自転車タクシーの事業も立ち上げた。

同社には100人以上のライダーが所属しているが、すべて正社員として採用されており、22,000~26,000ポンド(約400~480万円)の基本給が保証される他、健康保険、年金制度、有給休暇などの福利厚生も充実させている。ライダーを正規雇用することにより、ギグワーカーと契約する同業者よりも運送料金は30%高くなるが、クライアント側はライダーに正当な賃金が払われている業者を選ぶ風潮が高まっている。

Pedal Meは、人材を正規採用することで、プロライダーとしてのトレーニングに力を入れることができ、交通マナーの遵守、輸送中の商品損傷を防ぐための走行技術、配達先に対する接客などの面で、フリーのライダーよりも優れており、配送業務を依頼するクライアントは、デリバーリーサービスを通してブランドイメージを高めることができる。

これまでのギグワーカーは、好きな時間に働ける柔軟性がある一方で、収入が安定せず、法定最低賃金以下で働いているケースも少なくなかった。しかし、最低賃金の保証や福利厚生の権利が認められた上で、柔軟な働き方をするギグワーカーは「Limited B worker」と呼ばれおり、欧州のカーゴバイク業界を中心に広がり始めている。

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