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1人で開発した「コーヒー店経営ゲーム」が世界的なヒットとなる時代

iPhoneでヒットを飛ばす「コーヒー店経営ゲーム」

iPhone向けの有料ゲームで、米国在住の日本人クリエイターが1人で開発した「Coffee Inc 2」が世界的なヒットを飛ばしている。「アップストア」の有料ゲームアプリランキング1位を獲得し、世界150ヶ国以上で売れている。
開発したのは、野田智博氏だ。18年に「Side Labs」を起業し、ひとりでゲーム開発を始めた。

なぜ、独りで開発したゲームが世界的なヒットにつながったのか。
その理由は様々な要因があるだろう。例えば、デジタル・インフラの発展だ。スマートフォンという世界中で使われるデバイスが普及し、アプリのマーケットは世界中に開かれている。加えて、開発環境も個人でゲーム開発が完結できるほどに整っている。デザインや音楽などはインターネット上に商用利用可能な素材が大量に流通している。つまり、大掛かりな大作ゲームを作りたいと思うのでなければ、スモールスタートで独りでも開発ができる環境が整っている。
しかし、環境が揃っていれば、誰でもヒットを生み出せるわけではない。環境が揃っていることは必要条件だろうが、そのうえでプラスアルファが必要となる。そして、そのプラスアルファのヒントが日本経済新聞の取材のコメントにある。

100人のうち5人に刺さるものを作ろう

日本経済新聞の取材で、野田氏は『「嫌われてもいい、一部の分かってくれる人の心に刺さればという思いでやってきました。その思いがアプリににじみ出ているのかもしれません」』と語っている。

新しい事業を考えるとき、つい、目の前にいる顧客の全員が満足いくようなものを作りたくなってしまいがちだ。例えば、ロボット掃除機を開発するときに「共働き夫婦の掃除が楽になる」だけではなく、「高齢者が踏んで転んだらどうするか」「子供が遊んで壊すかもしれない」「猫や犬の毛が絡まって直ぐに動かなくなるのではないか」と、考え始めるとキリがないほどだ。そうして、ひどい時には新事業のスタートができなくなったり、せっかくの強みとなる独創性が削られて凡庸なプロダクトが世に出ることになる。結局、そうやって世に出たプロダクトは、想定する顧客のイメージがぼんやりとしたものになり、誰もお金を出してまで欲しいとは思わないものになりがちだ。そのため、新規事業では顧客は誰なのかを絞り込み、ビジネスで解決すべき顧客の問題にフォーカスする必要がある。

顧客にフォーカスする方法として、起業や新規事業開発の界隈で使われる「プロダクト・マーケット・フィット(Product Market Fit, PMF)」という概念がある。ウェブブラウザのNetscape Navigatorを開発したマーク・アンドリーセン氏が提唱し、新規事業の成功に欠かせない要素として紹介されている。それは、プロダクトが市場に適合しており、顧客に受け入れられている状態のことを指す。
いきなり大々的に市場にプロモーションをかけて、顧客に受け入れられることができると良いが、実際にはそう簡単にはいかないし、失敗することも考えると大きなコストをいきなりかけることも現実的ではない。そこで多くの場合では、ビジネスの仮説を検証するために、必要最小限の状態で顧客と対話する Minimum Viable Product で市場にプロダクトが受け入れられるのかを確かめる。
この仮説検証のときに大切なポイントが、100人がいたら大多数が望むものではなく、5人程度のごく一部で構わないので熱狂的なファンを獲得できるかだ。そして、この熱狂的なファンを強化し、増やしていくことでPMFを達成することができる。

野田氏の「Coffee Inc 2」に関して言えば、経営ゲームとしてのこだわりの作りこみによって、「一部の分かってくれる人の心」に刺さり、そこから熱狂的なファンが拡散していった。万人受けを狙うのではなく、ごく少数で構わないので熱狂的なファンを作れるかどうかが、小さな企業はヒットを生み出すときに重要な要素と言えるだろう。


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