人は「感情という燃料」がなければ動かない
参院選の投票率が、全国で48.8%。前回平成28年参院選の54.7%を大きく下回り、過去2番目の低さになったそうです。50%を割り込むのは過去最低だった7年の44.5%に次いで2回目。
シルバーデモクラシーと言われていますが、前回の年代別投票率を見ると、10代は別にして、やはり20-30代の若い層は投票に行きません。
投票日前もいろんな人たちが「選挙行こう」を訴えていましたけど、そういう理屈とかで訴えても行くはずないよね。
人間の行動を理屈とか、意志とか、道徳教育で動かせると思っている人があまりに多すぎです。そんなもので動くはずがありません。動く人はいないということではなく、理屈とか意志とか道徳倫理感で動いていると思っている人でも実は違う燃料で動いているのです。
その燃料こそ感情です。
拙著「ソロエコノミーの襲来」にも書きましたが、意志の力で行動しているなんていうものは大抵勘違いですから。
駅や公園のトイレに「トイレをきれいに使いましょう」とか貼り紙ありますが、そんなの効果ないことはみんなよくわかっていますよね。そもそも汚い状態であるのに、キレイにしようって言われても意味がわかりませんよね。
あれ、有料のトイレで、いつもメチャクチャキレイに清掃されているトイレなら、人は汚く使えないのですよ。だって、汚くしたら、「あいつが汚くした」って言われるリスクがあるから。「キレイにしましょう」というのは「キレイにしなくていい」という行動を喚起してしまうだけで、「キレイのまま」だったら「キレイにしましょうなんて言わなくてもキレイに使う」のです。
とはいえ、女性は男がなぜ小便をまき散らしてしまうのか、理解できない人も多いと思います。ちゃんと狙っているの?と。
そういう男に「ちゃんと狙え」と言っても無駄です。「汚くしないで、掃除が大変なんだから」と怒っても、ぱっと見、納得したように見えても、馬耳東風です。
男に小便器をキレイに使わせるならこうすればいいんです。
小便器にハエの絵。
こうすると男どもはハエに狙いを定めておしっこしてくれます。
これが行動心理学、行動経済学における「ナッジ理論」と言います。ナッジとは「ひじで軽く突っつく」という意味で、人が何かを選択する際、よりよい選択につながるよう選択構造を提示する手法である。シカゴ大学の行動経済学者リチャード・セイラー氏(2017年にノーベル経済学賞を受賞)とハーバード大学の法学者のキャス・サンスティーン氏が提唱しました。
「選択構造の提示」というと難しいですが、要するに「行動のお膳立て」ということです。
同様な事例は他にもあります。彼らが提唱したものではありませんが、随分前に海外で実施された例。
「街中をキレイにしよう」なんて言っても誰もゴミ拾いはしませんよね。でも、ゴミ箱にバスケットゴールを付ければ、必ず入れるようになります。それどころか、皆がわざわざ嬉々としてゴミを探し出して、ゴミ箱に入れます。
ナイキの事例。
トイレでも街でも「きれいにしよう」なんて言ったところで効果はありません。「選挙に行こう」がどれだけ無意味な投げかけかおわかりになると思います。人の行動を喚起したいのなら、ハエやバスケットゴールというアイデアが必要だし、それらよって人に感情という燃料を与えないと動かないのです。
これはマーケティングでも同じことです。ご興味あればぜひ「ソロエコノミーの襲来」をご覧ください。
未婚化だ、少子化だ、人口減少だ、と騒ぎ立て、「結婚しなさい」「子ども生みなさい」という投げかけもまったく一緒で、何も行動を喚起しません。「結婚しないと国が滅ぶ。なぜなら…」みたいに理詰めで説明したって、全く無意味なのです。
子どもに「何度言えばわかるの?」と叱る人がいますが、何度行ってもわからなくて当たり前です。大人だってわかんないんですから。理屈を言うより、動きたくなるお膳立てを考えてください。