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人気爆発中の「那吒2」を観てきました。100億元を超えアニメ映画での金字塔を達成する一方で中国映画の悲惨な現実にも注目が
那吒2(ナタ)こと、「哪吒之魔童闹海」が中国でのチケット販売枚数で歴代1位の記録を塗り替え、100億元も突破。勢いが全く止まりません!
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公開からわずか8日で中国の歴代一位を達成。中国映画史の興行収益ランキング第1位になっただけではなく、『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』(北米累計興行収益9.35億ドル)を抜き、世界の単一市場における最高興行収益記録を塗り替えたことも中国では話題になっております。
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中国国内でしか観られてないはずなのに、世界で大ヒットした名だたる映画作品たちと競い合ってるって、どういう状況なのかよくわからなくなります。
実はボクも春節休みの間に観に行きましたが、人気すぎてとにかくチケットが高かったです苦笑。制作のクオリティーが非常に高いと前評判だったので、良い映画館でより良いスクリーンで見たくて、選んでたら値段がだいぶ高くなりました。
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連休で過去最高を塗り替え、落ち着つくかと思いきや、春節連休明けてからも止まらない勢いで興行収入が伸びています。中国の映画興行収入予測プラットフォームで初めて100億元との予測が出た時、みんなそれを信じなかったです。いくら売れても100億元なんて予測モデルがバグったじゃないの?との声もありました。
ただ、100億元を突破しても勢いはまだまだ衰えるところを知らず、あまりにも人気。最新のAI予測によると160億元も狙えると分析されていることや、映画館数が少ない地方では2000人規模のホールで上映するところも現れ話題となりました。
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ちなみに前作の那吒1「哪吒之魔童降世」は50.35億元で、当時は中国のアニメ映画市場に革命をもたらしたと話題でした。
あれから4年半。ときが経つのは早いです。
この那吒2(ナタ)の快挙は素晴らしいことで、SNSでも”爆”をつけるほどの盛り上がり。日本のメディアでも取り上げられていますが、実は中国のアニメ映画が思ったほど伸びていないことも中国では密かに話題になっています。少し紹介しましょう。
■中国アニメ映画の現状は…
今回の大ヒットで盛り上がっていて、日本でも中国アニメの素晴らしさを讃える記事をいくつか拝見しました。それは良いことではありますが、忘れてはならないのが2024年の中国アニメ映画の成績です。トータルの興行収益は28.75億元、しかもそのうち約20億元が『熊出没・逆转时空』からのもので、興行収益1億元を突破した作品はわずか2作品でした。
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一方で2024年の輸入アニメ映画は15作品が興行収益1億元を突破。「哪吒」が1,2の合計で150億元を突破しているというのに、ほとんどの中国アニメ映画は1億元の興行収益を超えることができていない現実なのです。
■なぜ国産アニメ映画が全然ヒットしないのか?
ボクもたびたびnoteで中国アニメを紹介してきましたし、那吒1の公開後は中国アニメの可能性にポジティブな考え方を持っていました。それは2015年の『西遊記之大聖归来』以降、トップクラスの中国アニメは興行収益、品質の両方で急激な成長をみせていたからです。
しかし現実は甘くなかった。これは题材の偏りやビジネスの問題も影響しているとの分析もあります。
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中国アニメ映画は神話や伝統的な物語に頼ることが多く、近年は「孙悟空」「哪吒」「白蛇」「杨戬」などのキャラクターを主役にしたアニメ映画が次々と登場しているが成功する作品は少ない。つまり、資本(制作側)とマーケット(視聴者の望む作品)のギャップが激しいのです。
伝統的な題材のアニメ映画は、広い観客層にリーチできて大衆市場を開拓する効果的な方法と認識されていますが、結果として套路に陥っています。しかも、中国アニメ映画興行収益TOP20の作品を見ると、20作品のうち10作品が神話や伝統的な物語、歴史文化の改編。残りの10作品のオリジナル作品のうち8作品は「熊出没」シリーズで、純粋なオリジナルアニメ映画は「大鱼海棠」と「深海」の2作品だけ。
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哪吒2の成功は、伝統的な題材の改編アニメが観客に好まれるという印象を市場関係者に与えてしまい、中国アニメ映画の題材の同質化をさらに強める可能性も懸念されています。
また、ビジネス展開がいまいち推進できていないことも課題としてあげられていました。哪吒は多くの企業とのコラボレーションを通じてIPライセンスを展開していますし、日本のアニメIPや国内二次元ゲームIPなどは製造が追いつかないほどバカ売れしているものもある一方、中国アニメのIP派生商品はまだまだ未成熟な状態。
グローバルでは成功の基準の一つとして、IP派生商品の収益がIP総収益の30%以上を占めると言われておりますが、中国アニメの派生商品収益は全体の5%以下にとどまっているとも分析されています。
今回のナタ2しかり、調べたらナタ1すらもまだ日本版がなく、日本でアクセスできる配信サイトでのリリースもまだだそうです。中国のアニメ制作の最先端クオリティーと中国市場に広く評価された記録を作っている作品だからこそ、日本語バージョンも早めに出てほしいですし、日本以外への海外展開を頑張ってもらいたい。
日本企業で海外のコンテンツ調達に努力している方々はいるとは度々報道されていますね。
那吒2(ナタ)、とにかく話題の人気作なので、関連議題も様々な方向に展開しています。またテーマ別で紹介したいと思います。ぜひフォローしてお待ち下さい。
(参考資料)