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多拠点生活で「心理的出不精」を解消しよう!~コロナ禍を経て「移動」が持つ意味~

 Potage代表取締役コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。5年以内に国内外に別拠点を持って、東京と行き来する生活に移行できないかと考える日々です。

 コロナ禍の前からそんな希望を持っていたのですが、昨今の情勢は「多拠点で活動したい」「ワーケーションをしたい」というニーズを後押ししています。注目する企業もあらわれ、観光業で苦戦する地域とビジネスパーソンをマッチングして新しいビジネスをつくろうと模索しているようです。

 上記の例は新規事業のつくりかたとしてとてもいいですね。事業をつくるにあたっては、自らが実践者となり、事業化の課題や、ユーザーの感情にしっかり焦点をあてながら企画・実行していくことが求められます。新規事業開発と自社の働き方のアップデートとの一石二鳥をとれる、いい事例のように個人的には思います。

 さておき、このコロナ禍で私自身も、2拠点生活への興味がどんどん増しています。なぜかと言うと、コロナ禍で行動が制約され、オンライン中心のワークスタイルに移行する中で、自分自身のマインドセットがどんどん「引きこもり」の傾向にあるからです。当記事ではそのマインドセットを「心理的出不精」と呼んでいます。それを打破するために、別の拠点をもっと早く持つことが必要なのでは?と考えるようになったのです。

 なぜ「心理的出不精」を解消するために、多拠点生活が必要なのか。当記事では、コロナ禍でのワーク&ライフスタイルの変化から、読み解いております。最後までよろしくお付き合いください。

コロナ禍が生み出す「心理的出不精」

 私自身の仕事について、昨年3月からのコロナ禍の流れを振り返ってみると、最大の変化は「家から出ずに仕事が完結するようになったこと」でした。

 もともと大きな会社さん向けのリアルコミュニティ活性施策のサポートが自分のメインの領域だったのですが、場づくりの手段が「オンライン」に切り替わり、大きな会社さんのワークスタイルもリモートへとシフトしていくにつれ、打合せの90%、イベントやワークショップの90%が「自宅からのアクセス」になったのです。

 私は元来「リアルファースト」を標ぼうするくらいに、対面での施策やミーティングへのこだわりがありました。「電話でもいいよ」と言われても、先方のオフィスにお邪魔することのほうが多かったですし、そういうときは「これはリアルで会った方がいい」という予感を裏切らずに、新しいアイデアが生まれたり、相手との関係性が深まったりしたものでした。

 しかし一度オンライン化すると、移動時間が減り、稼働時間を増やすことができ、効率的な業務遂行が可能になりました。更に、奥さんの妊娠、出産の時期で、ケアが必要だったこともあって、自宅にずっといられることのメリットを味わいながら、自宅で仕事と生活を行き来する日々に慣れていきました。もちろん妊婦への新型コロナウイルス感染のリスクを減らしたいという気持ちが、外出をより控える傾向を強めたという側面もあります。

 結果、自分の中に、かつての自分なら信じられないような気持ちが芽生えはじめました。あえて直接的な表現でカミングアウトをすると「外に出るのがめんどくさい」という引きこもりに近い感情が心の片隅に生まれたのです。これは多かれ少なかれ、ステイホームが長く続いたビジネスパーソンの誰しもが感じたことがある本音ではないでしょうか。

 このコロナ禍でビジネスパーソンは、外で人と会う機会や、リアルでの施策を厳選するようになりました。その蓄積が生んだ感情を私は「心理的出不精」と表現しています。

 これは、決して「外に出かけずに引きこもりたい気持ち」という意味ではありません。実際、「出かけるのめんどくさいな」と思っている人の多くが出かけているわけですし、家から出たくない、と思っているわけでもないのです。

 そうではなく「外にでかけるのがちょっとめんどくさい」「玄関を出るのに気持ち的にちょっと壁を感じる」というレベルの「その気になったら軽く超えられるちょっとしたハードルや違和感」が、ここで言う「心理的出不精」なのです。

 たとえば読者のみなさんの中にも、久々に会社に行くのに「同僚と話をするのはいいんだけど、めんどくさいなあ」という気持ちになったことがある方は少なくないと思います。けど実際に仲のいい同僚に会って話をすると「あー、やっぱり来てよかったな!」という気持ちになったりするのですよね。しかし次の出社も、やっぱり気持ちが乗り切らない……これが私の言う「心理的出不精」が起こす典型的な事象になります。

心理的出不精状態を緩和する「移動時間」の重要性

 この「心理的出不精」はとても厄介なものです。本当に些細な、ちょっとした気持ちなので、抜本的な対策をしようという気も置きづらく、かといって、冬場に指先にできたささくれの痛みみたいに、継続的にストレスを感じてしまうものでもあります。

 「心理的出不精」を抱えながら暮らす人々は、車に例えると、常に軽くブレーキを踏んだまま大きな通りで車を運転しているような状態です。だから、前向きでいい局面でも、気持ちが積極的に、前に(外に)向きづらいわけです。

 先ほども言った通り、自分自身は「リアルファースト」の人間で、対面で人と会った方がいいと分かっているし、対面を軸としたコミュニティの活性を促していくのがコロナ禍後の大事なミッションの1つだと確信しています。しかしそれを促すには、仮にウイルスの危機がなくなったとしても、世界中にはびこってくすぶり続けるであろう「心理的出不精」が大きな障壁となります。

 ではどう対策を打てばいいかと言うと、本当にシンプルな話ですが「出かけると楽しいことが起きるぞ!」という期待感を日常的に刷り込んでいくことが、心理的出不精を打ち消すための根本的な方法なのです。ちょっと難しい表現にかえると「外出の体験価値を上げる」ことが、コロナ禍後の社会においてはより大事になってくるということです。

 ここでようやく冒頭の「2拠点生活」の話に戻ってきました。私は、複数の拠点を持ち、行き来しながら、生活や仕事を進めていくことが、日々の生活や仕事の「体験価値」を上げることにつながるし、多拠点を持って移動する習慣を身に着けることが、ビジネスパーソンの中にくすぶる心理的出不精を解消する一つの方法だと考えています。

 2拠点生活や多拠点生活における「体験価値」については多くの方がたくさん既に書かれています。ぜひそちらを参照いただくとして……

 ……この項では主に「移動時間」の効能に焦点をあてて、続きを書いていきたいと思います。

 他拠点への移動時間にはいくつかの効能があり、それが先ほど述べた「心理的出不精」の緩和に大きく寄与するのです。

 特に多動なビジネスパーソンにあてはまるのですが、他の拠点に移動するその過程で、普段のローケーションで感じているマンネリ感がリセットされ、結果、まっさらな気持ちで仕事や生活に臨むことができます。めんどくさいという気持ちを振り切ってえいやっとお出かけをすることで、移動の時点で既に高揚感がうまれ、いったん「心理的出不精」が持つブレーキの力を弱めることができるのです。

 そして、移動時間は「心理的出不精を打ち消すための自由時間」としても魅力を秘めています。移動時間とは、日常から一時的に切り離された「余白の時間」で、自分がその瞬間にやりたい行動に意識を向けることができます。映画をみることも、ボーっとうたたねすることも、内省することも、たまっている仕事を片付けることもできます。他の拠点への移動が常態化した場合、移動時間を上手に使うと、今の自分の棚卸をする余地を生活の中に産み出せるわけです。

 違う拠点に入る前、移動時間中に徐々に気持ちを移行していくことで、「心理的出不精」のブレーキをより打ち消し、次のアクセルを踏むためのギアチェンジができるようになる、そんなイメージです。コロナ禍前はよくサンフランシスコへと海外出張していましたが、飛行機移動は自分にとってまさにそんな時間でした。

 ※こちらの記事にも多拠点移動の効能について詳しく書いているので、ぜひご覧ください。

「自分が移動する」だけでなく、他者を移動させよう

 他の拠点に移動しさえすれば後はいろいろな方が既に書かれているような「他の拠点だからこそできる実のある時間を過ごす!」だけです。そこでの体験価値を上げていけば(楽しかった!いってよかった!などと思えれば)ますます心理的出不精は解消していきます。

 ……なのですが「移動」という観点でもうちょっと付け加えたいことがあります。それは「自分だけが移動するのではなく、家族や同僚や出会った人たちも移動させよう」ということです。

 これは何も、同じ列車の隣の席で一緒に移動しましょう、という意味あいだけではありません(それはそれでいいコミュニケーションの時間になるでしょうが)。「この土地はとてもいいから来てみない?」と自分が住んでいる地域の方を誘ってみたり、逆に他拠点の人たちに「東京で引き合わせたい人がいるから、ちょっと来てみません?」と誘ってみたりして、2拠点間に人の移動を促していこう、という意味です。

 「知っている人の熱心な誘い」は「心理的出不精」を打破するためのトリガーになります。みなさんも一度は「この土地がいいからぜひいったほうがいい!」と友人などからすすめられて旅行先を選んだ経験があるかもしれません。人との出会いを求めているようなコミュニティ活動に従事している人ならば「この地域に面白い人がいるので紹介する」という一言は強力な移動のモチベーションになります。また車のたとえで表現すると、身近な人のすすめは、何よりも大事なアクセルなのです。

 また、他者を巻き込んだ2拠点、あるいは複数拠点移動が進んでいくと、各地域のコミュニティが自身を媒介にして、ゆるくつながっていく状態をつくることができます。

 自身の経験談を例にお話します。昨年の秋に、長崎でワークショップを開催する機会があったのですが、その時に奥さんも一緒に連れて行きました。ワークショップのときは彼女は市内観光を一人でしていたのですが、翌日の朝食会から合流し、ワークショップに参加していた長崎県内の市町村自治体のみなさまと会話を弾ませました。

 彼女は農業流通系のスタートアップで働いており、雲仙地域で栽培されている伝統野菜を広めたいと考えている行政職員の方の悩み相談にその場で乗っていました。長崎の魚を東京に流通させるプロジェクトをやっているメンバーも同席していて、ローカルの生鮮品の流通に関するぷち情報交換会が生まれていました。

 会話を通じて現地の農業流通の深い話を伺うことができ、朝食会を終えた後は雲仙の方がおすすめしていた、地元の人でないとなかなか知ることのできない産直野菜を販売する拠点を訪ねることができました。私は何度か仕事でかかわっていた長崎が既に好きになっていたのですが、出張の同伴を通じて彼女も長崎の魅力に目覚め「2拠点生活をするなら長崎もいいよね」という会話をするまでになっています。

 会社員時代には、キーパーソンと思う同僚を積極的に巻き込んで、一緒に出張に行くこともありました。そして出張での共通体験が新しい発見を産み出し、その後のビジネス活動にプラスの影響を与えていたのです。その際に出張を実のあるものにするコツは、出張先のコミュニティの人たちをどんどん紹介していくことでした。

 これは小さな「ゆるいつながり」の例ですが、他者の巻き込みは偶発的なつながりを産み出し、それぞれのコミュニティへの気づきを促します。そして、自身が「出会いのハブ」としてそれぞれの地域で認知されることにより、新しい有益な情報が入ってきやすくなったり、人の紹介を受けやすくなったりします。

 自分ひとりでネットワークを広げ、他地域のコミュニティの中に深く入っていくのはどうしても限界があります。しかし、仲間と一緒に行動することで、網の目のようにつながりを形成することができ、その結果自身が、じわりじわりとコミュニティ同士をつなぐ存在として認知されていくのです。

 人との出会いは「心理的出不精」を突破する最終兵器です。停滞感を感じる日々に前向きな変化をうながすためにも「他者を移動させる」という観点で多拠点生活を見直してみることをお勧めします。

 ※なお移動に際しては、新型コロナウイルスに関する対策を十分に講じることと、世の中の状況にあわせて適切な行動選択をすることがとても大事になることは言うまでもありません。状況は刻々と変化します。みなさまなりの最善の判断をしながら、みんなの心の中にはびこる「心理的出不精」を打ち破っていきましょう!

※当記事は、上記の日経COMEMOお題をもとに執筆されました。心理的筆不精な私に、言語化のための素敵なテーマ設定をいただき、いつもいつもありがとうございます。

#日経COMEMO #2拠点居住の理想スタイル

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