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日本の家計金融資産は遂に動き出すのか?~じわりと増える外貨運用~

家計の外貨シフト

6月27日、日銀から1~3月期の資金循環統計が公表されました。2022年3月末時点で家計部門の保有する金融資産残高は前年同期比+2.4%の2005.1兆円でした:

相変わらず現預金が主体であるものの、投資信託が同+10.1%と家計金融資産において最も大きな伸びを示していることは目につきます。下表は資金循環統計に関し、発表されている資産項目を中心としてさらに外貨性資産と内貨性資産に分けたものです(筆者試算値)。2000年3月末時点との比較をしてみると、僅か(+2.4%ポイント)ではあるが円貨性資産から外貨性資産へシェアがシフトしていることが分かります:

最近の為替相場動向を踏まえれば、こうした家計部門における外貨性資産への選好は一段と強まる可能性があるでしょう。昨年初頭から今年3月末で見ても、今年1~3月期で見ても、円はほぼ世界中の通貨に対して負けています。図はG10通貨の対円でのリターンを見たものだが、どの通貨も上昇しています:

とりわけ昨年初頭からの1年3か月間でカナダドルや米ドルは対円で+20%近く上昇し、それ以外の通貨も+10~15%のレンジで上昇しています。これを見る限り、円安は巷間指摘されがちな「ドル高の裏返し」ではなく、積極的な円売りに主導された結果と考えざるを得ません。家計部門が外貨運用を検討する際、殆どのケースはG10通貨でしょうから、過去1年半、外貨運用によって円安や資源高に伴う物価上昇の影響を緩和できたという成功体験を得た人々も多かったのではないでしょうか。

常に通貨高に悩んできた日本にとって今次局面ほど「資産防衛のための投資」が説得力を持つ状況はありません。資源純輸入国の日本にとって円安・資源高は実質所得の激しい流出を意味します。投資をしなければ直接的な損失を被ることはありませんが、既に見られるように、輸入財を通じた値上げで財布から所得を召し上げられることになります。こうした実質ベースで見た所得環境の悪化は資源純輸入国である以上、避けようがありません。

今のところ政府・与党はインバウンド全面解禁も原発再稼働も決断する様子がないため、為替需給の状況は変わりようがなさそうです。だとすれば、家計部門の「自分で何とかするしかない」という状況は明らかに極まっていると言わざるを得ないでしょう。タイミングよく岸田政権が「貯蓄から投資へ」の旗振りをし始め、海外では金利が押し上げられています。投資原資を抱える合理的な個人は外貨建て資産の魅力を検討するのが自然です。

昨年12月、日経電子版は「若者の投資は消費感覚」と題した大手ネット証券社長のインタビューを掲載していますが、まさにそのくらいの姿勢で円売り・外貨買いが出来てしまう時代であることを念頭に置くべきでしょう:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB157W60V11C21A2000000/


4~6月期も一段と円安が進んでいるため、次回発表の資金循環統計(2022年4~6月期分)でも外貨性資産の割合はさらに増えている可能性があります。日本人は合理的根拠よりも「皆がやっている」という空気で決断に至りやすいように思えますが、事実として円安の痛みとそれを防衛する必要性を多くの人が感じ始めており、その空気も徐々に醸成されつつあるように見えます。1081兆円の5%が動くだけでも50兆円以上の円売りになります。2021年度の日本の経常黒字は12兆円まで減っており、今年はさらに減る可能性があります。仮に家計部門が外貨運用に本腰を入れれば、50兆円規模の円売りは相場を一方的に動かす威力がありそうです。参院選後に詳細が明らかになりそうな「資産所得倍増プラン」は「空気」に突き動かされた日本人の防衛意識の下、「どれほどの円売りが出るのか」という観点から大いに注目したいと思います。



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