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「つながらない権利」はテレワークだけの議論ではない

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

急に寒くなってきましたがまだ布団もスーツも夏仕様です。

さて、昨日の朝の某ワイドショー(?)番組でも少し取り上げられていました「つながらない権利」について書いていきたいと思います。


フランスの「つながらない権利」の内容

「つながらない権利」を定めている代表的な国はフランスでしょう。

フランスでは、労働組合との交渉事項のひとつとして、労働者の休息時間等、私生活等の尊重確保のために、つながらない権利を行使する方法、デジタルツールの使用規制を企業が実施する方法を交渉テーマに追加したというもののようです。

そして、「つながらない権利」について協定がない場合には、企業委員会(従業員の代表と使用者との協議を行う機関)等の意見聴取をしたうえで、「つながらない権利」の行使方法を定め、管理職等に対し、デジタルツールの合理的な使用について教育し、関心を喚起する行動の実施を規定する憲章を作成する必要があるとされています。

つまりは、「使用者から連絡がきても無視していいよ」と法律に権利が定められているわけではなく、「労使間で協議して協定を作りましょう」というものです。

「つながらない権利」の導入はコロナ禍前

日本においては、「つながらない権利」はコロナ禍でのテレワークの普及によって出てきた議論かと思われます。
この点は、昨年の12月に出された「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」の報告書にも表れています。


しかしながら、フランスで「つながらない権利」が導入されたのは、2016年8月です。
つまり、コロナ禍の前に既に導入されています。

フランスでは、「コロナ禍でテレワークが増えたから」という理由で導入されたのではなく、ICT技術の発展によっていつでもどこでもインターネットがつながり、仕事と私生活の境界が曖昧になってきたことが背景にあるとされています。

同じ状況は、コロナ禍前から日本においても長時間労働の問題として当てはまる状況ではあったといえるでしょう。

「つながらない権利」という言葉が独り歩きしていないか

さて、冒頭申し上げた昨日の朝の某ワイドショー(?)番組でも、「つながらない権利があるといえれば、時間外に連絡を拒否しやすくなる」というような趣旨の発言がありましたが、何となく「法律で『連絡を拒否してもいい』と書かれる」ということを想定しているように思います。

しかし、実際に「つながらない権利」を導入しているフランスでもそうした法律があるのではなく、「労使間でそのことについて協議するように」となっているにとどまっています。

「つながらない権利」という言葉が独り歩きしていますが、フランスでも「権利」が法定されているわけではないといえるでしょう。

テレワークと強く結びつけすぎることはかえって問題を矮小化させる

上記のフランスでの議論からもわかるとおり、元来「つながらない権利」は、「テレワークが普及したから必要」という議論ではありません。
「つながらない権利は欧州で一般的」というような風潮もありますが、ドイツでは、「テレワーク権」の導入の議論がある一方で、「つながらない権利」には消極的です。

勿論、テレワークによって、日本でも「つながらない権利」の議論がされたことは良いことでしょう。

しかし、問題の根源は「ICT技術の発展によって仕事と私生活が曖昧になった」ということであり、テレワークに限った事象ではないはずです。

「つながらない権利」をあまりに強くテレワークと関連づけると、柔軟な働き方をするための柔軟な働き方であるテレワークを過剰に抑制したり(もちろん長時間労働は論外ですが)、「テレワークじゃなければ関係ない」と誤解されるようにも思います。

ICTは、柔軟な働き方を進めるものである一方で、常に指揮命令を及ぼすことにもなる諸刃の剣であり、その在り方にはバランスのとれた議論が必要でしょう。

                   以上

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