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新規事業には“何者家”が必要だ

こんにちは。スマイルズ野崎です。

ちょうど先日日経さんからの取材を受けて「新規事業」の話をする機会があったので、今回はそんな新規事業にまつわる話をしたいと思います。

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新規事業の見えない壁

最近は、新規事業開発や新分野開拓のご相談を受けることが以前にもまして増えているように感じます。
今年も続いてはいますが、昨年の混乱期を経て、自社の事業分野の見直しや、持続可能性ある事業運営に向けた危機意識が芽生えたりなど、各社重い腰を上げ始めたのかもしれません。 外部環境のドラスティックな変化が、否応がなしに企業の在り方そのものを問うことになったのかもしれませんね。

また、SDGsやDX、D2Cなどのビッグワードにちなんだご相談も数多く受けます。以前であれば、ビッグデータやAI、IOTなどもそうでしたが、いつの時代もビジネス上の”お題目”(ここでは悪い意味ではありません)が存在しますよね。個人的にはN=1(サンプル数がたった一人=自分あるいは近しい誰か)みたいなスマイルズのキーワードを流行らせたいところですが、なかなか一般のビジネス界では受け入れられないようです(笑)。

各社新規事業開発のために、社内に新規事業開発準備室を設置したり、アクセラレータープログラムを実施したり、あるいは創発スペース(コワーキングスペースやインキュベーション施設)を設置したり、コンサルティング企業などとリサーチやワークショップを試みたりと様々な活動を行っていますが、なかなか簡単には新規事業は生み出されないのが実情です。(一方、SONYさんや富士フイルムさんなど怒涛のように新分野を開拓し続けている企業もたくさんいらっしゃいますが。)

実際に様子を窺ってみると、新規事業の前には数多くの「見えない壁」が立ちはだかっています。

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1.マネジメントのモノサシの壁

 新規事業開発に従事すると、社内での決裁に苦労するということをよく耳にします。決裁判断を行うマネジメント層は、どうしても過去の経験に身を委ねがちです。結果的に自分自身も経験したことのない新しい市場や今までとは違う方法論に対して判断することが難しいわけです。

「知らない=不確実性が高い」ということになってしまうわけですよね。結果的に”これまでの普通”のやり方に埋没し、なんの新しい価値も生み出していないというケースはよくあります。新規事業開発においては、いかにこのマネジメントの”これまで”のモノサシを排除するかが重要な課題となります。

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2.会社と個人のモチベーションの壁

実のところ、新規事業開発の従事者も、会社でさえも本気で新規事業を開発しようとは考えていないなんてことも散見されます。株主への期待値の担保、ESの維持のためのはけ口や、 既存事業におけるストレッチに限りがある中でのなんとなくの蜘蛛の糸感。誰かがやってくれればいいのになぁという主体者になることへの回避思考。やはり本当に危機的な状況や、方や業績好調、イケイケドンドン状態の事業状況など、極端な状況に会社が置かれていなければ、連続的に新規事業を生み出していくことは難しいのが実情なようです。

 だからこそスマイルズの場合は、新規事業を生み出そうとして生み出すことは皆無です。それよりもあくまでも発意を個人に委ねること。それは経営者も一スタッフでも等しくそうであろうと考えています。そんなわけで、弊社のネクタイブランドの事業部長が、のり弁の専門店を始めたりするわけです。「自分がやりたい!」こそが一番大切だと考えています。

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3. 個人の与信の壁

仮に同じ役職、立場だったとしても、あの人の意見はよく通るのに、私の意見はなぜ通らないんだ?なんて悶々したことはありませんか?

会社と言えど、結局は個人の集合体。
その個人に対しての信頼感が重要です。

じゃあその信頼とは何なのか?実行力、熱量、論理的思考、実績、ネゴシエーション力、コネクションなど様々な要因はありますが、とどのつまりは「社会関係資本」の有無こそが最も重要なファクターだと考えています

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これについては後述しますが、新規事業開発従事者は、自分自身にストックされる与信をいかに大きくするかが実行へ向けた最重要課題となります。実のところ、この個人の与信さえあれば、残りの壁は突破することができるんですよね。「あいつなら信頼できるから大丈夫。」なんていう判断が起きてしまう。

ちょっと不公平感もありますが、あくまでも会社と言えど、個人の集合体。“何を”するか以上に、“誰が”やるかの方が重要なわけです。

4.エビデンスのリアリティの壁

とある企業の方から聞いた話です。某有名コンサルティングファームに依頼をし、様々な角度から業界分析やリサーチ、市場の潜在性を測り、自社のリソース分析も行って、新規事業の計画を数百ページにわたる分厚い紙にまとめたが、そのプレゼンテーションの席で、たった数ページで役員の一人から「こんな商品いらないでしょ。」との一言。この方のそれまでの努力を考えると辛い気持ちになります。

既存市場におけるコンプレイン解消型のアプローチをとった場合は少し違う側面もありますが、まったく新しい市場、新しい価値を打ち込みに行こうとしたときは、やはりその不確実性が問題となってくるわけです。そして既存の論理やマーケティング理論がその新市場においても活躍してくれるとは限らない。

そもそもマーケティングの概念は後方指標的です。過去の実例を紐解き、論理的に説明をつけることで成り立っています。即ち、今皆さんが信じている何らかのロジックも過去の誰かの橋頭保から生まれているわけです。そしてその橋頭保は既存の論理を打破したからこそ生まれているわけで。

既存の方法論を使って、なんとか新しい市場に対しての説明を付けることはできなくないですが、「それって本当にそう?」なんて疑わしい目で見られてしまうこともしばしばでしょう。

とある経営者の方が、

「全く新しいものは、それが市場に出てくるまではその商品に対するニーズは存在しない。市場に出て初めてニーズが現出する。」

とおっしゃっていました。

iPhoneが出てくる前に、iPhoneが欲しいと考えていた人は殆どいないということですね。その商品が出てきて初めてむくむくとその欲求が湧きたつわけです。だからこそ、事前の調査で見出しうることには限界があります。逆に中途半端でも市場に打ち込んでみることの方が圧倒的にリサーチになるわけです。エビデンスへのアプローチを根本的に変えていかなければならないんだと思います。

じゃあ、その壁をどのように乗り越えるべきなのか?

新規事業開発担当者が頭を悩ませる最大の課題なんじゃないでしょうか。

例えば、あなたの会社の経営者や創業者は、あなたが何年も社内を説得したにも関わらず未だ産声を上げない新規事業の種を育てるのに四苦八苦している間に、いとも容易く(あなたからすればそう見えているという意味で)新しい事業を立ち上げているなんてことがありませんか?あるいは株式会社守屋実事務所 守屋さん(著名な連続起業家。企業内起業から独立起業まで50以上の起業を行った新規事業開発のプロフェッショナル)のように、一社員であったとしても企業内起業を連続的に行っている方もいらっしゃるかと思います。

どうしたら、新規事業を起こせるのか?

じゃあなぜその方々は新規事業を起こすとができるのか。
「そりゃ自分とは決裁権限が違うからでしょ。」とか、「動かせる金額が違うよ。」なんて思われる方もいらっしゃると思います。しかしながら、それら企業内の立場が規定する要因だけが新規事業を起こせる人と起こせない人を分かつわけではありません。

新規事業を生み出すことができる人が持つ共通要素こそが前述した「社会関係資本」です。これはその人の肩書や役職とは必ずしも関係なく構築する人間関係や信頼関係、持ちつ持たれつな互酬性を生み出しうるネットワークを指します。

あなたは「ごめん、ちょっと手伝ってもらえないかな? ちょっと話を聞いてもらえないかな?」と誰かを頼ったときに、無償で関与してくれる方をどれだけ獲得しているでしょうか?このようなリソースを社内外に抱えているかどうかが新規事業を起こしうる人材となりうるかどうかを分かつ最大要因となると考えています。裏を返せば、先ほど挙げた経営者たちは普段外に向かってコミュニケーションをとることが多いが故に、社内の人材リソースにとどまらず、社外における関係資本も相対的に多くを抱えているわけです。

じゃあこの社会関係資本を培うためにはどうすればいいのでしょうか?

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社会関係資本を培うことができる人は単なる経歴や肩書にとどまらない“なんらかの人”=「何者家」であることが多いです。経歴や肩書は会社が与えるものであったり、必ずしも個人の能力を与信ある形で規定してくれるわけじゃないんですよね。そういったものを除外してなお魅力的な個人であることが求められます。なぜなら社会関係資本とはあくまでも人間関係でしかないですからね。

じゃあその「何者家」になるためにはどうすればいいのか。

「何者家」とは自分の意志で”〇〇した人”です。自分の意志で行ったからこそ、その経験者だけが持ちうる独自の理論やモノサシを具有しうるわけです。その”自分実行”と”独自のモノサシ”が「何者家」さんとなる与信のバックボーンとなるわけです。

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そしてそれらは、あなたの通常業務を”ただ”積み上げるだけでは、ビジネス書をやみくもにただ漁るだけでは獲得できないものでもあります。

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そして、社会関係資本を獲得した人は、そのリソースを用いて更なる実行の可能性を拡張させてくれます。

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すなわち、「実行した人しか実行できない」。

詭弁のようにも聞こえますが、このニワトリタマゴの関係こそが、新規事業の本質だとも言えます。

小さくとも自らの意志によって実行した人だけが、自分だけのモノサシと「何者家」の称号を獲得し、社会関係資本をストックしていく。そしてその関係資本を使って更なる実行を生み出し、新たな「何者家」の称号を獲得する。この無限ループを生み出すことで、社内外に「あいつだったらやってくれる」「あの人がやるならどうにかなるだろう」「あの人の出すものはきっと価値があるはずだ」という無形の信頼を獲得するに至るわけです。

同時に数々の実行経験値がその個人における理論をもより強固にし、実行確度だけでなく、成功確度を高める確実な方法論となるわけです。

ここまで読んでくださった皆さん。

 
そうです。
あとはやるだけです。
小さくても大丈夫。

P.S.
幼少期から、母親に「為すことなくして、成ることなし」。何もしなければ何も起きない。
何かをすれば、何かが起こるかもしれない。だからこそお前は実行者であれ。と言われ続けてきましたが、まさにこう言うことだったのかもしれません。ぼくも「何者家」を目指して、頑張ります!

この記事を書いた人

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野崎 亙(のざき わたる)
株式会社スマイルズ/取締役CCO/Smiles: Project & Company 主宰
京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。3年間で新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。5年間、デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などを担当。2011年、スマイルズ入社。giraffe事業部長、Soup Stock Tokyoサポート企画室室長を経て、現職。全ての事業のブランディングやクリエイティブを統括。外部案件のコンサルティング、ブランディングも手掛ける。


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