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成田の「コロナ帰国ダンジョン」に見る「日本の強み」と現場主義

先日、新型コロナウイルス対応のいわゆる「水際措置」になってから2度目の帰国を経験した。4月初頭から約7か月ぶり、いずれも成田空港第2ターミナルへの到着だ。


成田空港での帰国手続きは相変わらず複雑かつ煩雑で、時間のかかるものであることは半年前と変わらない。言ってみればこれは「帰国ダンジョン」とでも呼びたくなる状況だ。

1回目の帰国については、こちらにまとめてある。


7か月前と比べると、今回は以前にはなかったワクチン接種済みの人への帰国直後の3日間待機免除や14泊15日間の自己隔離を条件付きで短縮できるなど、新たな施策がはじまっており、それに伴う手続きは一層増えていた。

また、デジタル化されているのは「質問票Web」と言われるものだけで前回から内容の更新はなく、他の書式は紙のまま。しかも10月1日から適用される上記のワクチン接種済者への施策の適用を受けるには最新のものへの記入が必要ということで、機内で配布され記入したものの書式が古く、到着後に書き直しとなった。質問票Webのように変更がないものよりも、こうした頻繁に変更される書式こそ、優先的にデジタル化してほしいところだ。

一方で、以前は4つのスマホアプリをインストールしなければいけなかったが、今回これが3つになった。また前回は到着後に記入する必要があった誓約書が機内で配布され事前記入できるようになるなど、多少の改善もみられた(上記の通り結局書き直しの2度手間になったのではあるが、オペレーション上は改善された、と評価してよいのだろう)。

降機直後に、乗客全員を立たせたまま出発国ごとにグループ分けしていた前回に比べ、外交官と船員だけを先に通し、その後は乗客全員で移動しつつ椅子のある場所に行ってから出発国ごとに分けるなど、現場と判断と工夫によるものであろうとみられる細かな改善は感じられた。細かな改善とは書いたが、長時間のフライトで疲れた乗客をどう扱うか、立たせたまま待たせるのと座らせてとでは天地の差があることは言うまでもないだろう。

成田空港でこの帰国の手続きに従事するスタッフは、見たところおそらく多くが正規職員ではなくアルバイトや派遣などの人がほとんどであると思われる。中には「パソナ」と書かれた名札を下げている人も見かけた。こうした業務に携わっているにも関わらず、私の渡航先であるタンザニアがどの地域にあるのか、アジアなのか南米なのかアフリカなのか、ということが分かっていないスタッフもいて、決してこうした分野に明るくない人たちも含まれていることはすぐにわかる。


私自身はコロナ下の帰国は2回目でもあり、必要なアプリのインストール等は事前に済ませてあったので、アプリの動作確認はじめ各チェックポイントでの手続きはすぐに終わったが、慣れていない人には根気強く対応しているスタッフの様子も見られた。これがもし日本以外の国であれば、つっけんどんでやる気のないスタッフに鼻であしらわれるところであろうことは容易に想像がつく。スタッフの中には外国人と思しき人もいて、そういう人も他の日本人スタッフとの違和感なく対応にあたっていた。


このように、現場で解決できるところは解決し、「カイゼン」を図っていくところが諸外国と日本の決定的ともいえる違いであり、日本の長所であるのだと改めて思った。日本が他国より優れているとされることの、少なくても一部は現場主義で得られているものなのだ。

ひるがえって、現場を離れている意思決定層や上層部はどうだろうか。トップ層が決めて公表している「水際対策」が掲載された厚生労働省のホームページは、難解を極める。必要な情報を探すことが大変難しく、検索をしようにも肝心の情報が画像化されていたりして、満足にページ内検索も出来ない。ほんの一例を示しておく(もし執筆時点以降にリンク先をご覧になって、文字画像がなくなっていたら、それは改善されたということだ)。

このため航空会社や旅行会社などが厚生労働省のホームページの、いわば「解読マニュアル」とも言える帰国の手引きページを作っており、これは日本全体として見れば、人手を二重(以上)にかける無駄が発生し、労働時間短縮の旗を振っている厚労省自身が他社他人に無用の労働をさせ、生産性を低下させているということだ。こうしたことが起きている背景には、厚生労働省の上層部は、デジタルリテラシーの低さもあるのだろうが、ひょっとすると、江戸時代の「お触れ」や「高札」を出していた感覚から変わっておらず、どこかに書き出せばあとはそれを見るのは現場・下々の者の責任であると無意識に考えていて、紙で貼り出していたものが単にホームページに置き換わっているだけなのでは、と勘繰りたくもなる。

これは日本航空が情報を整理してまとめなおしたページだ。「検査証明書の不備、不所持により、ご搭乗いただけないケースが発生しております。」とあるが、その責任の一端が厚労省の情報発信の在り方にもあることは否定できないだろう。

下記の社説が指摘している日本の「鎖国」問題も、これは現場の改善では対応のしようがない問題である。すでにコロナ前からではあるが、私が海外の街、特にアフリカを訪れていると「ニーハオ」と声を掛けられることが圧倒的で、「コンニチハ」と言われることはまずないことが、端的に日本のプレゼンスのなさを物語っており、「鎖国」はそれに追い打ちをかけている。


2回の帰国とも、アプリダウンロードの不備など私自身の側の要因での待ち時間やロスはなかった(唯一、検査のために一定量の唾液を貯めることは苦戦したが、これも2回とも同じであった)帰国手続きで、どちらも成田空港第2ターミナル到着であったが、現場のカイゼンの努力にもかかわらず、また他に同時間帯の到着便がなかったにも関わらず、手続きを終えて税関を出るまでに2時間20分と、1回目より20分余分にかかってしまった。

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日本の良さである現場主義を活かしつつ、その良さを最大限に引き出せるトップ・マネジメントの在り方が問われている、ということを改めて感じた帰国だった。

#日経COMEMO #現場主義で得られたこと

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