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男性ビジネスパーソンの育児参画が促す「子育て」のアップデート~新米パパ起業家の #半育休 日記①~

 Potage代表取締役コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。6月に第一子の男の子が生まれ、一児の父となりました。

 さてそんな私は今「半育休」と称して、育児と仕事を両立しながら日々を過ごしています。会社をつくったのが2021年1月、設立からわずか半年でビジネスにややブレーキをかけることは勇気のいる決断でしたが「半育休」をやってよかったと感じています。

 長男が生まれた6月19日からおよそ1ヶ月が経ち、ようやく頭を落ち着けて整理ができてきましたが、男性の育休取得は、今後の社会がアップデートしていくために、必須なアクションだと考えています。実際、法改正もあり、ますます社会の育休推進の流れは進むでしょう。企業も、育休推進に本気で取り組む必要が出てきます。こちらの社説にも「なぜ男性育休取得の定着が必要なのか」が書かれています。

 以下の文章では、なぜ男性ビジネスパーソンへの育休の推進が必要なのかを、1人の経営者の、実際に現場を体験したてほやほやの目線から語っていきます。最後までお読みいただければ幸いです。

「半育休」をとることになった経緯

 私は2021年1月に会社を登記した、起業したての1人会社の1経営者です。 2020年12月に結婚し、7月予定日の子どもを授かりました。妻は4月から産休に入り、一時的に専業主婦に。そんな中、幸いなことに、半年/年間契約してくださるクライアントさんもいて、いかにビジネスを止めずに、育児との両立を図っていくかがカギとなりました。

 いろいろ悩んだ結果選んだのが「半育休」という選択肢です。子どもが生まれてから2か月間は、年間/半年の月額契約をしているクライアントさんの仕事は止めずに、新規案件を極力請けないというスタンスで、育児と仕事の両立を図ることにしたのです。

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 私は自営なので、ビジネスを止めないためにも「半育休」に挑戦したのですが、会社員にも半育休を選択肢として認める動きが出ています。

 もちろん完全育休のほうが育児への参画度合いは強まり、メリットは多いですが、私と同じように、仕事を止めたくない、仕事と育児のバランスを取りながら育休期間を過ごしたいビジネスパーソンには、いい選択肢になりうると考えてます。(ただし、後日記事にする予定ですが、この両立はけっこうホネではあります。うまくやらないと、どっちつかずで終わる結果になります)

 コロナ禍の状況下にもかかわらず、幸いなことに入院した病院は個室泊で、分娩室も独立しており、隔離によるウイルス対策が万全だったため、家族の立ち合いや、入院付き添いも可能でした。無痛分娩の計画出産だったので、出産日も入院日も事前に確定。おかげで仕事の融通をつけて、入院期間は妻と子のケアに専念することもできました。出産は19日、退院は23日。ここからが本番で、新米両親の手探り育児がスタート。半育休生活も、ここからスタートでした。

 そこから1ヶ月を経た段階で結論を言うと「半育休」をとるメリットはかなりありました。一番大きいのが、育児に関する万事を「夫婦で決める」意識づけができたことです。

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「里帰り出産」が持つ2つのバグ

 そもそも大原則として、生まれてからおよそ1ヶ月の新生児期は、母親1人でまわせるものではありません。母体の出産時のダメージは甚大で、体からの出血は止まらず、体調も安定しませんし、外出もできません。少なくとも2週間は寝たきり、もしくは長時間立っているのもつらい状況です。

 しかし昭和型の育児は、男は外で稼ぎ、女は家で子を育てる(しかも家事をしながら)ものと価値観がかたまっていました。

 この時点で前提が既におかしいのがお分かりかと思います。出産で心身が消耗している母親が育児と家事をたった1人でまわせるはずもありません。しかし回っていたのはなぜかといえば、どうにかするために高度経済成長期に編み出されたソリューションがあるからです。それが「里帰り出産」です。

 母親は出産のために、実家に帰省する。生まれた後も、家事の心配のない実家で、ばあばのノウハウを借りながら、育児について学習していく。これなら男性は安心して育児のことをまかせきりにして、仕事に向かえるというわけです。

 これはとても効率的な仕組みで、それゆえに令和の今でも「出産の常識の1つ」として「里帰り出産」が奨励される風潮になっています。

 しかし「里帰り出産」のモデルには2つの致命的なバグがあります。1つは、男性を育児から隔離する体制が定着すること。そして2つ目が「出産・育児の常識の時代による変化」を子育てに取り込めないことです。

里帰り出産のバグ① 男性の育児からの隔離

 母親が里帰り出産して、1週間に1回週末に父親が母子に会いにいく状態だと、その1週間はいわば男性の育児からの「隔離期間」ということになります。その間にあった幾百の育児における意思決定のプロセスに、父親は一切関与しませんし、当事者は母親とばあばですから、いわば「お客さん」状態で母子と接することになります。

 この状態が1ヶ月続くと、母親が子どもを連れて自宅に帰るころには、夫婦間の育児リテラシーに膨大な差が生まれます。父親は、新生児期を終わるのに、ミルクをつくることも、おむつを替えることも、沐浴することもできない、ノンスキルな状態なわけです。スタート地点でのギャップは致命的で、既に熟練のスキルを持つ母親との間の差はますます広がっていきます。結果として、母親側の不満はたまり、父親への対応も変わってきます。よく夫サイドの愚痴として言われる「生まれる前は仲が良かったのに、うちの奥さんは子供が生まれてから変貌した……」という状態は、このような構造で生まれるのです。

里帰り出産のバグ② 「出産・育児の常識の時代による変化」を子育てに取り込めない

 たとえば「出産・育児の常識の変化」を象徴する存在として「無痛分娩」があります。私たちの家も導入した無痛分娩はフィンランドで9割、フランスでは8割と、欧米諸国では定着しつつあるにもかかわらず、日本ではわずか6%の普及率です。

 追加のコストや麻酔を使うことによるリスクなども考え、無痛分娩にするかどうかは夫婦でも会話しましたが、分娩時の母体への負荷がかなり軽減されること、それにより産後の回復が早く見込まれることから、十分に費用対効果もあると判断し、即決しました。母親の回復が早いほど、新生活にスムーズに入れるのは当然のことですし、ストレスが軽減されれば夫婦間コミュニケーションにもいい影響がもたらされます。(実際、我が家では多大な恩恵を受けましたし、夫婦の関係性がむしろ向上しているのは、無痛分娩を選んだからだと確信してます。)

 ちなみに産科の先生に無痛分娩のリスクについて確認したところ「専門家の見地から言うと、お産の最大のリスクは"痛み"です。それをコントロールすることによりむしろリスクを減らし、安心安全なお産に向けたオペレーションを設計できるんです」という説明を受けて腹落ちしました。

 しかし、繰り返しですが、日本での普及率はたったの6%です。なぜこのようなことが起きているのでしょうか。

 こちらの記事に書いてある通り「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかないという言説」が普及の妨げになっているのはもちろんのこと、里帰り出産という文化が、普及の妨げになっていると考えられます。無痛分娩ができる産婦人科医院の数が少なく、その多くが都市部に集中しているため、地方では自然分娩が圧倒的優位な現状なのです。

 以下のリンク先サイトで無痛分娩ができる医院の分布を見ることができますが、対応している病院の数が2桁なのは、千葉、東京、神奈川とわずか3都県です。しかも産科の出産予約はどの地域でも競争率が高く、希望の医院で産める確率はかなり低いのが実情で、無痛分娩を希望しても事実上受けられない地域はたくさんあるのです。(我が家も検診を受けていた産科の入院定員がオーバーしたため、転院を余儀なくされましたが、あちこちの病院に電話をかけてどうにか予約できたという状況でした。産科の数が多い都内ですらこんな状況なのです。)

 その上、良くも悪くも、保守的な気風の土地に住む年配の方ほど「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかないという言説」を持ちがちです。地方の妊婦さんが「うちの地域では、無痛で生みたいなんて口に出して言える空気じゃない」と言っているのを聞いたことがあるのですが、その土地の空気をつくっているのは「自然分娩が子への愛情形成に大事」と信じて疑わない大人たちなわけです。

 無痛分娩はあくまでひとつの例ですが、他にも育児は「父親がどれだけかかわるか」「母乳かミルクか」「紙おむつか布おむつか」「添い寝か別室か」「泣いたらすぐ相手するかやや時間を置くか」「近所の人や友人を頼るか」などなど選択の連続で、何がベターな選択肢なのかは時代によっても言われていることは大きく変わります。

 年配の方の経験やアドバイスには宝も当然ありますし、敬意は持っています。しかしフェアに見るなら、長年育児から離れているのも、最新の状況についてキャッチアップできていないのも事実ではないでしょうか。(例えば、無痛分娩に関する知識も、近年広がっている「ねんねトレーニング(ねんトレ)」に関する知識も薄い方がほとんどではないでしょうか。)可愛い孫の世話をしたい年配者の方もいるかもしれないですし、その方々のやりがいに水を差すつもりはありませんが、この点は客観的な事実として、向き合わなければいけないことだと考えています。

 里帰り出産は、育児に関する情報のインプットが、シニアとなっているばあばからのものに、ほぼ限定されます。仮に両親がネットで調べた最新の情報があったとしても、ばあばが取り合ってくれないリスクもあります。ばあばからしたら子どもはいつまでたっても子どもなので「なんで言うことを聞かないのか」というプレッシャーも発生しがちです。(そこに、ろくに育児に関与していなかったのに、思い込みで口ばかり出してくるじいじが加わると実に最悪です。)

 新しい価値観に寛容な家もありますし、全ての実家がそうとは言いませんが、里帰り出産をすることで、時代に即した意思決定ができなくなるリスクは、多分にあるのではないかと考えています。

男性の育児参画が促す「子育て」のアップデート

 さて私は「里帰り出産」は、男性が1つの企業に忠誠を誓いながらモーレツに働くことが奨励された高度経済成長の時代が生んだ「緊急措置」のようなものだったと考えています。歴史をたどると、日本独自の風習である里帰り出産が広まったのは、核家族化が進んだ1970年代のこと。労働力を確保し、人口も増やしたい世の情勢と重なって、奨励されてきた一面もあるでしょう。

 しかしよくよく考えれば、男性女性かかわらず、両親が育児に参加するというのは、至極当然のことで、両親のどちらか(今回の場合は父親)を排除して成立させようとする仕組み自体に問題があると個人的には考えています。

 何が言いたいかと言うと、男性の育休を促す昨今の流れは、そんな緊急措置的状態から「あるべき姿」に育児を戻すためのプロセスと言えるのではないか、ということです。
都市化も落ち着いてきて、核家族が当たり前の選択肢になり、家族をめぐる多様性も広がってきました。リモートワークも在宅勤務も広がり都市の一極集中も緩和される中、里帰り出産という緊急措置からあるべき姿に戻っていくのは、時代の趨勢を考えても当然の流れです。

 ただし、育休をとっただけで、何もできていない父親もたくさんいると思います。(私も正直、半育休期間のこの1ヶ月、そうなりかけては、妻から発破をかけられていました。)では、きちんと育児に参画していると胸を張って言えるようになるには、何が必要でしょうか。

 根本的にたったひとつ大事なのは、育児に係る1つ1つの選択を「夫婦一緒に決める」ことです。1ヶ月新生児のお世話をしただけで痛感しましたが、育児は無数の選択の連続です。きちんと状況をみて、お互いに意見を出し合いながら決めることではじめて、育児を夫婦で分け合うことができます。専門家や人生の先輩の意見は聞いて参考にはするけど、決めるのは自分たち2人なのだという意識を持つことによって、受け身ではない育児参画が成立するのです。

 男性側が奥さんに「言ってくれれば手伝うのに」と発言し、奥さん側から激怒されるという「夫婦仲決裂あるある」がありますが、これはまさに「決めるのは奥さん。自分は手伝う側」という意識が表出しているため発生します。実は私も出産前に半ば無意識にこのような発言をし、妻との家族会議に発展しました。お互いに納得感のある結論を出して今に至っていて、あの時、きちんと向き合えてよかったと痛感する日々です。

 母親サイドが父親サイドに求めるのはサポートではありません。対等なパートナーシップです。ビジネスに例えると「言ってくれれば手伝います」は「お母さんが社長で、お父さんが部下」という関係性です。そうではなくて「一緒に決めていこう」という関係性、例えて言うなら「共同代表取締役」にならなくてはいけないのです。

 そして、この「一緒に決める」という夫婦の意識づけは、子育てのアップデートへとつながっていきます。

 1ヶ月間で痛感したのは「ビジネスで得た経験・知見がこんなに生きる現場なのか!」という驚きの事実でした。私の妻は元エンジニアのPMなのですが、彼女のリサーチ能力と、外から持ってきたフレーム(我が家は「ジーナ式」というねんトレメソッドを独自にアレンジして導入して日々PDCAをまわして改善しています)をアレンジし、不器用な私でもまわせるオペレーションに落とし込む力には舌を巻きました。

 私は私で、スキルが足りない分、得意な部分で補おうということで、自身のネットワークからねんトレに成功したワーママを紹介して話を聞いたり、ベビーラップ(抱っこ紐の一種)の講師をしているワーママの友人を自宅に呼んでワークショップをしてもらったりしました。2人の意見が割れたときには、ファシリテーション力を活かして家庭内ぷちワークショップを開催し、一緒に課題の解決法を考えたりしています。これらはおそらく、昭和型の育児では実現できていなかった育児の形です。

 先ほどの社説にあった通りで繰り返しですが、男性の育休には、ダメージを負って、外出もできない母親の家事育児のサポートという目的がもちろんあります。しかしそれは大前提として、育児に自身が仕事などで得た知見を持ち込み、子育てのスタイルを一緒に発明していく触媒として役割が、父親側には求められていると、個人的には考えています

 育児は不確実要素が無数にある長期プロジェクトです。ビジネスで経験値の高い人ほど、そのプロジェクトに立ち向かう素地はできているはず。自身のマネジメント能力や、PM能力、リーダーシップを持って、パートナーと共に頭をひねり、試行錯誤し、意思決定を重ねていけばいいのです。

 世の中にはたくさんのビジネスに関する知見がビジネスパーソンから発信されていますが、ビジネスの知見同様に、子育ての経験が蓄積し、発信され、世の中に新しいフレームとして定着していけば、子育ての負荷はより軽減し、ビジネスパーソンが子どもを生み、育てやすく、男女ともに仕事と育児を両立しやすい社会へと変化していくでしょう。そんな社会を実現するには、1人1人のビジネスパーソンによる意識的な参画と、前向きな発信が必須ではないかと私は考えています。

家族という「コミュニティ」を成長させるために

 育休期間は仕事についても大きな学びをもたらせてくれます。この1ヶ月、コミュニティの専門家である自分の「コミュニティ観」はアップデートの連続でした。不確実性の高いプロジェクトに、共通のビジョンを掲げながら、異なる価値観の相手と対等な関係性で向き合って取り組んでいく育児のありようはまさに「コミュニティ」そのものです。コミュニティの専門家としては、本気で取り組むべきテーマですし、そのことが育児に関してのいい意味でのプレッシャーになっています。

 半育休期間は残り1ヶ月弱ですが、その先もどんどん学びは深まるでしょうし、家族というコミュニティは、いい方向に進化していくのではないかと期待に胸を膨らませています。引き続き気づきはCOMEMOなどでシェアしていきますので、暖かく見守っていただけると幸いです。

 そうそう最後に一言だけ。まだ育休をとるかどうか迷っている全男性にこんな言葉を残して締めたいと思います。

 新生児は可愛いぞ!可愛すぎるぞ!毎日表情も変わるし、体つきも変わるし、毎日が発見だぞ!こんな素敵な子どもの成長を、仕事にかまけて見逃している場合ですか!?見逃しちゃダメ、絶対!!当事者意識をもって接しないと、人生損ですよ!!ほら、見てみて!ほら!

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 ここで一句。「真面目記事/台無しにする/デレ具合」。おあとがよろしいようで。それでは最後まで読んでいただきありがとうございました。

 なお、半育休に関してはいったん8月いっぱいまでとしています。(状況を見て延長の場合はありますが)9月以降の仕事についてはご相談受け付けておりますので、いつでもお問合せ下さいませ(授乳時間や沐浴時間を優先している都合上、返事が深夜になる可能性もあるのでご了承下さい)



 



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