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人生計画で考える残価設定住宅ローンの損得勘定

自動車購入の方法として一般的になった「残価設定ローン」の利用率は、自動車購入者のおよそ2割、30代のファミリー層では3割と言われている。(日本自動車工業会調べ)

残価設定ローンは3年後、または5年後の中古車価値(予想値)を差し引いた金額でローンを組めるため、月々のローン返済額を低くできるメリットがある。しかし、ローン金利(年率3~5%)は車両価格の全額にかかっており、3年、5年後の中古車相場が予想を下回っていれば、その減額分をローン会社と契約者のどちらが負担するのかという問題が生じてくる。(詳細は契約条件によって違う)

2023年末に起きたダイハツの不正発覚により全車種の販売停止では、ダイハツ車の中古相場が大きく下がることも予測され、その影響は残価設定ローンを利用しているオーナー全体に及ぶ懸念も指摘されている。信販会社の中では、ダイハツ車の中古価値が下落することを恐れて、新規ローンの扱いを停止する動きも出た。

自動車は「金融資産」としてローン担保の一部に組み込まれているため、メーカーの不祥事や環境規制の強化などにより、中古相場が下落すると影響は広範囲に及んでいく。残価設定ローンのスキームが円滑に回っているうちは良いが、逆のスパイラルが発生すると、ローンの不良債権問題が露呈してくる。

それでも残価設定ローンは、手持ちの資金に余裕が無くても購入計画を組みやすくなるため、自動車以外の商材にも広がっていく可能性が高い。

【時代が求める残価設定住宅ローン】

 人生の中で最も支払い負担が重い「住宅ローン」にも、残価設定型ローンを国が推進しはじめている。国土交通省は、持続性の高い住宅流通の仕組みとして残価設定型ローンの開発を、住宅メーカーや金融機関との協力により、2020年から進めている。

この背景にあるのは、日本では大地震にも耐えられる住宅を作る必要があるが、そのためには建築費が高額になってしまうこと。また、平均寿命が90歳に近づく中で、50年超の住宅プランが必要になってきたことがある。そこで、国が認定した長期優良住宅に対して、残価設定ローンを組めるようにする。

しかし、数十年先の中古住宅相場(残価)を予測することは難しいため、国の外郭団体である「移住・住み替え機構(JTI)」が住宅メーカーからの依頼により20年以上先の残価査定と買取保証を行い、残価設定した年数の経過後は、住宅を売却するか、大幅に引き下げられたローンを払いながら住み続けられる選択肢を住宅所有者に対して与える仕組みがスタートしている。

2023年5月から三菱UFJ銀行、ミサワホーム、JTIが共同で開始した残価設定型住宅ローンは、住宅購入者が希望する残価設定年齢を決めることができ、その年齢に到達した時には、「買取オプション」と「返済額軽減オプション」のいずれかを選択することができる。

たとえば、35歳で5000万円の住宅を購入する場合、通常の住宅ローン(金利1.2%、35年返済)では、月額14.5万円の返済義務が70歳まで続くことになる。一方、残価設定ローンでは、残価設定年数を25年後と決めると、月額14.6万円の返済は60歳まで続くが、その時点で自宅を譲渡(売却)してローン残高を清算することができるのが買取オプションの選択肢だ。

ミサワホーム残価設定ローン

もう一つの返済額軽減オプションでは、60歳以降はローン返済額が月額4.1万円に軽減され、85歳以降は残債に対する利子分の支払いのみ(月額およそ1万円)になる。この選択肢では、ローン債務が生涯にわたり続くことになり、死亡時に買取オプションが実行されて、家の売却とローン残債が清算される。これは、現代では相続されない家が増えていることに対応した仕組みとして開発されたものだ。

ミサワホーム残価設定ローン

JTIが残価査定する住宅価値は、非常に保守的な算定がされているため、将来の中古住宅相場が好調であれば、それよりも高い価格で民間業者に売却することも可能だ。また、減額されたローン利子を払いながら住宅所有を続ける場合でも、賃貸物件として運用する方法(マイホーム借り上げ制度)も用意されている。このように、住宅ローンの返済に多様な選択肢が広がることは、住宅の新築や建て替え需要を促すため、住宅メーカーにとってもプラスの効果がある。

ただし、JTIの残価設定ローンは、住宅購入から20~25年間は通常ローンと同じ月額返済をしていくことになるため、子育て教育費の負担が大きな30~40代の時期にローン負担は軽減されないことが欠点になる。子育てを終えた50代以降のライフプランをどのように描くのかにより、通常の住宅ローンと残価設定ローンのどちらが良いかの判断は変わってくる。

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