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危機だから変われるのか、危機だから変われないのか ~世界経営者会議にみるトップの意識

今年の世界経営者会議のテーマは「分断を越え新常態へ」であった。ここでいう「分断」は、記事によればコロナ禍で世界の人やモノの動きが大きく制約されたことを指してのもの、ということのようだ。


しかし、登壇した各社のトップの話を聴いていて、むしろ企業間で、コロナ禍はもとより、それ以前のデジタル対応について大きな隔たり、「分断」が生じていて、こちらの分断の方がむしろ今後その溝を埋めていくことの難しさを迎えるのではないかという印象を持った。

登壇者の中で、積極的にデジタル化などを進め新しいニューノーマル・新常態に対応していこうと明確に打ち出したのは、マネーフォワードの辻社長だ。

辻社長は、コロナの前に戻らないと決めたと述べ、デジタル化については

「コロナというストレスがかかっている時にしか(デジタル化は)進まない。」

と述べた。そしてこのコロナ禍の時こそ、デジタル化を進めていく絶好のチャンスであるという認識を示していた。

また、IBM のクリシュナ CEO は、この記事の要約には出ていないが、

「デジタル化の波は数十年前から起きていた」

と、我々日本人には耳の痛い指摘をしたあとで、

「事態が深刻な時こそ変革できるし、それが出来てしまえばその後は楽なのだ」

という趣旨の発言をしていた。IBMでは、在宅勤務では従業員が「働きすぎないように」ケアしていると述べ、従業員をサボらせないための監視の工夫に腐心していたことが報じられた日本企業との対比を興味深く思った。

日本の伝統的な大企業のトップが、この点についてどのような話をしたのか、またそれにともなってどのような施策をとり成果を出したか、を話していたのかどうかというところは、私がリアルタイムに聴講できたセッションに限りがあるために明確には分からない。

日本では、高度成長期に確立され最適化された仕組みがいまなお残り、社員は労働法制によって解雇から手厚く守らることによって、失業リスクを最小化できる仕組みが整っている。

一方で失業リスクが最小化されていることの表裏の関係でリターンも最小化され、大枠は高度成長期の仕組みのままに「失われた30年」を過ごした結果、日本の労働者の賃金は他国との比較でも一向に上がらないままになっている。

このリスクとリターンのバランスということを、残念ながら私たちはあまり明確に意識しているようには思えない。リスクを取ればこそリターンがあるのであり、高い報酬(リターン)をもらうためには、それに応じたリスクを取らなければならない、というところが直感的に理解されていないのではないか、と思うこともある。

もちろん社会の安定のためには、失業をはじめとするリスクを減らしていくことも、とても大切なことだ。だが、解雇されるリスクを最小化し、今のままでいることによって問題を「静的に」解決するのではなく、今とは違うチャレンジをし、それがうまくいかなかった時にセーフティネットがあり、再チャレンジできる、再び仕事が見つかるという形で、「動的に」リスクを減らすという方向に、そろそろ舵を切るべき時なのではないだろうか。

そうしないと、危機的状況でも変われない、むしろ危機的状況だからこそ変われない、ということになってしまい、それがまさしく今の日本の経済のメインストリーム、つまりは伝統的な大企業において起きている現象ではないかと感じる。

一方で、マネーフォワードのようなスタートアップ・新興企業や、 IBM のような国際的な企業は、危機だからこそ変われるという認識を持っているようだ。

6年前の、2014年の世界経営者会議で当時の日立の中西会長が「考え方の劇的転換を」する必要があると述べている。

6年経って、日立に限らず、日本の企業はこの「考え方の劇的な転換」を行なえたのだろうか。また、企業が守らなければならない法律や省令等の規則は、時代に即した十分にタイムリーな改正をし、それが出来ないまでも改正に向けた議論を行ってこれたのだろうか。

危機的状況で、変われるか変われないかの差はとても大きい。改めて私たちは「危機」と「リスク」そして「リターン」の関係についてもう一度考え直すべきだろうし、この2020年のコロナの状況は、そのための絶好のチャンスではないかと、講演を聞きながら思った。

#世界経営者会議 #日経フォーラム

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