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アルムナイ・ネットワークについて「ふるさと」と「社会関係資本」の観点から書いてみる

お疲れさまです。uni'que若宮です。

「カムバック採用」「アルムナイ」が注目を集めています。今日はこうした人材プールのメリット/デメリットとこれからの人材活用について思うことを書きたいと思います。


「アルムナイ」への期待

リクルートがカムバック採用支援サービス「Alumy」を発表しました。

『Alumy』が生まれた背景には、日本の労働力人口の減少があります。人材の価値が高まり、中途採用が今後一層難しくなっていく中、限りある人材に最大限活躍してもらいたいという企業が増えています。そこで、「サステナブルな人材獲得チャネル」として退職者のカムバック採用にスポットライトが当たりました。
そして、転職活動者から見ても、約半数にのぼる47%(※)が「転職後も転職前の会社と接点を持ち続けたい」とかつて働いた会社との関係性継続を求めており、企業との中長期的な関わりを通じたキャリア形成を希望していることが分かります。

その他の企業でも「アルムナイ」ネットワークへの期待は増加しているよう。

退職者との協業・再雇用に乗り出す企業は増える傾向にある。労働市場に関する調査をしているパーソル総合研究所の一昨年の発表によると、何らかの形で退職者の出戻り制度を設ける企業は約9%。従業員規模5千人以上の大企業では約20%にのぼった。
 ハッカズーク代表取締役の鈴木仁志さん(43)によれば、特に新型コロナウイルスの感染拡大後、退職者に関心を持つ企業が増え、「オフィシャル・アルムナイ」を利用する会社は20年以降の1年で約3倍となったという。

人材の流動化と終身雇用制度の崩壊、そして全体としての労働力の減少(とくに若年層の人口減)を背景に、企業が一度は退職した人でも受け入れようとするのは理解できます。

かつて終身雇用が前提であった頃には、転職者は「裏切り者」のように思われていたこともありました。結婚に例えるなら婚姻中に他の相手を探して、他に好きな人ができちゃったから別れてほしい、といったらちょっと「裏切り者」感があるかもしれませんね。

しかしこれも、徐々に変わってくるでしょう。

結婚が一回だけというのが前提だった頃、離婚は「✗(バツ)」と言われ失敗のように扱われるところがあり形見が狭かったですが、今ではだいぶ前向きに捉えられるようになってきました。同じようにそもそも人生が100年になる時代に終身雇用が成り立たないなら、その時々で何度かパートナーを選び直すということはどんどん当たり前になってくるでしょう。

むしろ結婚と比べると仕事の方がより流動的かもしれません。企業の状態も働く側のキャリアプランも変化していくものですし、婚姻においては子供がいる場合など離婚しても責任関係が残ることもあるのに比べると、雇用関係はそうではありません(雇用者よりは被用者が保護されるので解雇には制限がありますが)から、お互いのタイミングで(特に問題や関係悪化なくとも)職を変えるというのはそれほど珍しいことではなくなるでしょう。


「ふるさと」としての企業?

関係というよりは場の比喩でいうと、企業を「ふるさと」のようなものだと考えたらどうでしょう。

僕も地方出身者ですが、人は必ずしも生まれた地だけで一生を送るとは限りません。交通の便やインターネットによる交流機会が増えた今となってはむしろ生まれ故郷を一度も出ない人の方が少数派ではないかという気がします。新卒入社の企業を「ふるさと」のようなものだと考えると、そこを出ることはかなり当たり前に思えてこないでしょうか。

かつては地方出身者が大都会に出ると「あいつは東京に魂売った」「地元を捨てた」とか言われるようなこともありました(笑)から、「ふるさと」を出る場合も若干の「裏切り者」感がありました。
しかしある程度流動性が高まり外に出る人の方が多くなると、「裏切り者」というよりはむしろ「ふるさと」の側から「Uターン」施策などでラブコールが送られるようになります。「ふるさと」の場合には両親がいたり地縁があったりとつながりが残っているケースも多いのでそれと比較するとやや弱いものの、企業でも「古巣」という言葉が使われるように、一度就職した企業には他の企業とはちがう特別な思い入れが生まれるようです。

地方への「Uターン」と同じく、全く知らない人を呼び入れるよりは(一度出た人であっても)関係が濃いため、呼び戻しやすくなります。せっかくの古い縁を遠ざけるより生かそうというわけですね。


アルムナイのメリット(「Uターン」の場合)

単に連絡をとりやすい、呼び戻しの声がかけやすい、というだけではなく、企業にとって「アルムナイ」の「Uターン」を促進することには両者にとっていくつかのメリットがあります。

①企業のカルチャーとのフィットやバリュー共感の精度が高い
②相手のスキルや業務の進め方がわかっている

これら2つは全く外の人だと未知数であり、面接を重ねてもわからないところがあるので、期待値のすり合わせとしてたいへんに有利です。「ふるさと」でも食文化や気候が合わないなどのリスクはそこで育った人の方が低く居心地の良さを感じる可能性が高いと思いますが、こうした文化的なフィット感は非言語的要素も多くいくら事前に言葉で説明しても共有しづらいからです。

また業務遂行面でもやはり企業によって独自ルールや社内の通し方など「中にいたからこそ」かゆいところに手が届くというところもありますし、すでにスキルがわかっていれば(スキルの見極めや育成をした上でアサインを考えるより)いわゆる「即戦力」になりやすいメリットもあります。

もちろんこれはお互いにカルチャーやスキルがマッチしていた場合で、「思ってたのと全然違ったわー」となって離れた場合や、人間関係でのしがらみが嫌で離れた場合には、「地元に戻りたくはない!」ということもあるでしょう。しかし、たとえUターンをせずとも、アルムナイにはメリットがあります。


アルムナイのメリット(遠くにありて思う場合)

「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という詩歌もありますが、Uターンで戻らずともアルムナイのメリットはあります。むしろUターンするケース以上にこうした「弱いつながり」の方が役立つことも多いのではという気がします。

③関係や思い入れがあるので、他よりも融通してくれる
④一方、地元にいるしがらみはないので半分客観的に意見がもらえる

上で引いた週刊朝日の記事中から引用すると、

「目指すのは、会社と退職者の『終身信頼』関係。ベネッセの事業は、OB・OGとの協業の上に成り立つものも少なくない。退職者をパートナーや協力者ととらえる視点を大切にしたい」と話す。
「皆さん、今でも会社への愛着を持っている。客観的な目線で会社に対して意見を言ってもらえるのもありがたい」

退職者がUターンせずとも「パートナー」や「協力者」になることは多くあります。さらにいえば、④「中にいるしがらみ」がないので、ある程度ニュートラルに協力関係を築くことも可能です。「ふるさと」の魅力に外に出たからこそ気づくこともありますし、「ふるさと納税」(これはすでにほぼふるさと関係無くなってる問題もありますが汗)のように外にいればこその手助けもできるでしょう。

僕もいま古巣DeNAのVC・Delight Venturesでも複業的に働いていますが、

「告白すると、(社員たちを)絶対に外に出したくないと考えていた」」という南場さんもいまは「ザクロ」というたとえを使って、卒業生を強く応援しています。「思い切りザクロをひっくり返そう。閉じ込めるんじゃなく開放しよう」

もちろん、リクルートやP&G・マッキンゼーなど卒業生たちが「マフィア」と呼ばれるような企業ではアルムナイのネットワークは昔からあったわけですが、さらに積極的に旅立ちや外での活躍を卒業後にもより後押しすることで、「ふるさと」にとってもポジティブな効果が生まれるということです。(スポーツ選手の活躍によってふるさとが盛り上がるように)


「社会関係資本」を高める

これはたとえ離れても、その「つながり」が資産になり、企業にとってプラスにはたらく、ということです。

以前こんな記事を書きましたが、

これから企業が継続的に価値を創出していく上では、「経済資本」だけではなく、「社会関係資本」や「文化資本」のような資本の捉え方も重要になってくると思います。

この意味ではアルムナイのつながりは「社会関係資本」として企業にとっての資産を高めるものです。アルムナイが活躍しブランド価値が向上したり、業界でのプレゼンスやネットワークを持つようになれば、(もう雇っていないにも関わらず)「古巣」にとっても資産の増大となります。

かつてドラッカーは、

「人こそ最大の資産である」という。「組織の違いは人の働きだけである」ともいう。事実、人以外の資源はすべて同じように使われる。
マネジメントのほとんどが、あらゆる資源のうち人がもっとも活用されず、その潜在能力も開発されていないことを知っている。だが現実には、人のマネジメントに関する従来のアプローチのほとんどが、人を資源としてではなく、問題、雑事、費用として扱っている。
人を資産として財務諸表に計上すべきであるとの最近の提案の底には、このような認識がある。
もちろん、人を資産として記載することはやさしくない。資産とはその性格上、処分することが可能であり、清算するとき価値を持つものである。人は、企業の所有物ではない。売れないものは資産ではない。調練による利益の測定方法など、実務上の問題もある。しかしそれでも、この提案には見るべきものがある。

といいました。たしかに「人は資産」とか資源とか言われることはあるものの、経済資本的な見方でいえば、それは「費用」にしか見えませんし、辞めてしまった時に関係が切れるとゼロクリアされるものであり、「資産」だと考えづらいかもしれません。資産や資源であれば、企業活動の中でそれを増やしたら、売却して経済的価値を交換できるからです。

経済資本のみで人を捉えると「コストを掛けて育ててやったのに辞められたらその投資分がゼロになる」と思ってしまうかもしれませんが、関係資本として捉えれば、(関係がマイナスにならない限り)辞めても引き続き資産として頼れるものですし、かつ本人が活躍することで勝手に増えていきすらします。

アルムナイネットワークは「社会関係資本」を増やすために有効であり、またその視点をもって(喧嘩別れのようにならないように)、社員を育成し、良好な関係で送り出すことがこれからは大事なのかもしれません。

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