見出し画像

中小企業は名古屋自動車事件最高裁のメッセージに対応できるか

以下の記事にもあるように、労働生産年齢人口が減少していく我が国においては、今後、高齢者雇用の拡大が重要となる一方で、いわゆる「同一労働同一賃金」が大きな課題となっています。

この点に関し、今年大きな注目を集めた最高裁判例として、名古屋自動車事件最高裁判決(最高裁令和5年7月20日)があります。

先日、同一労働同一賃金の第一人者と言える学者の先生の話しを拝聴し気になったことを備忘もかねてまとめておきたいと思います。

長澤運輸事件の判断

名古屋自動車事件以前においても、定年後再雇用された者の待遇が問題になった事案として長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日)という最高裁判決が存在しています。

そこでは、基本給についての判断を簡潔にまとめると「再雇用された者の基本給と再雇用前の正社員との基本給の差は大きくはないし、要件を満たせば年金もらえるし、労使交渉もされているし、不合理ではない」という判断がされています。

名古屋自動車事件の判断

他方で、今年出された名古屋自動車事件においては、以下のように判断しています。

「…労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条(筆者注:労働契約法20条)にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである」

つまり、簡単に言えば、「基本給、賞与だって不合理になることはある。基本給、賞与もその性質、目的をしっかり認定して、不合理性を判断せよ」とし、もう一度その点を認定したうえで不合理性を判断し直させるために高裁に差し戻したという判決です。

長澤運輸事件と名古屋自動車事件との違い

名古屋自動車事件の上記判断箇所は、メトロコマース事件最高裁判決(令和2年10月13日)を引用しているとおり、これまでの最高裁判例の流れと同一の考え方であり、特段の驚くところはありません。

しかし、長澤運輸事件と対比させると、長澤運輸事件では、結論的には待遇差の不合理性を否定し会社側を勝たせているものの、実は基本給の性質・目的の認定はほとんどされていないといえます。

この点については、名古屋自動車事件最高裁と対照的といえ、名古屋自動車事件の最終的な結論はまだ分からないものの、定年後再雇用の者の待遇差に対する最高裁のスタンスはやや変化があるといってよいでしょう。

基本給含めた各待遇の性質・目的を説明できる中小企業がどれほどあるか

これまでも、正規、非正規との待遇差の不合理性の判断にあたっては、その待遇の性質・目的を認定する流れはあったのですが、名古屋自動車事件は、たとえそれが定年後再雇用された者の場合であっても、特別視せず、同じ様にちゃんと考えろという判断をしました。

したがって、基本給を含めて「その待遇はどういう目的で支給しているのか」ということをしっかりと説明(主張立証)できる必要がでてきます(この点は、使用者に課せられている説明義務との関係でも重要です)。

しかし、多くの中小企業においては、人事制度、賃金制度がしっかりと設けられておらず、経営者の恣意的な判断や、何となく給与総額を「いい感じ」な金額にするために特に目的なくいろんな手当を出したりといった例をまま見かけます。
このような状況で、最高裁が求めている「待遇の性質・目的」を合理的に説明することは難しいと言わざるを得ないでしょう。

今回の名古屋高裁事件の最高裁は積極的に不合理か否かの判断を示したわけではなく、最終的にどういう決着となるかは分かりませんが、「ちゃんと待遇の性質・目的を認定せよ」というメッセージをしっかりと受け止め、これまで「何となく」賃金制度を作ってきた会社では、改めて自社の賃金制度の見直し図る必要がありそうです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?