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日本最大級の偽文書『椿井文書』と代替現実と新規事業

日本最大級の偽文書

椿井政隆(つばいまさたか)という人物をご存知でしょうか。

中世の地図、失われた大伽藍や城の絵図、合戦に参陣した武将のリスト、家系図……。これらは貴重な資料であり、学校教材や市町村史にも活用されてきた。しかし、もしそれが後世の偽文書だったら? しかも、たった一人の人物によって作られたものだとしたらーー。椿井政隆(1770〜1837)が創り、近畿一円に流布し、現在も影響を与え続ける数百点にも及ぶ偽文書。本書はその全貌に迫る衝撃の一冊である。
(『椿井文書―日本最大級の偽文書』馬部隆弘著 (中公新書)より)

もうなんか、ワクワクしてきませんか?

この本の中で、偽文書が否定されることなく、後世に伝えられてしまった理由が次のように語られています。

すべての研究者は、自分の人生の時間を研究に費やしています。歴史の研究であれば、史料をあたり、歴史観を更新していきます。無意味な史料に関わっている時間などありません。だからこそ、偽文書を否定することに時間を使うのではなく、黙殺するということが学会の常識だった。
(『椿井文書―日本最大級の偽文書』馬部隆弘著 (中公新書)より)

ところが、最近は、偽文書そのものを対象として、それらの機能や成立過程から社会のあり方を研究するようになってきた、とのこと。

代替現実、メタフィクション、フェイクニュース

架空の歴史を練り上げる。フィクションとしての歴史を、根拠となる物品を含めて捏造していく。代替現実、メタフィクション、そうした世界観構築を、その時代のその土地の争いごとなどの世俗的争いの中に着地させていった手法。ある意味で、フェイクニュースのようなものかもしれません。

魅力的に見えるファンタジーとしての架空の歴史や世界。それが、実社会と密接に結びついた、興味深い事例。しかも、いくつかの土地では、現在でも、この椿井文書に描かれた偽の歴史に基づいて地元の祭りが興り、それが地域創生の主要な要素になっていたりもするというのです。

世界は変えていける

世界は変えていくことができる。それは、世界そのものに働きかけることで、世界を変えていくこと。もうひとつ。自らの中にある世界の見え方を変えることで、世界が変わっていくこと。

社会実装される活動によって世界を変えていくことも、学びによって自分を変えることで世界が変わっていくことも、等しく世界を、未来を変えていくことにつながるのだと思います。

フィクションとノンフィクション

僕たちは、主観を通してしか世界を見つめることができず、世界に触れることも、触れていると感ずることもできません。それは、自分だけの架空の世界を自分で作り上げること、目の前にある事実を自分なりの文脈で解釈することに他なりません。自分の妄想の世界を積み上げることは、とても楽しく、また贅沢な時間です。

起業も、新規事業創出も、世界観を描き出し、フィクションとしてのビジョンを社会実装し、ノンフィクションにしていく、という意味では同じことなのかもしれません。フィクションのままで潰えてしまえば偽文書です。

椿井文書も、フィクションを社会の要請に合致させることで、歴史の解釈を変えるほどに社会実装を実現しました。その目的や結果の良し悪しは置いておくとして、その社会的インパクトはとても大きなものがあります。実際に、ある土地において、ある領域において、そのフィクションはノンフィクションとして受け止められるようにすらなってしまいました。

フィクションのノンフィクション化は、妄想の現実化であり、ビジョンの社会実装です。

個人的には、自分が死んだ後もつづく、次の世代の人たちが笑顔で暮らしていける未来につながる世界を描けたなら、といつも思います。今ある世界をどう解釈し、どう意味づけ、どう生きるのか。椿井政隆に負けないくらい、歴史を変えるくらいのインパクトのある世界を描くことができたなら。

フィクションをノンフィクションに。明日もがんばりましょう!

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