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ミレニアル世代で広がる高学歴貧困と新投資家層の経済格差

2024年からの新NISA制度では、つみたて投資枠と成長投資枠で年間360万円までの投資を非課税で行うことができ、トータルの非課税限度枠も1800万円までとなるが、その恩恵を最大限に受けられるのは、個人投資家の中でも上位2割の層に限られてくる。日本証券業協会が行った調査では、個人投資家の中で1000万円以上の有価証券(株式や投資信託など)を保有している割合は23.1%となっている。

個人投資家の証券投資に関する意識調査(日本証券業協会)

日本証券業協会のデータでは、日本の成人で株式投資をしているのは約2割。さらに個人投資家のおよそ5割は運用額が300万円未満だが、一方で、純資産額を1億円以上に増やした新富裕層も増えている。20~30代の若い富裕層が増えていることは世界的にみられる傾向である。20年前には、会社を立ち上げて株式上場させることが、富裕層への数少ない道筋だったが、最近では、スタートアップの創業チームに加わっていたメンバーや、副業のスモールビジネスで成功した者、不動産投資で成功した者など、、親の遺産を相続して資産運用する者など、新富裕層のタイプが多様化してきている。

【ミレニアル世代に広がる格差要因】

 若い富裕層の台頭は、同じ世代の中での格差を広げている。米連邦準備理事会(FRB)のデータによると、30~34歳の純資産額は中央値で1.9万ドル(約260万円)だが、上位1%の純資産額は137万ドル(約1.9億円)となっており、同じ年齢層の中でも約70倍の格差が生じている。

米ミレニアル世代(現在の27~42歳)の経済格差を広げる起点となっているのは、学生ローンの重圧である。教育資金問題を研究する Education Data Initiativeの統計によると、米国では大卒者のおよそ5割が学生ローンを利用しており、学士号の学位を取得するのに、公立大学の学生は平均32,880ドル、私大生は42,551ドルを借り入れている。

米国公的学生ローンの貸付残高推移(Education Data Initiative)

これらの学生ローンには貸付金利が発生しており、連邦政府による公的ローンでは年率3.5~5.5%、民間ローンの利用では最大で年率10%を超しているケースもある。そのため、大学を卒業して就職しても、すぐに完済できるどころか、金利によってローン債務が増えていく状況に陥っており、入学から20年経過した時点でも、平均2万ドルを超すローン債務が残ったままだ。

【日本の奨学金負債と高学歴貧困】

 日本では、米国ほど学生ローンの金利は高くないものの、借入金(奨学金)によって学費を賄っている状況は共通している。日本学生支援機構によると、大学生の中で、返済義務のある奨学金を受給している割合は49.6%で、平均借入額は310万円となっている。これを毎月およそ1.5万円ずつ、平均14.5年で返済する計画のため、35~40歳までは奨学金の債務に縛られている。

奨学金は繰り上げ返済することも可能だが、その余裕がある人は少なく、返済中の収入状況は、正規社員として働く平均値は年収437万円、貯蓄額は219万円。非正規社員は年収287万円、貯蓄額は84万円となっている。一方で、奨学金利用者が大学を卒業して成功(出世)したと思える年収の平均値は732万円と回答しており、理想と現実の乖離がみられる。

奨学金や教育費負担に関するアンケート報告書

一方、若くして富裕層の仲間入りをした人の中では、大学中退者が多いという実態がある。大学卒業までにかかる時間と費用、卒業後にサラリーマンとして稼げる年収を計算すると、コスパが悪いことに気付き、できるだけ若い時期に起業しして、そこで得た利益を、次の事業や投資に回してしていくことで富裕層の仲間入りをする構造は、日米で共通している。

大学を卒業することのメリットは確かにあるものの、それが人生成功のパスポートになるわけではなく、現代では学ぶ意欲さえあれば、大学同等の専門知識を習得できる機会はたくさんある。高額の学費を払わなくても、AIを先生の代わりとして学べる時代には、学歴の価値が実質的に下がっていく状況は避けられそうにない。

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