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2023年M1、トップバッター超面白い問題勃発、「志らく枠」は誰が継ぐ?

今年は12月24日に開催・放送される漫才の祭典M-1グランプリ。島田紳助氏と共に企画をゼロから作った生みの親の、M-1立ち上げ物語。人気番組の裏話を超えて、一つのビジネスプロジェクト物語として面白い。

山田かつてない邦ちゃんの「さや香の最後のネタ全然良くなかった」で締まった2023年のM1グランプリ。Wトップバッターで優勝した令和ロマン、皆さま、お疲れさまでした!

とくに、令和ロマンは芸歴最年少優勝。歴史の時計が動いた音がしました。

18年は久保田暴言問題、19年は上沼大暴走問題、20年はあれは漫才なのか問題、21年は上沼大暴走問題リターンズ、22年は山田かつてない採点問題…毎年何かしら炎上していたM1は、今年も「M-1八百長ドッキリ」が勃発。弄られる度に、ガチでナイツ塙さんが恐縮する事態でした。

23年のM1は志らく師匠の「勇退」に伴い、「上沼枠」として西の姫・海原ともこ姐さんが審査員として加入しました。緊張していたせいか、「よろしこ!」は聞けませんでした。残念。

毎回、データを用いて分析を行い、何かしらのバイアスを浮き彫りにするのが恒例行事だったのですが、23年は少し難しい問題を中心に取り上げます。それは「トップバッターが超面白かったら?問題」「志らく枠問題」です。


①2023年M1の採点を振り返る

まず、23年M1の採点をヒートマップで振り返ります。

上から登場順、左から右へ座席順(2023年)

最低得点は86点(松本人志さんがくらげに対して)、最高得点は98点(山田かつてない邦ちゃんがさや香に対して)でした。

昨年は、邦ちゃんがカベポスターに誰よりも低い84点を付けた直後、真空ジェシカに誰よりも高い95点を付けて大炎上しました。ちなみに、2022年の採点を同じくヒートマップで振り返っておきましょう。

上から登場順、左から右へ座席順(2022年)

ところが、23年も邦ちゃんはシシガシラに対して誰よりも低い87点を付けた直後、さや香に対して誰よりも高い98点を付けても炎上しませんでした。得点差は去年と同じ11点差なんですけど。

恐らくは「84点」という得点が、2019年に松本人志さんがニューヨークに対して付けた「82点」以来の低さだったこと、その後の「95点」という得点の高低差で耳キーンなるわ!と感じた方が多数だったのでしょう。

炎上は、見えやすい、分かりやすい範囲で起こるものです。

ちなみに話は逸れますが、今年も、審査員の平均得点が7人中6人が90点以上でした。内訳を見ると、得点を88点~95点で刻んでいるのが特徴です。

2023点得点箱ひげ図

大吉先生は、今年も強い意志を持って6組が89点~91点。同じく礼二さんも、6組が91点~93点という結果でした。

一方で、毎年得点を分散させているのが松本人志さんです。去年は同じ得点を付けませんでした。86点〜96点まで、ほぼ1点差でキレイに刻みました。なるべく得点の重複が無いように採点されているようで、21年はハライチとももに92点を付けた以外はばらけていました。

ところが今年は、マユリカとモグライダーに91点、シシガシラとカベポスターに88点と直近には無い得点の付け方でした。これは、放送中も何度も言っていたように「令和ロマンが90点」という「基準点がそもそも高過ぎる」問題に起因しているように感じます。


②トップバッターが超面白い問題、勃発

古今東西、漫才に限らず様々な賞レースで「トップバッターは不利」というジンクスは長らく語られてきました。M1でも「トップバッターで優勝したのは01年の中川家以来」という言葉が象徴するように、鬼門と言えました。

ちなみに、21年には東京大学の松山先生の研究によって、全日本吹奏楽コンクールを事例として分析を行った結果、演奏順が後ろであればあるほど有利であるという“overall order bias”と、一つ前の演奏団体のパフォーマンスから影響を受ける“sequential order bias”が存在することが示されました。

では、トップバッターが超面白かったらどうなるのか。このバイアスの壁は壊せるのか。今年含む9年分の最終決戦進出者を振り返ってみましょう。

23年(決勝は10組)は1組目の令和ロマン、5組目のさや香、6組目のヤーレンズが最終決戦進出。

22年(決勝は10組)は4組目のロングコートダディ、5組目のさや香、10組目のウエストランドが最終決戦進出。

21年(決勝は10組)は6組目のオズワルド、8組目の錦鯉、9組目のインディアンスが最終決戦進出。

20年(決勝は10組)は4組目の見取り図、5組目のおいでやすこが、6組目のマヂカルラブリーが最終決戦進出。

19年(決勝は10組)は2組目のかまいたち、7組目のミルクボーイ、10組目のぺこぱが最終決戦進出。

18年(決勝は10組)は4組目のジャルジャル、9組目の霜降り明星、10組目の和牛が最終決戦進出。

17年(決勝は10組)は3組目のとろサーモン、8組目のミキ、9組目の和牛が最終決戦進出。

16年(決勝は9組)は4組目の銀シャリ、7組目のスーパーマラドーナ、9組目の和牛が最終決戦進出。

15年(決勝は9組)は5組目はジャルジャル、6組目の銀シャリ、9組目のトレンディエンジェルが最終決戦進出。

前半組(決勝10組の場合は5組目まで、決勝9組の場合は4組目まで)が最終決戦に挑めたのは27組中10組。どの組も優勝できる実力を持つと仮定するとバランスは偏っているかもしれません。出場者全員の中で何番目かで結果の変わるbias(“overall order bias”)は、もしかしたらある…かもしれません。

また、前の組が次の組に影響を与えるbias(“sequential order bias”)の観点で言えば、最終決戦の進出者の組が続くのが15年、17年、18年、20年、21年、22年、23年と、比較的良く起きているようです。

ただし、これは確率の問題でもあります。10組中、n組目とn+1組目が最終決戦に進出する確率を求め、それが実際と比べて高いか低いか…すいません、確率問題弱くて、誰か求めて欲しいです。

この採点の偏りを防ぐために、2017年から笑神籤が導入されたのではないかと考えるのですが、直近3年間は解消されたような、されていないような。

トップバッターにM1の平均的な得点である90点と付けて、それより面白いか否かで採点すると、「審査員にとってはいまいち」な芸人が続くほど、得点が下がってしまいます。そうすると、今度は得点を下げたいけどこれ以上下げられないという問題が起きます。松本人志さんが、その罠にハマってしまったのではないかと筆者は睨んでいます。

今回、トップバッターが超面白いという事件が起きたおかげで、このバイアスは突破できましたが、逆に言えば芸歴最年少優勝という歴史を刻んだ令和ロマンだからこそ、成し遂げたのかもしれません。

前半出場者が不利にならないような笑神籤とは違う仕組み、考えないといけないかもしれません。(ちなみに論文ではいくつかの案が出ていますが、ベストは無い状態です)


③2023M1「志らく枠」を検証する

さて、今度は採点を「合計得点の高い順」に並べ替えてみます。

上から合計得点の高い順、左から右へ座席順(2023年)

ヒートマップで俯瞰してみると、「合計得点の高い順」に並べ替えても、審査員の得点が高い順に並んでいるように見えます。

一方で、ある特定の審査員のみが高得点を付けている漫才師も浮かびます。合計得点が6位以下で、自身の平均得点を上回っていたのは、邦ちゃんのカベポスター94点やダンビラムーチョ93点、ともこ姐さんのカベポスター95点、松本人志さんのモグライダー91点でした。

ここで思い出されるのが「志らく師匠、訳分らん漫才高得点付けがち問題」です。

志らく師匠の採点の癖は「面白いだけじゃダメで、それを超えて分からない漫才を高得点(96点以上)とする」ことでした。それが18年のトム・ブラウン、21年のランジャタイの好評価につながります。

もちろん、志らく師匠が高得点を付けた人は全組が「最終決戦」に進んでいない…というわけでもありません。「審査員によって好みは分かれるけど、上位は半数から評価されている」のがM1の面白さです。

各審査員の得点順位と、それぞれの合算値を算出してみました。上位3組のいずれかに1位が付いており、上位には上位の理由があると分かります。

合わせて、得点の傾向を主成分分析で見ておきます。

■主成分分析とは…
たくさんある列を、全体が分かりやすく見通せる1~3程度の列(次元)に要約していく手法。この要約は「次元の縮約」という表現で呼ばれる場合もある。要約した合成変数のことを「主成分」と呼びます。
この辺りの実装、何をやっているかよく分からないという方は、7人の審査員の得点を、2列に圧縮したと捉えて下さい。7人でそれぞれ傾向があって分かりづらいのですが「似た者同士の2列」があれば、それを1列にまとめます。7人分のデータ→2つの傾向にまとめて可視化しやすくなったと考えてください。

2023年主成分分析の結果

毎年、志らく師匠と上沼恵美子さんが「真逆の傾向」を示しながら、それでも両方が「面白い」と認めたコンビが最終決戦に進出しておりました。それが去年は、邦ちゃんと大吉先生に。今年は、邦ちゃんと松本人志さんに代わりました。

この採点の幅があるからM1には「意義」があるのです。みんなが面白い、みんなが面白くない10組じゃないのです。

以上のことから、「志らく枠」は山田かつてない邦子さんが後継者と見て良いでしょう。ネットが荒れるから今年は多少セーブしていたかもしれませんが、2024年こそは再び暴れて下さい!


④M-1 2024に向けて

今回もわたしのタイムラインはM1一色となりました。令和ロマンは今後、若手のホープとして2024年は爆発的に売れるでしょう。個人的には三谷後期高齢者と、カンチョウしたは崩れ落ちるほど笑いました。

一方で、今年のM1は開催中殆ど炎上しない(ナイツ塙事件という場外乱闘はあったけれど)という、ちょっと物足りない感じもしました。行儀が良い。邦ちゃん風に言えば「品がある」

なんだか、ネット上では「落ち着こう」「冷静になろう」「丁寧に正解を探そう」としていた感じがします。そんなことより、どうでもいい正解より面白いフェイクを愛そうぜ。以上、お手数ですがよろしくお願いします。

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